英国の近代アートにおいて、知名度、権威ともにナンバー1の「ター ナー・プライズ」。しかし、2008年にリバプールが欧州文化都市となることを祝し、23年間の歴史上初めて、ロンドンではなくテート・リバプールで候補者の展覧会と授賞式が行われるとあって、実際に鑑賞に行けない人も多いのでは?そこで、4人の候補者がこの展覧会のために用意した作品と、選考対象となったエキシビションを一部紹介。12月3日の受賞者発表前に、ターナーが誰の手に渡るか予想してみては?(本誌編集部: 國近絵美)
ターナー・プライズとは?
1984年に「一般市民が新しい美術に関心を持つようになる」ことを目指して設立。07年現在、賞の対象者は50歳以下の英国籍、あるいは英国で活躍しているアーティストとされ、90年を除き、毎年4人のアーティストがノミネートされてきた。「ターナー」は18~19世紀に活躍した英国を代表する画家、J・M・ターナーの名にちなむ。
「物」が発する声に耳を澄ますアーティスト
ザリーナ・ビーミ Zarina Bhimji
1963 Uganda生まれ
1982-83 Leicester Polytechnic
1983-86 Goldsmiths' College, University of London
1987-89 Slade School of Fine Art, University College London
このエキシビションで展示されている写真とビデオ作品は、どれもウガンダ生まれのビーミが90年代後期から行ってきた、東アフリカに関する大規模なリサーチから生まれたものだ。不安感をあおるほどの空虚さや、人工的なまでに生気を失った風景を写す彼女の写真は、「空間」がかつて持っていた匂いや温度、音や雰囲気を伝えるドキュメンタリーとしての存在、そしてその空間がもうどこにも属していないというセンチメンタルな感情を持ち合わせている。それは社会や生活の一部であった物や場所が発する残像や声を見逃さない、ビーミならではの鋭く繊細な視点があってこそ捉える ことができる風景なのだろう。
また、彼女が3年前に訪れた工場で撮影されたのが、隣室で上映されているビデオ作品「Waiting」だ。サイザルと呼ばれる、ロープの原料となる麻を扱うこの工場では、労働者たちの顔が写されることはない。それゆえ、せっせとサイザルを加工していく手からは、物を大量に生産しては消費していく人間たちが、「街」という有機体に住み着くパラサイトであるかのような印象を受ける。この35ミリフィルムで撮影された後に高解像度のビデオに転写されたという映像では、扇風機にはためく埃、漆喰の壁に空いた穴、それらを照らす、屋根の隙間からこぼれる強い日差しといった何気ない風景が、詩のようなリズムと美しさで展開されていく。そしてその美しさの陰に、現代社会が持つメランコリーが強く滲む作品だ。
Illegal Sleep 2007 © Zarina Bhimji. DACS, London 2007 Photo: Courtesy of the artist and Haunch of Venison, London
Shadows and Disturbances 2007 Courtesy of the artist and Haunch of Venison, London ©Zarina Bhimji. DACS, London 2007
空間の魔術師
マイク・ネルソン Mike Nelson
1967 Loughborough生まれ
1986-90 University of Reading
1992-93 Chelsea College of Art and Design, London
ロンドン在住
出展作品: AMNESIAC SHRINE or The misplacement (a futurological fable): mirrored cubes - inverted - with the reflection of an inner psyche as represented by a metaphorical landscape
「記憶喪失の神殿、あるいは間違って置かれた物(未来学的な寓話):精神を比喩的な風景として『あべこべに』反射させた鏡張りの箱」という、とてつもなく長い、立派なタイトルを付けられたこの作品。狭い展示スペースに入る と、部屋の中心には焚き火のインスタレーションが無造作に置かれている。燃えあとの残る木は本物だが、火はプラスチック製で、明らかに偽物。解釈に困ったまま、そそくさと次へと移る他の観客と一緒に隣の部屋に入ると、今度は床から天井まで続く箱が4つ並んでいる。それぞれの箱に空いた穴をのぞくと、そこには砂と小さな電球で出来た夜の砂漠のような空間が、鏡張りの壁に反射して無限に広がっている。人工的な美しさはあるものの、4つのどの箱も、中身は同じ風景。箱と箱の狭い間を縫って次の部屋に行くと、最初の焚き火のインスタレーションに戻っている。しかし、「なんだ、これだけか」とあなどるなかれ。これは実は最初に入った部屋ではなく、全く別の部屋なのだ。もう一度箱の部屋に入り、来た道を戻ると、ちゃんと最初の焚き火の 部屋に戻っている。
デジャヴの様な錯覚を人工的に造り上げたこの作品は、ある空間の中にさらに異なる空間を作ることで、観客を一瞬のうちに独自の世界に引き込んでしまうネルソンの実力が見事に現れた傑作だろう。観客に「ギャラリーで作品を鑑賞している」という自己意識と、作品を理解する時の無意識の状態を行き来してほしい、という本人の希望が見事に達成されている。鑑賞後に、膝をたたいて「まいった!」と言いたくなる希有な作品だ。
代表作: AMNESIAC SHRINE or Double Coop Displacement
ネルソンが90年代後半から登場させている、元湾岸戦争の従軍兵が結成したという想像上のバイカー集団、「Amnesiacs(記憶喪失)」シリーズ。SF小説や音楽、映画、歴史や神話など、あらゆるものからインスピレーションを受けるという彼の作品の多くは、観客がそれぞれのフィルターを通して理解し、作品同士をつなぎ合わせていくことが要求される。※この作品は今回のエキシビションには含まれていません。
代表作: Mirror Infill
この暗室は06年のフリーズ・アート・フェアで、目立たないようにギャラリー・スペースの間に設置された。あまりにもリアルな部屋に、多くの観客はこれが作品であることに気がつかなかったとか。※この作品は今回のエキシビションには含まれていません。
壁に空いた穴をのぞくと、上の砂漠のような風景が広がるAMNESIAC SHRINE or The misplacement (a futurological fable): mirrored cubes - inverted - with the reflection of an inner psyche as represented by a metaphorical landscape 2007 ©Mike Nelson Photo: Photography: David Lambert & Rod Tidnam, Tate
AMNESIAC SHRINE or Double Coop Displacement, Matt's Gallery, 2006 ©Mike Nelson Courtesy the artist and Matt's Gallery, London.
Mirror Infill, 2006 Commissioned and produced by Frieze Projects ©Mike Nelson Courtesy the artist and Matt's Gallery, London
アートを武器に、現代社会を斬る
マーク・ ウォリンジャー Mark Wallinger
1959 Chigwell, Essex生まれ
1978-81 Chelsea School of Art, London
1983-85 Goldsmiths' College, University of London
ロンドン在住
出展作品: Sleeper
英国の階級社会にシニカルな笑いを持って対峙し、歪んだ社会構造に疑問を投げかけるアーティスト、マーク・ウォリンジャー。彼が今回の展示作品に選んだのは、04年に製作したビデオ1本のみだ。そして真っ暗闇に設置されたスクリーンに映るのは、素人っぽい、手ぶれしまくりのカメラワークでクマの着ぐるみを着た本人を追ったドキュメンタリーである。
ガラス張りのモダンな建物の1フロアを行ったり来たりするクマを眺めているうち、観客が実際にパフォーマンスに参加することなく、事後報告のようにアイデアを見せられるのは果たしてアートなのか、と疑問が浮かぶ。しかし頭が重いのか、うつむき加減でうろうろと不格好に歩くクマ(実際、とても足が短い)を見守っているうちに、「偽物」に隠れながらも、アーティストの動揺、孤独などがひしひしと伝わってくる。時おり通行人が立ち止まっては、建物の中でうなだれているクマを見て笑い去っていく。ガラス張りということは、その対象が望むが望むまいが、傍観者は興味がある時にだけ見る、ということだ。時々、観客に向かって両手を挙げたり、四つん這いになったりするクマは、おどけているのか威嚇しているのか分からない。しかし、クマがたとえ助けを求めようと、観客はその滑稽な外見に、ただただ笑うだけだ。
パフォーマンス自体はとてもシンプルで、説明も一切ない。しかし「異質」なものへ社会が持つ固定観念を見せつける、力強い作品だ。ちなみに、クマはこの作品が撮影された地、ベルリンの街のシンボルである。
代表作: State Britain
ウォリンジャーがターナー賞候補に挙がるきっかけとなったのが、テート・ブリテンでのこのエキシビションだ。2001年6月からイラクへの経済制裁、そしてそれに続く戦争に反対し、パーラメント・スクエアで現在も1人で座り込みを続けているブライアン・ホー。彼が抗議活動に使った、支援者たちから贈られた看板や横断幕などは、反戦抗議を行う団体を締め出すために06年に英国政府が作った法律によって警察に没収されてしまった。このエキシビションでは、その没収された600個ものオリジナルの看板などを、15人のアシスタントと共に半年かけて、約9万ポンド(約2070万円)を費やし、40メートルにもわたるディスプレイとして再現してある。ホーの反戦運動をそのまま作品化したこのエキシビションは、「これがアート?」という疑問を抱かせつつも、ホーの運動と思想を広く社会に浸透させることに貢献したことに変わりはない。※この作品は今回のエキシビションには含まれていません。
Sleeper 2004-5 ©Mark Wallinger
State Britain, 2007 Installation view at Tate Britain ©Mark Wallinger Photo: Sam Drake, Tate Photography
「外観」が表す「内面」に注目
ネイサン・コリー Nathan Coley
1967 Glasgow生まれ
1985-89 Glasgow School of Art
グラスゴー在住
出展作品: There Will Be No Miracles Here
コリーの作品には、英国人の政治や価値観、そして信仰心などを、建築や公共のスペースがどのように象徴しているのかを考えさせるものが多い。今回の展示を見ていると、なかでも建築物がいかに人や社会に活力を与えたり、あるいは力どうしを衝突させたりするかに興味があるようだ。
広い空間にぽつんと置かれたこのインスタレーションは、元々は森や空き地など、野外で展示されていたものだ。「ここでは奇跡は起こらない」というネガティブなメッセージを電球を使ってポップに訴えることによって、英国らしいブラックなユーモアが表現されている。白い壁に囲まれたキューブの中で、そこだけ明るく輝く「嘘っぽさ」に思わず意味を求めてしまうが、野外で見ないことには、作品本来の力が発揮されないのかもしれない。
また、コリーの展示スペースは、2本の「敷居」のスカルプチャーによって仕切られている。これは自身が造り上げた「神聖なる空間」と外界とを遮り、区別するという役割を持つそうだ。日本人には馴染み深いが、敷居自体が英国人の概念にはあまりないらしく、つまづく人が続出していた。しかしこれもアーティストの望むところで、観客がこれを跨いだり足を引っかけたりすることで、「無意識に」彼の空間を通り過ぎることができないようするのも目的の1つなのだとか。
代表作: Camouflage Church
厚紙で造られたこの教会は、シナゴーク(ユダヤ教の礼拝堂)、モスク・バージョンもあり、いずれもストライプに塗られている。「美しい」というだけで芸術作品を賞賛することは、とても危険なことだと語るコリーにとって、アイデアを交換し議論を交わすことが、「次世代アート」なのだという。※この作品は今回のエキシビションには含まれていません。
There Will Be No Miracles Here 2006 Courtesy of the artist, doggerfisher and Haunch of Venison, London ©Nathan Coley . Photo: Photography: David Lambert & Rod Tidnam, Tate
Camouflage Church, 2006 ©Nathan Coley Courtesy doggerfisher and Haunch of Venison
左)Hope and Glory 2007 Courtesy of the artist, doggerfisher and Haunch of Venison, London ©Nathan Coley . Photo: Photography: David Lambert & Rod Tidnam, Tate右)Annihilated Confessions #2 (Black) 2007 Courtesy of the artist, doggerfisher and Haunch of Venison, London ©Nathan Coley
歴史を知って未来を読む!ターナー・ プライズ回顧展
英国のモダン・アートが、レベルも社会認識も米国や欧州に比べ遅れをとっていた80年代に制定されたターナー・プライズ。紆余曲折を経ながらも、世界を先導する近代アートの地となりつつある英国で、この賞が現在持つ意味とは?過去23年間の受賞者、22人の作品を集めたテート・ブリテンの回顧展で、その意義を探ってみよう。
ターナー・プライズ誕生の記念すべき年の受賞者は、マンハッタン在住の英国人アーティスト、マルコム・モーリー。しかし「過去12カ月で英国アート界に最も貢献したアーティスト」であることが審査基準だったため、メディアはもちろん、米国に移住してから26年間、数えられるほどしか英国に滞在していなかったモーリー自身もととまどいを隠せなかったという。

©the artist
ホッジキンは、インスタレーションが主流の現代アートの中で、ターナー賞を受賞した数少ない画家の1人だ。彼は賞について「アントニー・ゴームリーのようなアーティストが大衆に受け入れられるようになったのはこの賞のおかげだと思うけれど、近代アートがポピュラー・アートになっている最近の傾向は少し危険だと思う」と語る。

©the artists. Photo:
J Fernandes & S Drake
英国現代アートにおいて先駆者的存在なこの2人は、アート学生時代に出会い、意気投合。当時素材を買う金がなく、体に絵の具を塗り自分たちを彫刻に見立てることを始め、それ以降、自分たちを作品に投影させてきたという。

©the artist
1984年にもノミネートされたスカルプターのリチャード・ディーコンは、若い観客がアートを日常的に鑑賞するようになったことにおいては、ターナー賞は多大なる貢献をしたと評価する。「この賞のおかげで、アートが急にセクシー なものに変わったんだ」とコメント。
世間の関心を得るに至らず、スポンサーが確保できなかったために賞を開催できなかった90年から一転し、この年からチャンネル4が完全にバックアップすることが決定。スターが司会を務める授賞式の模様がテレビ中継されると、突然国民的な一大イベントとなる。また、この年から50歳以下という年齢制限が審査条件に加えられ、当時37歳のカプールをのぞき、候補者が全員20代という前代未聞の年となった。

©the artist
この年、過去に人気ポップ・デュオ「KLF」として活躍していた現「Kファンデーション」が、その年の「最低のアーティスト」にターナー賞の賞金の2倍である4万ポンド(約920万円)を贈呈すると発表した。ターナー・プライズを受賞したレイチェル・ホワイトリードがこの賞にも選ばれたが、最初は賞金の受け取りを拒否。しかしKファンデーションが賞金を燃やすパフォーマンスを計画したため承諾し、全額チャリティーに寄付したという。

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牛を切断しホルムアルデヒト漬けにした受賞作品への賛否両論はともかく、保守的な傾向の強かった英国において、アートを一般人の会話レベルにまで持って行ったハースト。1988年、彼がまだ学生だったころに倉庫を使ってエキシビションを催し、これをきっかけにアーティスト達がオルタナティブなスペースで展覧会を企画するというスタイルが広まったということでも英国アート界に大きく貢献している。彼はターナー賞を「テートとチャンネル4の金儲けのためのメディア・サーカス」と呼ぶ。

©the artist
23年の歴史の中で、3人しかいない女性受賞者のうちの1人がウェアリングだ。前年の候補者が全員男性であったことに対する非難を受け、この年のノミネート4人全員が女性となり、この選択も「逆差別」と議論を呼んだ。
血のついた下着や使用済みコンドームが転がるベッドの作品で、一躍「セレブ」入りしたトレイシー・エミン。この年は受賞者よりも、彼女が受賞を逃したことの方が話題を呼んだ。結局、賞は斬新な映像作品を創り上げたスティーブ・マックイーンの手に渡った。

©the artists. Photo:
J Fernandes & S Drake
ティルマンズは受賞するにあたって、英国メディアによってゲイであることとドイツ人であることを非難されるのではないかと心配していたという。しかしそれは杞憂に終わり、「英国では、成功した外国人に対して好意的なんだね」と喜びを語った。
5分おきに付いたり消えたりする照明──この全てを削ぎ落としたクリードの受賞作品に賛否両論が交わされたのはいうまでもない。ノミネートが発表され、エキシビション・スペースが与えられた時も、複数の作品を展示するようにとのプレッシャーがあったという。

©the artists.
きっとターナー賞授賞式の歴史上、最も壇上に上がることを楽しんだのがペリーだろう。自分のもう1人の人格「クレア」として、少女趣味なドレスを着て登場したペリーは、一夜にして英国で最も有名なトランスヴェスタイトとなった。「クレアとしての自分を世界に見てもらえたのは、政治的なことも含め、本当に貴重な体験だった」 という。

©the artists. Photo:
Kunstmuseum Basel,
Martin Bühler
ドイツのライン川で見つけたという小屋は、展示の際「観客に破損される危険がある」とキュレーターから注意を受けていたというが、メディアの酷評とは反対に、観客からはこの作品がきっかけとなって創られた詩やビデオが送られて来たりと、温かい称賛を得た。スターリングは「英国の観客は昔よりも洗練され、アートに貪欲になっている」とコメント。

©the artists.
2人目のドイツ人、3人目の女性、4人目の画家としてターナー賞を受賞したアブツ。英国の文化について「全てポップ・カルチャーに帰依しているようだけど、それは英国以外では考えられないことだ」 と語る彼女は、受賞する前は自身の作品が大衆受けするものでないためメディアの反応が怖かったと いう。
テート・リバプールのキュレーター、 ローレンスさんインタビュー
今回のテート・リバプールでのエキシビションの全てを取り仕切ったといっても過言ではない、キュレーターのローレンスさんに話を伺いました。
Laurence Sillarsさん
職業: Exhibitions and Collections Curator
──さっそくですが、4人の候補者のうち、お気に入りのアーティストはいますか。
いいえ、職業柄、特定のアーティストをひいきにすることは出来ないのです。どのアーティストに対しても平等に製作過程を助けたり、どうすれば作品をベストな状態で展示することが出来るのかを考えるのが私の仕事ですから。
──現代社会やアーティストにとって、ターナー・プライズの重要性はどういった点だと思いますか。
コンテンポラリー・アートを軸に、社会問題や政治などが討論されるのは、とても意義のあることだと思います。そしてこの賞は、アートがポップ・カルチャーの1つとして、深く人々の生活に浸透するきっかけになったのではないでしょうか。
──しかし一方で、候補者達がメディアから一種のセレブ的な扱いをされたり、過剰な議論が一人歩きしたりもしていますよね。
確かに、ターナー・プライズがアーティストに与える影響は大きいです。しかしだからといって、アーティストたちがノミネートされたいがために一般受けする作品を創ったり、話題作りのためだけに過激な作風にしたりする、ということはまずないでしょう。それに多くのアーティストにとって、賞を獲得することはもちろん、テートの広大なスペースに作品を展示すること自体が大きな魅力となっているようです。
──その年によってアート界に大きな流れがあるとしたら、2007年はどういった特徴がありますか。
全体的に、国としてのアイデンティティであったり、国際紛争、宗教、権力といった、現在の社会において重要な問題を反映した作品が多いのではないでしょうか。
──ずばり、今年の勝者を予想してください。
毎年予想しては外れているから、教えられないですよ(笑)。後は4人の審査員たちに任せましょう。今年は例年以上に悩むことでしょうね!
| TURNER PRIZE | |
| 期間 | 08年1月13日まで |
| オープン | 火~日10:00-17:50 (12月24~26日は休館) |
| 入場料 | 無料 |
| 住所 | TATE LIVERPOOL Albert Dock, Liverpool L3 4BB |
| 最寄り駅 | Liverpool Lime Street駅 |
| TEL: | 0151 702 7400 |
| Website | www.tate.org.uk |
| TURNER PRIZE: A RETROSPECTIVE | |
| 期間 | 08年1月6日まで |
| オープン | 10:00-17:40(入場は17:00まで)12月24~26日は休館 |
| 入場料 | £9~11 |
| 住所 | TATE BRITAIN Millbank London SW1P 4RG |
| 最寄り駅 | Pimlico駅 |
| TEL: | 020 7887 8888 |
| Website | www.tate.org.uk |
●12月3日(月)にリバプールで行われるターナー・プライズの授賞式は、チャンネル4にて中継される。また、受賞者が発表される前の11月26日~29日までの期間中、同じくチャンネル4で、候補者たちのオリジナル・フィルムが放送されるのでお見逃しなく。



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F&Mと言えば紅茶にスイーツ。もはや英国みやげの代名詞とも言えるこれらの商品が一同に介するのがGround Floor。以前よりも空間に余裕を持たせ、整然とした配置になっているのが嬉しい。品格漂うダークグリーンの紅茶の定番パッケージが、現在は銀色をメインに、アクセントでブランド・カラーの青みがかったグリーン「Eau de Nil」を使ったニュー・デザインに。年末年始の、いつもとは一味違うおみやげにいかが!?
扉を開けるとまず出迎えてくれるのが、クリスマス・デコレーション。ツリーに馬車、サンタクロース。奇抜なものはないけれど、欧州でこの時期を過ごす喜びが感じられる、伝統的なクリスマスの姿がここにはある。色とりどりのマカロンでつくられたタワーや砂糖菓子のデコレーション・ケーキには子供も大喜び。
そして紅茶と並び、F&Mの主力商品とも言えるハンパー。300周年を迎える今年は特に種類が豊富。全部で38種類のハンパーが、恭しく鎮座している。別欄でご紹介している300周年記念の「The Tercenturian」(2万ポンドなり!)はもちろんのこと、「The Imperial」「The Winsor」など、商品名からして気品漂うハンパーの数々は、購入することはできなくても、見ているだけでもワクワクしてくる。



今回の改装で一番の変化を遂げたのがここ、地階。上から覗き込めば、彩りも鮮やかな野菜や果物が顔を出す。正面奥には高級感漂うデリカテッセンと、肉や魚、チーズのコーナーが。左手にはワイン・コーナー。その隣には創立年を冠したバー、1707ワイン・バーがあり、コーナーにあるどんな商品でも一律10ポンドの持ち込み料プラス小売価格で楽しむことができる。
毎年クリスマスが近付くと人々の話題となるのがF&Mのハンパー。日本で言うならば、年末年始の福袋?今年のハンパーは全部で38種類。その中でも驚きなのが、一つ2万ポンド(約474万円)の「究極」のハンパー、「Tercenturian」だ。3種類の異なるフルーツ・ケーキから成る3段重ねのケーキ、ジェロボーム社のシャンペン、300年記念シャンペン・トリュフ、カシミアのマフラーなどなどが入ったこのハンパー、注文するともれなくF&Mの専用馬車でご配達。包みを開ける前からスペシャルなひと時は始まっているのだ。
F&Mではその昔、すべての届け物を馬と馬車を使って行っていた。その伝統を継承し、F&Mでは今でも希望により馬と馬車を使った配達を行っている。そのお値段は受け取り人一人につきなんと1000ポンド(約23万6500円)! 下手したら買った商品よりも配達料の方がずっと高くつく、さすがの高級サービスだ。
チャールズ・ディケンズと言えば、「オリバー・ツイスト」や「クリスマス・キャロル」など、貧困層の人々の生活を臨場感あるタッチで描くことで知られる大文豪。そんなイメージからすると意外や意外、彼は高級感漂うF&Mの大ファンとしてとみに知られる人物だった。彼は世界的競馬大会、エプソン・ダービーについて、次のように述べている。「ほら、見てごらん。フォートナム・アンド・メイソンが見える。どのハンパーも悠々と広げられていて、芝生の上にはロブスター・サラダが咲き誇っているかのようだ」。ディケンズのほか、米国生まれ英国育ちの人気作家、ヘンリー・ジェイムズなども同様にF&Mのファンだったというから、当時から知的階級に愛される、気品漂うデパートだったのだろう。



伝説のジャズ・シンガー、エラ・フィッツジェラルドの生誕90年を祝い、数々のトリビュート・アルバムも発売されている今年。フェスティバルのオープニングとなるこの日は、国際的に活躍するアーティストが共演、それぞれが持つ「伝説」へのトリビュートを捧げる。今年はロンドン・ジャズ・フェスティバルも記念すべき15周年を迎え、「ダブルおめでた」が重なったことから、実に豪華なプログラムが実現した。参加アーティストは、英国のR&B界を代表する若き実力派歌手のジャメリア、そして「英国ジャズ界のファースト・レディー」と称されるシンガー、クレア・マーティン、3.5オクターブの美声を持つアーモンド・マカモントなど。
米国人トランペット奏者・作曲家のジョン・ハッセルは、エレクトロニクスを積極的に使うことにより「第4世界」と呼ばれる音楽スタイルを創り上げた、ワールド・ミュージック・シーンの立役者だ。米国のミニマリズムの流れを汲んだ、彼独特のハスキーでむせび泣くようなトランペットの音色、そして民族音楽風のパーカッション、さらに「Windows 95」の起動音を作曲したミュージシャン、ブライアン・イーノのシンセサイザーを加えた実験的なアルバムでは、環境音楽をメイン・ストリームに変えるという偉業を成し遂げた。東洋と西洋が溶け合った、音楽というよりも「アート」に近いハッセルの演奏を体験してみよう。
ジョン・ダンクワース 1927~
革新的な音楽性、そして他の追随を許さない演奏技術により、数々の名曲を生み出してきたピアニスト・作曲家のチック・コリア。ジャズを基本に、ボサノヴァ、ロック、クラシックなどの要素を取り入れた演奏が彼の持ち味だ。一方、「ザ・職人技」でバンジョーを自在に操る天才プレイヤー、べラ・フレックは、意外性と想像力で、この楽器の限定されたジャンルを解き放った先駆者である。1994年以降、何度か一緒にステージを踏んで来たこの各界を代表する2人が、 今年初めてデュオ・アルバムを完成させた。ラテン、ゴスペル、ブルーグラス、ジプシー音楽がミックスされたというこのアルバム、2人の超絶技にもだえよう。
チェット・ベイカー 1929~1988
カリブ音楽の発展に大きく貢献したジャマイカ出身の伝説的なギタリスト、アーネスト・ラングリンは、50年代後半にジャマイカで大流行した「スカ」の誕生を導いたキー・パーソンでもある。当時、アメリカン・ジャズの影響を受けたジャマイカのR&Bバンドでシャッフル・ギターを演奏していたアーネストは、ギターのカッティングに一呼吸の間を取り入れ、これがスカの独特のリズムにつながったという。レゲエとジャズを融合させることに成功した稀有なアーティストのライブでは、太陽をたくさん浴びた音に出会えるはず。
米国のサックス奏者・作曲家であるジョシュア・レッドマンは、世界を舞台に活躍するサックス奏者のデューイ・レッドマンを父に持つ、ジャズ界のサラブレッド。91年のデビュー以降、すでにチャーリー・へイデンやチック・コリアなど、数多くの大御所たちとの共演も果たし、現在は2つのバンド・リーダーとしても活躍している。プリンスからビートルズ、はたまたロック、ファンクからエレクトロニカまで、どんなジャンルでも自分色に染めてしまえる若き天才だ。一方、今年デビュー・アルバムを発売し、早くも「ブリティッシュ・ジャズ史上、最も重要なバンドの1つ」と称される若手バンド、エンピリカル。手に汗握るような疾走感、そして独創的なコンテンポラリー・ジャズには、観客もインスパイアされるはず。
英国の若手ジャズ・プレイヤーを発掘し世界に発信するインディペンデント・ジャズ・レーベル「Dune Music」の設立10周年を記念して、2部にわたって行われるコンサート。第1部では、ニューオリンズで活躍するトランペット奏者、アブラム・ウィルソンとロンドン・コミュニティー合唱団が「Roll Jordan Roll」を演奏する。この曲は、テネシー州で開放された奴隷たち11人が集まって結成した「フィスク・ジュビリー・シンガーズ」(コラム「ゴスペル」を参照)の物語を唄ったもの。第2部の「Tighten Up」では、カリブ海出身の先鋭ジャズマンたちが作曲家、ゲイリー・クロスビーにトリビュートを捧げる。豪華なスペシャル・ゲストを迎え、スカ、ブルー・ビート、レゲエが入り混じるスコアを演奏。このジャマイカン・スターたちの豪華共演は、じっと座っていられないほどエキサイティングなものになるはずだ。
もしソニー・ローリンズが存在しなかったならば、現在のジャズは一体どういうものになっていたのだろう。現在の「ジャズ」という音楽、そして演奏スタイルを確立した人物の1人であるサックス奏者のローリンズは、ジョン・コルトレーンやコールマン・ホーキンズと並んで「テナー・サックスの巨匠」と称される生ける伝説だ。40年代後半から、マイルズ・デイビスやマックス・ローチといった偉大なミュージシャンたちとレコーディグをしてきたローリンズが、このライブではビーボップやソウルフルなバラード、カリプソなどを演奏する。77歳になってもエネルギッシュなライブで観客を魅了するローリンズを、生で聴くことが出来る貴重なチャンスだ。
エラ・フィッツジェラルドの生誕90周年を記念したプログラムから始まったこのフェスティバルを締めくくるのは、同じくジャズ界の重鎮で、奇しくも今年生誕90周年を数えるセロニアス・モンクへのトリビュートだ。10日間にわたる熱狂的なジャズの宴のクロージングに相応しく、英サックス奏者、トニー・コフィが率いる7ピース・バンドが3セッション、約6時間というスケールで、モンクの作曲した全70ナンバーを演奏する。モンクが残した即興創作精神を受け継ぐコフィが、その日、その場でしか聴くことのできない魂の音楽を奏でてくれる。

シャーロック・ホームズが活躍する冒険譚は、1887年に発表された「緋色の研究」から1927年の「ショスコム荘」まで、40年にわたり60編(4つの長編と56の短編)が刊行されています。最初の2作「緋色の研究」と「四つの署名」を除く、58作すべてが月刊誌「ストランド・マガジン」に掲載されました。事件の舞台はヴィクトリア女王の大英帝国が最盛期を迎え、それゆえに社会のひずみが犯罪を生み出していた19世紀末。ホームズは1881年に出会った相棒のワトソン医師とともに、ロンドンのベイカー街221Bに拠点を構え、次々と事件を解決していきます。1891年に「最後の事件」で宿敵のモリアーティ教授と決闘して行方不明になりますが、3年後に「空家の冒険」で帰還。1903年に引退してからは、一度だけ第一次大戦前にドイツの諜報網と戦ったのを除き、サセックスの丘で養蜂をしながら暮らしています。
ホームズの生みの親、アーサー・コナン・ドイルは、1859年にエディンバラで生まれ、イエズス会系のストニハースト神学校からエディンバラ大学医学部に進みました。ここで出会ったジョゼフ・ベル博士がシャーロック・ホームズのモデルとなります。父親がアルコール依存症だったため家は貧しく、ドイルは捕鯨船やアフリカ航路の汽船に船医として乗り込んで家計を支えましたが、この時の体験が後の創作に役立ったのです。やがてポーツマスで開業、その傍ら、小説を書き始めます。ホームズが人気を博すと作家に専念するものの、歴史小説家を自認するドイルはホームズが煩わしくなり、決闘させて葬ってしまいます。しかし読者からの激しい抗議、そして出版社の説得によって、しぶしぶホームズを復活させました。ドイルの歴史小説「白衣の騎士団」や「勇将ジェラール」は忘れられ、皮肉にもシャーロック・ホームズやSF「失われた世界」(映画「ロストワールド」の原作)がいまだに読み継がれています。現実社会でもジョージ・エダルジ事件などで被疑者の冤罪を晴らすために、ホームズばりの推理で尽力。晩年は、第一次大戦で息子を失ってから心霊学に傾倒し、1930年に71歳で没しました。
オックスフォード・ペーパーバックスからは、本家英国の知識を結集した「詳注版シャーロック・ホームズ全集」が出ています。物語のすべてのキーワードに註釈がついており、例えば人名や地名が出てくれば、それが実在か架空か、実在ならその説明を、架空なら関連のある候補を、それぞれ詳述しています。またワインや食事が出てくれば、そのヴィンテージや料理法まで紹介されるという具合で、ホームズの世界を身近にリアルに体験することができます。
フランクリン・ ルーズベルト米国 大統領、トルーマ ン同大統領は熱心なシャーロキアンとして有名。SF作家のアイザック・アシモフは「黒後家蜘蛛の会」にシャーロキアンを登場させていますし、現パリ大司教は「ブラウン神父とホームズ」という論文を発表しています。さらに「ナルニア国物語」の作者C・S・ルイスもホームズを愛読していました。また喜劇王チャップリンの初舞台はロンドンで演じられた「シャーロック・ホームズ」です。





2. トレードマークの鹿撃帽とインヴァネス・ケイプの記述は原文にはありません。「ストランド・マガジン」誌に掲載された際に挿絵を描いたシドニー・パジットがつけ加えたものです。
5. 当時のベイカー街は85番地までしかありませんでした。ホームズが住んでいたとされる221番地が登場したのはベイカー街がアッパー・ベイカー街と一続きになった1930年のことです。






排気ガスを排出する車以外の交通手段をもっと利用してもらおうと、ニュー・フォレストでは電車で来た人に様々な特典を与えている。例えばゲストハウス「Rufus House」では、当日付けの最寄駅までの電車切符を受付で見せれば、宿泊費の1割を割引。他にもホテルでのマッサージや、カフェで紅茶1杯を無料で提供するなど、同地では電車利用者に対して様々な特別サービスを用意している。
ニュー・フォレストでは、80以上の宿泊施設が集まって「グリーン・リーフ・ツーリズム・スキーム」と呼ばれる環境プロジェクト・チームを結成。リサイクルの方法などに関する情報交換を行っている。
ニュー・フォレストでは電気自動車の普及にも力を入れている。市内で現在利用されているのは12台。今後はより多くのホテルに専用の充電所を設けることを検討中だという。また低排出ガス車をベースとしたバス交通網の整備や、自転車の貸し出しも行っている。
ニュー・フォレストでは、今では世界規模で流行している エコ運動にもう20年も前から取り組んでいます。ここでは観光が4億ポンド(約880億円)の収入をもたらす、地元最大の産業なんです。そしてだからこそ、観光客と住民、そして地元企業すべてが満足できるような環境政策の仕組みを考案 する必要があります。
ロンドンを始めとする英国内の多くの地域においては、近年までゴミの分別回収が行われていない場所がほとんどだった。英国では日本のようにゴミの焼却処理を行わず、ほとんどの場合がそのまま埋め立て処分となっているため。ただ最近になってロンドンではバーネット区、ハックニー区などそれぞれの行政区が独自にゴミのリサイクルを義務付けた取り決めを実施している。この動きに伴い、それぞれの区は異なる色のゴミ袋やゴミ箱の配布を始めたため、市民の間でもゴミ分別の習慣が浸透してきた。
忙しいパリジャンにとって車は生活必需品。パリでは車の交通量が年々増え続け、排気ガスによる公害が問題視されている。そこで現地では7月から、最初の30分は利用料が無料の自転車貸し出しサービス「Velib」がスタート。天気の良い日には、1日の利用者が10万人を超えるまでに定着した。さらに以前は1乗車1チケットだった路面電車の乗車切符が、乗車後1時間30分は有効となり、利用者は路面電車とバスを使った乗り継ぎ移動することが可能となった。
進行中のグルネル計画
3. コーヒー・タイムには、紙コップではなく、自分のマグカップを持参する。
話題の自転車貸し出しサービス「Velib」についてはもう皆さんご存知だと思います。私はまだ利用したことはありませんが、環境に優しくしかも人間にとっても健康的で、非常に良い企画だと思いませんか。私はパリ郊外に住んでいるのですが、この計画が上手く進み、パリ市内だけではなく郊外にもどんどん広がってくれればうれしいですね。
セーヌサンドニ

再生可能エネルギーの使用を全使用電力の50%とする低エネルギー住宅への改築を計画している場合には、市が最高8000ユーロ(約130万円)の補助金を出している。また暖房の補完などに太陽光発電設備を作る場合も助成される。
CO2の削減が重要な課題であるとして、同市議会はCO2排出量を1992年比で少なくとも30%削減する目標を決議。企業のみならず、家庭から出るCO2量の削減につなげようという「CO2ダイエット計画」を推進している。同プロジェクトは3段階に分かれており、まず①インターネットのサイト上で自分のデータを入力して排出量を算出。傾向を把握したうえで、②CO2削減策が提供され、③さらに気候保護プロジェクトへの参加や出資など、CO2排出量をゼロにもっていくような提言がなされる、という仕組みだ。
フライブルク市は1970年代に原発建設の構想が持ち上がり、 市民運動によって建設をストップさせたドイツで最初の自治体です。それゆえに環境に対する市民の意識は非常に高いのです。
永住権・市民権とは
それでは早速、問題にチャレンジしてみよう。ここでは英国の内務省ほかが発表している例題を掲載した。設問は本番と同じ24問で英語での出題、そして制限時間は45分。それでは、開始!
7. Who is the current heir to the throne?
15. Where is the Prime Minister's official home in London?
19. Which of these statements is correct?
本誌に連載中のコラム「
「裸のランチ」で知られるデービッド・クローネンバーグ監督の新作は、ヴィゴ・モーテンセン(ロード・オブ・ザ・リング)やナオミ・ワッツ(キング・コング)、ヴァンサン・カッセル(オーシャンズ13)らがロンドンの血生臭い闇社会に生きるロシア系マフィアを描く、犯罪スリラー作品。米ローリング・ストー ンズ誌の2005年のBest Filmトップ10で堂々の1位に輝いた前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」に続き、監督とヴィゴが再びタッグを組んでいる。先月行われたトロント映画祭では、最高賞にあたる観客賞を受賞した注目作だ。
米国のアフガニスタン侵攻をめぐり、3つのストーリーが絡み合う社会派映画。主要キャストのロバート・レッドフォード、メリル・ストリープ、トム・クルーズの3人は、計21回のオスカーのノミネートを受け、4回のオスカー受賞経験がある「ザ・ハリウッド」集団だ。
1940年前後、日本軍占領下の上海と香港が舞台となったこの作品は、今年度のベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した注目のサスペンス・ドラマだ。総制作費40億円、しかも監督は「ブロークバック・マウンテン」でも同賞を受賞、さらにアカデミー賞監督賞も獲得したアン・リーとくれば、かなりのクオリティーが期待できる。
シンガー・ソングライターの神様的な存在、そして「時代の声」と称されたボブ・ディラン。詩人として、ノーベル文学賞にノミネートされたことすらある。才能の多彩さゆえに、カメレオンのように複数の人格を演じてきた、ドラマティックな人生──これは6人のキャストが1人の天才を描く、異色の作品だ。
長編デビュー作「Thank You for Smoking」で抜群の笑いのセンスを見せたジェイソン・ライトマン監督の新作は、10代の少女の妊娠騒動をめぐるブラック・コメディーだ。主人公のジューノ役を務めるのは、「X-MEN: ファイナル・ディシジョン」や「ハードキャンディ」で複雑な役柄を演じ、20歳ながらすでに10年近い演技歴と大物の貫禄を持つエレン・ペイジ。彼女の鮮烈な、そして良い具合に力の抜けた演技は一見の価値有り。
ベン・アフレックが初の監督に挑んだ意欲作。先月フランスでプレミア上映され好評を得たこの作品だが、5月にポルトガルで4歳の英国人、マデリン・マッカーンちゃんが宿泊先から姿を消した失踪事件と内容が酷似しているため、現在、予定されていた英国での公開が配給元の判断により中止されている。
西部開拓時代を生きた伝説の悪党、ジェシーが手下のロバート・フォードに暗殺されるまでの日々、そして彼の生き様とその裏側にある本当の姿を描く西部ドラマ。ブラッド・ピットがカリスマ的な極悪人を好演、ベネチア国際映画祭で主演男優賞を獲得している。
伝記映画「バスキア」で監督デビュー、2002年の「夜になるまえに」では、ベネチア国際映画祭で審査委員グランプリを受賞したジュリアン・シュナベール監督。彼女の新作は、実在したフランス人ジャーナリストの奇跡的な半生を映画化したもの。
オティリアを演じるアナマリア・マリンカは、英国アカデミー賞テレビ部門で主演女優賞を受賞したこともある、注目のルーマニア人女優。この映画で、ルーマニア作品は実に11年ぶりにカンヌ国際映画祭のコンペティションに選ばれ、パルムドール賞を受賞した。
ドキュメンタリーの面白さ、そして何よりも「映画で現状を変えることができる」ということを世界に再認識させたマイケル・ムーア監督。かなりゴリ押しでテイストが強いため、ドキュメンタリーとしては珍しく、そのスタイルにはっきり好き嫌いが分かれるのも事実。しかし、米国の銃社会の真実を追った「ボーリング・フォー・コロンバイン」、そしてイラク戦争に真っ向から反対した「華氏911」の公開後に世界各国の観客が見せた諸問題への危機感と関心の高さから、監督の確かな実力が伺える。全米の医療業界で「マイケル・ムーア対策マニュアル」なるものが制作されたという今回の作品も、米国での公開後、来年の大統領選候補者の多くが「公的健康保険の導入」を公約に掲げ始めたという影響力の強さを見せつけた。
「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」で世界中にコアなファン層を獲得したウェス・アンダーソン監督の新作。大学時代に監督とルームメイトだったというオーウェン・ウィルソンとは、これでコラボ4作目となる。メイン・キャストは他に、エイドリアン・ブロディ(戦場のピアニスト)、 そしてアンダーソン・シュワルツマン(マリー・アントワネット)といった、演技派だけど、かなりアクの強い面々。アンダーソン監督らしい、周りに馴染めない、ちょっと変な人間たちを皮肉を交えながらもコミカルに演じている。脚本はアンダーソン、シュワルツマン、ローマン・コッポラ(フランシス・F・コッポラの息子で、ソフィア・コッポラの兄。シュワルツマンは従兄弟にあたる)の共同執筆というから、それだけで期待大だ。
「暴力映画は撮らない」と宣言してしまったギャング映画専門の監督キタノ・タケシ。なんとか話題作を創ろうと、いろんなジャンルに手当たりしだい挑戦するが、どれもことごとく失敗に終わる。そんな時、開き直ったキタノの脳裏に閃いたのは……?監督の映画に対する愛を盛り込んだ、笑いと衝撃のエンターテインメント作品。
海外映画祭での受賞が相次ぐ映像作家、園子温が作り出す異様な世界と、髪フェチを演じる大杉漣の怪演に釘付けになること間違いなしの、パニック・ホラー映画。ある日、美容師を目指す優子が働く美容室に、奇妙な男がエクステを売りに来る。しかし、そのエクステを身につけた女性たちが、次々と怪死し始め……。
周防正行監督が「Shall We ダンス?」から10年ぶりに制作した待望の新作。フリーターの金子徹平は、朝の通勤ラッシュで混雑する電車に乗り、身に覚えのない痴漢容疑を掛けられる。誰も彼の言葉を信じてくれず有罪判決が下るが、金子は無実を証明するために戦い続ける。第80回アカデミー賞外国語映画部門にエントリーされたドラマ作品。
90年代初頭、とある田舎町・松ヶ根で警察官をしている光太郎は、退屈な町の生活にうんざりしていた。しかしある日、流れ者のカップル、みゆきと祐二が松ヶ根にやってきてから事態は一転する。何か訳ありらしい2人の出現をきっかけに、ひき逃げ、金塊騒動、ゆすり、床屋の娘の妊娠と、町の平和に波風が立ち始める。
「萌(もえ)の朱雀(すざく)」でカンヌ国際映画祭新人監督賞を史上最年少で受賞した河瀬監督は、この作品で今年度の同映画祭にて、審査員特別賞を受賞した。軽度の認知症を患うしげきは、33年前に亡くなった妻の思い出と共に、奈良県の山間地で静かに暮らしている。新しく介護福祉士としてやってきた真千子と次第に心を開き合っていくが、ある日、2人は深い森に迷いこんでしまう。
前作「ピンポン」で独特な映像感覚を見せた曽利監督は、今回「3Dライブ・アニメーション」という世界最先端の技術で映像表現の限界に挑む。2077年、日本がハイテク技術を駆使して鎖国を強行してから10年が経つ。実情をさぐるため、米国特殊部隊のベクシルは日本に侵入するが、そこにあるのは荒涼とした大地だけだった……。全世界129カ国での公開も決定。
自閉性障害や知的障害を負う者が、数学や芸術などの分野で常人では考えられないような驚異的な才能を発揮する場合がある。サヴァン症候群と呼ばれるこの特異な能力を持って生まれた英国人男性による自伝「僕には数字が風景に見える」が今年6月に日本で出版されて以来、この不思議な現象に改めて注目が集まっているという。ハリウッド映画「レインマン」の主人公を彷彿とさせる著者は、イングランド南東部ケント州に住むダニエル・タメット氏。「英国のレインマン」と呼ばれる同氏が、電話インタビューに答えてくれた。
「数字は僕の友達です」と語るダニエルさんには、私達の目を通したものとは違った形で数字が見えている。例えば「37」は、「お米みたいにつぶつぶの形」をしている。「89」と聞けば、空からポツリと降ってきた小雪のような風景を思い浮かべるという。さらにはそれぞれの数字の性格まで把握しているというから驚きだ。「11」はフレンドリーだけど、「5」は何だかうるさい奴らしい。「最も好きな数字は、物静かで恥かしがり屋の『4』。シャイなところが、自分にそっくりだから」。ダニエルさんの口からは、おとぎ話の世界の住人を思わせる言葉が次々と飛び出してくる。
ダニエルさんも、このサヴァン症候群の例に当てはまるとされている。ただ映画の中の、首を斜めに傾げながら脈絡のない言葉を何度もせわしなく呟くように繰り返すあのレインマンを想像してしまうと、期待は大いに裏切られる。ダニエルさんは、まるで詩を朗読するかのようにゆっくりと優しく話すからだ。しかも想像力を喚起するような、美しい言葉を好んで使う。落ち着きのある低い声で、上品な英語を操りながら詩的な言葉を所々に挟み込んでいくから、彼の言葉そのものが詩の一節みたいなのだ。思わず聞き惚れてしまいそうになる。
ダニエルさんが映画版レインマンと異なるもう1つの点は、自分自身が何を考えて、そしてどう感じるかをきちんと第三者に説明できるということ。これはダニエルさんの自閉症状がごく軽度なものであるためなのだが、特異な能力を発揮するサヴァン症候群を抱える人間の中では非常に稀なケースだといわれ、医学研究機関から調査対象として引っ張りだこだという。「僕の場合は自閉症といっても軽度なので、ほとんど普通の生活を送ることができます。確かに、人が大勢集まるスーパーマーケットのような場所には気持ちが不安定になってしまうので行けないし、車の運転も絶対にできない。でも僕は自分がどういう環境を苦手とするかを知っていて、そういった場所を出来るだけ避けて毎日を過ごす方法を学んだので、特別な不便さはもう感じないのです。むしろ、いわゆる健常者でもなかなか実現できないような素晴らしい人生を送ることができていると思っています」。
ただ「誇り」を感じるまでには、長い道のりがあった。幼少期は、とにかく異常なほど泣いてばかりで家族を心配させた。そして4歳の時に、突然てんかん発作を起こす。ダニエルさんのご両親にとって初めての子供であったということと、今ほどてんかん発作についての予備知識がない時代の話。生命の危険についての心配はもちろん、周りの子供との明らかな違いに大いにうろたえた両親の間には、しばしば激しい口論が発生した。ダニエルさんは、隣の部屋から「ダークブルーな声」が聞こえると、地べたにしゃがみ込み頭を地面につけながら、両手で耳を塞いで時がただ過ぎるのを待ったという。
こうした社会活動を通して出会った人物の中で、ダニエルさんが特に印象に残っている人物がいる。ダスティン・ホフマンが演じたあのレインマンのモデルとなった、キム・ピークさんだ。米国のユタ州ソルト・レーク・シティ生まれのキムさんは、現在55歳。脳梁(のうりょう)欠損症と呼ばれる左右の大脳をつなぐ神経繊維が欠落した疾病ほか脳の各所に障害を負っている一方、1万2000冊もの本の内容を記憶しているという、まさに天才である。「英米のレインマンを会わせよう」というテレビのドキュメンタリー番組の企画によって、2人の会見が実現した。「彼との出会いは非常に印象深かったので、自伝の中でも1章をこのテーマだけに割きました。彼とは『通じ合う』という感覚を共有することができた気がするんです」。キムさんはきっと、ダニエルさんが1人で孤独に抱えてきた感情を、誰よりも理解していた。「彼は僕に、他人と違うことを恐れてはいけないって言っていたんです。そして私より重度の障害を抱えている彼が、様々な形で社会貢献をしようとしている姿を見て心を打たれました」。同じような孤独を感じた人間同士だったからこそ、理解し合える人を見つけた際の喜びもまた格別だったのだろう。
インタビューをする前から、どうしても聞きたかったことがある。幼い頃友人が全くいなかったダニエルさんにとって、数字は唯一彼を理解してくれる友達であったからこそ特別な意味を持っていた。それでは成人して社会的な役割を担えるようになった今の彼にとって、数字はどんな存在なのだろう。「正直、数字との関係については変化がありました。もはや私の一番大切な友達ではなくなった。きちんとした人間関係を結べるようになってから、実社会で築く関係性の方が大切であると考えるようになりました。でも、数字が私にとって今でも特別な意味を持っていることは確かです。そして私の大切な友達が住む世界と、数字に溢れたあの世界を両方持っていることこそ幸せであるとも思います。どちらかの世界を捨てなければいけない、ということはない。両方の世界を大切にしたい。いわば私は2つの国籍を持っているということでしょうか。私の友達、人間が住む国へのパスポートと、数字だらけの国へのパスポートを持った、二重国籍なんですよ」。最後まで、彼の言葉に酔いしれてしまった。






The Snail and The Whale
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ライバルに読まれる前に必読!?
世界一アンラッキーな女の子の不思議なロマンス
「黒い秘密の本」に記されていることとは?
「時」をモチーフに、マジカルな世界をリアルに表現
生と死を真剣に見つめた感動作



「スレッドニードル通りの老婦人」の愛称で親しまれる連合王国の中央銀行、イングランド銀行。バンクの交差点付近に位置し、通りを挟んで向かい側には、高級ブティックやレストランに様変わりした旧王立証券取引所がある。シティの中心に位置する、まさにロンドンを代表する建造物の一つだ。
予約制だが、今年も長蛇の列が予想される「ガーキン」。芸術と科学の融合を目指す大建築家、ノーマン・フォスター卿設計の「キュウリの漬物」ガーキンは、今ではすっかりロンドンのランドマークとして定着した。ロンドンを360度眼下に眺めることが出来る最上階の展望フロアーは、カプセル状の無柱空間になっている。
産業革命と共に、英国が世界に誇るハイテク建築のトップ・スター、リチャード・ロジャース卿の代表作であるロイズ保険本社ビル。配管などの建築設備を外部に露出させた外観は、工場のような印象を与える。パリのポンピドー・センターは、ロジャース卿とハイテク建築の朋友、イタリアのレンゾ・ピアノが共同設計した出世作だ。
巨匠、ノーマン・フォスター卿設計のロンドン市庁舎。賛否両論はあるが、元々は環境を考慮した建築とされている。例えば「同じ容積ならば、直方体より球面にする方が、表面積が少なくなり断熱効果が高い」といった具合に。だが実際には全面ガラス張りのため、空調負荷が高く、光熱費が高くつくといった批判も起こっている。
長年にわたり遊閑地だったエリアを床面積の広い近代ビジネス・パークとして再開発した、フォスター設計のガラス張りのオフィス・ビル群。タワー・ブリッジやシティなどの眺望が最高だ。ロンドン・ブリッジ駅から市庁舎まで、敷地内を対角線上に横切るメイン・ストリートが特徴的。
ハイテク建築の父、リチャード・ロジャース卿の設計事務所。旧石油精製所をアトリエとして改装している。74歳という高齢を迎えるにあたり、後継者へのバトンタッチとして近年事務所の名前が変わったが、今もロジャースは健在。常に新しいデザインを発信し続けるデザインの現場を見ることができるのも、オープン・ハウスの醍醐味だ。
2012年ロンドン・オリンピックの開催地の一つ、リー・バレーの河口にあるコンテナ・シティ。輸送用のコンテナを積み重ね、デザイナーやアーティストのためのスタジオを造っている。人里離れた埠頭という立地上、一見近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、オープン・ハウス中なら堂々と見学することが出来る。
テムズ河を航行する船のように優美なフォルムのゲート。普段は川底に隠れている回転式の堰は、一般的に無骨なイメージのある河口堰とは大違いで、英国のインダストリアルな伝統と職人芸を感じさせる構造物だ。隣接するインフォメーション・センターでは、河口堰のメカニズムやテムズ河の生態系などを学ぶことが出来る。
鉄とガラスとコンクリートというマテリアルを駆使して確立された、これまでとは全く異なるスタイル。しかし工業化の波にもまれ、モダニズムは焦点を失う。単なる四角い箱の建物が世界中に繁殖してしまったのだ。そして各国の建築家たちは、こぞって次の様式を模索し始めた。そんな混沌とした時代にあってガラスや鉄を巧みにデザインしたシャープで機械的な建築が出現する。これがハイテク建築である。
今をときめく建築家、デービッド・アジャニの力作。斬新な色ガラスの組み合わせによるファサードは、灰色のイーストエンドに奇妙な光を照らしている。公共図書館のあり方・使い方についての新しい提案が随所に見られる新しい時代の図書館だ。
設計者と環境コンサルタントが手を組んだピーボディ・トラスト社による省エネルギー建築。BedZEDとは、「Beddington Zero Energy Development」の略で、エネルギー消費の少ない持続可能なサステイナブル建築の模範作だ。省エネのアイデアが盛り沢山な100戸の住宅と10のオフィス・スペースから成る。
未来の建築はどうなるか。その一つの解法として、流線的なフォルムや宇宙船のようなカプセル型の建築を造り続けるデザイン・チーム「フューチャー・システムズ」。王立クリケット場にあるロード・メディア・センターなどを手掛けた彼らが設計したこの教室は、子供に夢を与え、想像力を掻き立ててくれる。
レンガ造りの建物が立ち並ぶ都市のコンテクストの中に、一際目に付く白亜の集合住宅。街の景観、あるいは調和を乱す異文化の挿入とも取られかねない冒険的、実験的な開発。プライベートな空間とパブリックなストリートの関係性が豊かに表現されている。
作家イアン・フレミングにより映画「007」シリーズで希代の悪役に名前を使われた建築家ゴールドフィンガー。これら2つの建造物は、1950年代に起こったコンクリートの打ち放しのラフな表面、暴力的・威圧的な外観が特徴的なブルータリズム建築の記念碑的建物である。







