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Sat, 29 March 2025

第286回 東西世界が出合うロンドンの屋上庭園

2022年5月に開通した地下鉄エリザベス線のお陰で、シティから新金融街カナリー・ワーフ駅まで乗車時間はたったの6分、新金融街がずっと身近に感じられるようになりました。かつてカナリー・ワーフの西インド・ドックには無数の帆船が行き交っていましたが、今ではその面影すらありません。でも、改めてカナリー・ワーフ駅の駅ビルを見てみますと、それはまるで荷役で停泊している貨物船のようです。

カナリー・ワーフの駅ビルは貨物船のイメージ カナリー・ワーフの駅ビルは貨物船のイメージ

この駅ビルを設計したのはノーマン・フォスター卿。地下鉄ジュビリー線のカナリー・ワーフ駅の出入口やシティの高層ビル、ガーキン、大英博物館のグレート・コートも設計しました。駅ビルの屋上にはクロスレール・プレイスと呼ばれる庭園があり、その天井に敷き詰められた三角形の木枠にはガラスに代わる新素材として注目されている、熱可塑性フッ素樹脂(ETFE)でできたピロー(空気入りの薄膜)が張られています。

ガーキン(写真左)、大英博物館(同右上)カナリー・ワーフ駅(同右下) ガーキン(写真左)、大英博物館(同右上)カナリー・ワーフ駅(同右下)

そもそもこの駅ビルは、地下鉄エリザベス線のホームとつなぐために船渠せんきょの水中を30メートルも深く掘って建てられました。その工事の際、近隣の高層ビルに振動や騒音の被害を与えないよう工夫がなされました。それが高知県にある技研製作所が発明した圧入工法です。同社は四国の堤防工事で振動や騒音の苦情を受けたため、世界初の無振動で無騒音の無音杭打機を発明し、静かに止水杭を打ち込むことに成功しました。

無音杭打機は日本の発明 無音杭打機は日本の発明

また、駅ビルの屋上には庭園があり、約250メートルの遊歩道の脇にたくさんの植物が植えられています。遊歩道が東西に延び、中心点から西側には大西洋やカリブ諸島からの植物が、東側にはインド洋や東アジアからの植物が植栽されています。つまり、遊歩道の真ん中で西側世界の植物と東側世界の植物が出合う、粋な計らいがされています。実際、カナリー・ワーフの少し東側は経度ゼロのグリニッジ子午線が通っています。

ロスレール・プレイス(屋上庭園) クロスレール・プレイス(屋上庭園)

思えば、大西洋やカリブ諸島からの植物もインド洋や東アジアからの植物も、ウォードの箱(Wardian Case)という小さな容器で運ばれてきました。それは原産地の土壌や空気をガラス箱に押し込め、現代でいうテラリウムを実現した輸送箱です。あたかもこの屋上庭園そのものが巨大なウォードの箱のようで、東西世界の植物が出合う場所になっています。カナリー・ワーフに港の機能がなくなっても、世界中からの新しい技術や情報がここで出合い、そしてそれらを利用してロンドンがさらなる発展を続けています。

ウォードの箱(中央)で東西の植物が運ばれた ウォードの箱(中央)で東西の植物が運ばれた

寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。

 
シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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