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Wed, 18 October 2017

「Oh Lucy!」の平柳敦子監督 & ジョシュ・ハートネットにインタビュー

「Oh Lucy!」

毎年、世界各地からインディペンデント作品が集まる映画祭「レインダンス・フィルム・フェスティバル」が、今年も9月20日から10月1日にかけてロンドンのウェスト・エンドで開催された。今回、この映画祭のオープニングを飾ったのは、平柳敦子監督の「オー・ルーシー! (原題)」(「Oh Lucy!」)。長編作品の監督はこれが初めてという平柳監督と、本作の出演者の一人である米俳優、ジョシュ・ハートネットの合同記者会見が9月20日、ロンドン中心部ソーホーで行われた。上映を数時間後に控えた会見では、日英の共通点から映画界における女性の立場まで様々な質問 が投げ掛けられ、密度の濃いインタビューが展開。2人が語った製作の過程や役作り、文化の違いなどを紹介しよう。(Photos: ©Raindance Film Centre)

Atsuko HirayanagAtsuko Hirayanagi
長野県生まれ、千葉県出身。高校2年生で渡米しサンフランシスコ州立大学で演劇を学ぶ。ニューヨーク大学大学院映画制作学科シンガポール校を卒業。卒業制作の短編作品「Oh Lucy!」には桃井かおりが主演し、2014年カンヌ国際映画シネフォンダション(学生部門)で日本人初となる2位に入賞。今回上映された同名作品は、この短編を基に物語を大きく書き加えた、平柳監督初の長編ドラマ。本作で今年のカンヌ国際映画祭の批評家週間に招待されたほか、9月16日にはNHK総合テレビで国際共同制作ドラマとして、「OH LUCY!(オー・ルーシー!)」が放送された。

Josh HartnettJosh Hartnett
1978年、米国ミネソタ生まれ。1998年に「ハロウィンH20」で映画デビュー。「パール・ハーバー」「ブラックホーク・ダウン」「ブラック・ダリア」など数々のハリウッド大作に出演。2003年にはスーパーマン役のオファーを却下し、数多くのインディペンデント作品にも参加している。2008年にはロンドンのアポロ・シアターで「レインマン」の舞台に出演した。英国では、最新主演作「シックス・ビロウ: ミラクル・オン・ザ・マウンテン(原題)」(「6 Below: Miracle on the Mountain」)が10月13日に公開される。パートナーは英国女優のタムシン・エガートンで、2児の父。

英国人の気質は日本人に近い?

「オー・ルーシー!」がロンドンのレインダンス・フィルム・フェスティバルで上映されることについてどう思いますか。

平柳:はい、オープニング作品に選んでいただいたことをとても光栄に思います。また、英国の観客がこの作品にどう反応するか、とても興味があります。国によって観客の反応が違うのですが、私は常々、英国の文化は日本のそれと似ているのではないかと思っているのです。同じ島国ですし、色々な規律もある。お天気も良くないですし(笑)。東京もちょうどこんな空をしていますよ。そして人々は表向きの仮面をかぶるでしょう。ですので、英国の方々が映画のエンディングをどう思われるか興味があります。北米の観客のほとんどはこれをハッピーエンドだと捉えました。でも日本では、これがハッピーエンドかどうか分からないという人が多かったのです。英国はどうでしょうね。

ハートネット:パートナーがイングランド人なので、彼女がどう反応するかも楽しみですね(笑)。ついこの間まで撮影していたような気がするので、こうしてこの場にいるのが感慨深いです。観客の皆さんが楽しんでくれるといいですね。そして、作品の一部になれたことを誇りに思います。普通は出演作を観た後、あれはあのように演じたので良かったのだろうかなどと考えてしまうことがありますが、アツコ(平柳)のクリアな脚本と演出のおかげで、今回はそういった迷いがなかった。滅多にないことですよ。とにかく、多くの人に観ていただきたいです。オープニング作品に選んでもらったことで、より多くの方が来てくれるでしょうね。本当にエキサイティングです!

ハートネット&平柳監督ハートネット(写真左)から役柄について多くの質問を受けたと話す平柳監督(同右)

少し不安定なキャラクターたち

この物語を作るに当たって、最も重要だった部分は何でしょうか。

平柳:通常ならば主人公にはならないような、不安定で目立たない性格の人物をヒロインに据える、それが私にとっては重要でした。主人公は、実は以前、私が実際に会ったことのある日本人女性をモデルにしています。普通ならばかき消されてしまうような人物の声を拾い上げ、作品に出来たことをうれしく思います。

脚本を読んで、自身の演じるキャラクターについてどう思いましたか。

ハートネット:初めて脚本を読んだとき、自分がこれまで演じたことのないタイプの役柄だと感じ、やってみたいと強く思いました。彼は憂鬱な部分と楽天的な部分を兼ね備えている、いわゆる「負け犬」ですが、チャーミングな男でもあります。アツコと話し合ううちに、この男は混乱しており、その混乱をできるだけそのまま表現すればよいのだと理解しました。

あなたの演じたジョンは、日本では英語教師である一方、自国の米国では誰でもない、何者でもない人物という二重構造を持つキャラクターですが、どのように演じようと心掛けましたか。

ハートネット:ジョンは自分の国からファンタジーの世界に逃げこんだのですが、そこがたまたま日本だったのですね。彼は俳優志望でしたから、日本では自分がなりたいキャラクターを演じていた。それは周囲から求められていた役割でもあったのです。ただその役は日本にいたからこそ演じられたわけで、米国に戻ることでまた元の彼に戻ったのだ、と考えました。

平柳:編集段階でジョンの過去については削除してしまったのですが、「ロサンゼルスのあまり良くないエリアに暮らす売れない俳優」という設定です。日本や、ほかのアジアの国々では、背の高くハンサムな米国人はそれだけで皆にチヤホヤされますから、ジョンは日本では人気俳優になったような、自分が特別であるかのような気分を味わっていたのです。

2人の女性との関係についてお話ください。ジョンは、2人のどちらかを愛したのでしょうか。

ハートネット:これについては製作中にも話し合いました。美花と節子のどちらかと恋に落ちるのか。まず、節子を愛してはいない。何かしらの感情を持っているとは思いますが、愛ではない。彼は人に共感する能力が高いのではないでしょうか。悪気はないけれど、その場その場で良い顔をしてしまう。恐らくジョンは、映画の終わりで自分自身に気付き、この後、自分の生活を始めるのではないかという気がします。なので、そうですね、どの女性とも恋に落ちていないと思います。

主人公の節子は米国に着いて腕にタトゥーを入れましたが、これについて話してくださいますか。

平柳:欧米ではタトゥーは一般に浸透しており、街のあちらこちらにショップがありますが、日本ではまだ一部の若者のもので、明らかに40代のOLがするものではありません。以前、米国に来たばかりの元OLの日本人女性と知り合ったのですが、3カ月後には彼女の体はタトゥーだらけになっていました。彼女の中で何かがはじけたという感じでした。もしかしたら、タトゥーは自由の象徴なのかもしれません。

作品中では2人の女性が同じタトゥーを彫っていますが、彼女たちも自由になったということなのでしょうか。

平柳:そう思います。米国は人々を解放的にする不思議な場所です。特に、規律や規制が厳しい国から来た人にとっては、何をやってもいい、ワルになってもよい、自由の国に見えるのです。

登場人物は社会的にも精神的にも孤独な人々だと思いました。これは脚本を書くときに意図してそういうタイプばかり選んでいるのですか、それとも自然にそうなってしまったのでしょうか。

平柳:私は静かでおとなしいキャラクターにより惹かれます。だから自然に孤独な主人公になってしまうのでしょう。どんな人でも語るべき物語を持っています。そして静かな人ほど、語ることをたくさん持っているように思えます。

この作品の主人公たちには、不思議な親密さや何ともリアルな居心地の悪さがありますね。

ハートネット:脚本には、キャラクターが皆、通常よりも正直で、ほかの人より「かぶっている仮面が薄い」と指定されていました。これは自分の気持ちを抑えないということなので、役者にとってはチャレンジングで楽しかったです。崖っぷちに立たされた人物は演じがいがありますしね。

最後の場面は暗示的ですが、これはハッピーエンドとして製作されたのでしょうか。

平柳:この最後は節子の新しい始まりを予感させるものとして描きました。彼女は自分の気持ちに正直ですし、何の制約も受けておらず、これから何でも自由にできるわけですから。私にとってはポジティブなエンディングです。また、誰かがそばにいてくれることの大事さに気付いたのも大きなことだと思います。この作品は卒業制作で手掛けた同名の短編映画が基になっているのですが、卒制では本作の最初の20分に当たる部分を描きました。その後、主人公がどう行動するかを考えたのが本作です。短編を薄めて引き延ばすということはしたくありませんでした。

主演の寺島しのぶさんは短編のときの女優さん(桃井かおり)とは異なりますね。

平柳:寺島さんは私と同じ周波数で繋がっているのかと怖くなるくらいに、こちらの意図をくんで演じてくださる方でした。ほんの少しの動きや表情に至るまで、まさに私がほしかったものを表現してくれました。歌舞伎役者の家系に生まれた、まさに生まれながらの女優さんです。

ジョシュ、この作品に魅かれて参加しようと思った理由は何でしょう。あなたが普段出演しているようなハリウッド大作ではないですよね。

ハートネット:日本人監督だというのがまず興味を持ったきっかけです。それから、ここ数年、大作だけでなく、いくつかのインディペンデント作品にも出演してきました。出演を決める前には監督と長いミーティングをしますが、彼女の場合はやりたいことが非常にクリアだった。(平柳監督に向かって)初めて会ってから2週間後にはもう撮影が始まったよね。

平柳:ジョシュはすごく正直だし、自分をよく知っていて、何より反骨精神があると思います。だからハリウッド作品だけでは満足できず、私の作品を気に入ってくれたのではないでしょうか。しばらくハリウッドから遠ざかってインディペンデント作品に出演していたというのも、反骨精神のなせる業だと思います。とても才能のある人。しかもハンサム。世の中は不公平ですね(笑)。

ハートネット:もうちょっとやめて(笑)。

平柳:ジョシュとの会話は本当に勉強になりました。というのも、私は女性の視点でこの作品を作っていたのですが、彼が多くの質問をしてくれたおかげで、より重層的なキャラクターが生まれたと思います。本当に多くの貢献をしてくれました。

ハートネット&平柳監督平柳監督と息がぴったりのハートネット。撮影時の逸話も披露

映画業界における女性の進出は?

お2人に質問です。これまで映画界を見てきて、女性は活躍していると感じますか。

平柳:日本の女性について、まだ本来あるべき地位に到達していないと思います。世の中はなかなか変わりませんが、自分のできることをコツコツやるしかないのではないでしょうか。それによってほかの人をインスパイアできればいいなと考えています。日本には女性監督が多くいるわけではありません。英米でもきっと同じでしょう。私の家族は監督になることをサポートしてくれました。だから続けていられるので大変ラッキーだったと思います。その分、私はほかの誰かのために声を上げていきたいのです。

ハートネット:米国の女性監督の地位は向上したのではないかと思います。僕が高校生のころ、映画監督のジェンダー・ギャップを埋めようという動きがありました。何パーセントとかそういう詳しいことは分かりませんが、そのころに比べて少しは良くなっているのではないでしょうか。ただ正直に言えば、脚本だけ読んで面白いと思うかどうかで、それが男性監督のものか女性監督のものか、性別を考えたことはあまりないかな。業界内部にいるのであまり客観的に見ることができていないかもしれないですね。

では、作品内の女性の描き方についてはどうでしょう。この作品の主人公はとても強い女性ですが、これは今では普通なのでしょうか。

ハートネット:80年代や90年代などに比べ、以前より女性キャラクターの描き方にバラエティーが出て、もっと現実に近くなった気はしますね。ただし、その時代時代で描き方に変化があるので、今が昔より良くなったというのとは違うのかもしれない。その時代の「こうあるべき」という枠に縛られている限り、自由になったということではないですから。本来ならば、何でも好きなことを、やりたいように表現すればいいはずですよね。

東京とロサンゼルスでは風景の色合いが全く異なるように思いましたが、それは意識して撮影されたのですか。

平柳:はい、東京の灰色のオフィスや暗い学校と、ロサンゼルスの青くて明るい空は対比させるつもりで描きました。

なぜロサンゼルスを舞台に選んだのでしょう。

平柳:それは私がよく知っているエリアであることと、俳優が住む街として適しているからです。

ジョシュは作品中では日本語も少し話していましたが、製作に当たり、異なる文化間でのやりとりはどうでしたか。

ハートネット:東京では皆さんが良くしてくれたので、日本語を話せなくても困ったことはありませんでした。作品中では片言で話していますが、本当は全然話せないのです。

インディペンデント映画の魅力

ハリウッド作品とインディペンデント作品の両方に出演されていますが、インディペンデント作品の良さとは何でしょうか。

ハートネット:多様性だと思います。そして、よりパーソナルな作品が撮れること。その結果、作品に深みが生まれるのではないでしょうか。ハリウッド映画は良く言えばエンターテインメントですが、インディペンデント映画はもっと芸術的で人の心に触れる。個人的にはインディペンデント作品により感動します。

インディペンデント映画である本作に、ハリウッド俳優ジョシュ・ハートネットが出演することで、多くの観客が興味を持つということはありますよね。

平柳:それは絶対そうです。ですから彼がこのプロジェクトに参加してくれたことに感謝します。おかげで人の目を引き、オープニング作品にしていただきましたし(笑)。日本の俳優の役所広司さんも、若い無名の監督をサポートする目的で本作に出演してくださいました。映画界のシステムを変える何らかの助けになればと言ってくださったのです。NHKや、米国のサンダンス・インスティテュート(米俳優ロバート・レッドフォードが設立した非営利団体)も、新人監督のサポートに力を入れています。

次回作はどうなりますか。

平柳:まだ詳しくお知らせすることはできませんが、何本かのオリジナルを書いています。後は自作ではないプロジェクトに参加するお話もあり、検討中です。

最後に、本作を観た観客にどのような感想を持ってもらいたいですか。

平柳:「 混乱する」ということでいいと思います(笑)。(この映画の主人公のように)崖から飛び降りるような思い切った行動によって、初めて自分を発見するということもありますから。混乱することを恐れないでいただきたいですね。

ハートネット:実際には飛び降りない方がいいですね(笑)。

Oh Lucy!

Oh Lucy!(オー・ルーシー!)

● 出演: 寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョシュ・ハートネットほか
● 監督: 平柳敦子
● 上映時間95分

東京で満たされない日々を過ごしていた40代独身OLの節子は、あるきっかけで怪しげな英会話教室に通いだす。若い米国人講師のジョンに、金髪のカツラとルーシーという名前を与えられた節子は、授業中は明るくフレンドリーな「米国人ルーシー」として振る舞うよう言われる。ルーシーを演じるうちに次第に抑圧していた自己が現れ、変化を始めた節子。ジョンに恋をした彼女は、米国に戻ったジョンを追いかけロサンゼルスへ向かうが……。米国人講師との出会いをきっかけに、新しい自分を発見した女性の姿を、コミカルにそして正直に描いたドラマ。
 
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