これであなたも即席目利き - 銀製品の見方と豆知識 英国シルバー読解術
常に街のどこかでマーケットが立つ、アンティークの都、英国。あちらこちらに佇む骨董屋では、色とりどりの陶器や古い家具、絵画にペンにボタンまで、ありとあらゆる品物が次のご主人様を待っている。そんななか、雑多な品々に紛れて鈍い光を放つ、シルバー製品に目を奪われたことはないだろうか。マーケットでは散ばらで売られていることも多く、見方さえ心得ていれば意外な掘り出し物に出合えることも。本特集では、英国シルバー製品の見方をご紹介。製品の背景が分かれば愛着もわくというもの。目利き気分で宝探しに出掛けよう。
(取材・文: Shoko Rudquist)
アンティーク・シルバーを探しに行こう!
ホールマークの読み方や英国シルバーの歴史がざっくり分かったら、あなたももう立派な目利き。以前はちんぷんかんぷんだったディーラーのおじさんやおばさんの説明にも、訳知り顔でうなずけるはず。シルバー製品に関しては世界屈指の品質を誇るここ英国で、シルバー・アンティークを探すのに持ってこいの場をご紹介しよう。
※新型コロナウイルス拡大防止により休業中の場合あり。サイトを参照のこと
掘り出す / 購入する
世界有数のシルバー専門店街 The London Silver Vaults

本気で一生物のシルバー製品を探すなら、世界的にも有名なこちらへ。17世紀のアンティークからコンテンポラリーまで、シルバー製品だけを専門に扱うディーラーが店を構える専門店街「ロンドン・シルバー・ヴォルツ」だ。元大型信用金庫だった重厚な建物を再利用しており、セキュリティー万全の環境で、それぞれその道50年以上という29のディーラーがとっておきの製品をそろえている。中には、中国と日本のシルバー製品を専門に扱うディーラーなどもあり、よそではお目にかかれないセレクションが期待できる。定期的にエキシビションも開催しているので、購入はさておいても、まずは見識を高めに出掛けたい。
The London Silver Vaults
53-64 Chancery Lane London WC2A 1QS
Tel: 020 7242 6646
月〜金9:00-17:30 土9:00-13:00
https://silvervaultslondon.com
立地最高!ハイソなマーケット Grays

ロンドン市内中心、ボンド・ストリート駅からすぐに位置するインドア型マーケット。元々はトイレのショールームだったという建物を、1977年、ベニー・グレイ氏と呼ばれる紳士が買い取り創立した。マーケットとはいうものの、各ディーラーがブースごとに店舗を構える小売店の集合体だ。2フロアに200以上のディーラーがひしめき合い、陶器から家具、ジュエリーまで幅広い品ぞろえ。30を超えるディーラーがシルバー製品を専門に扱っており、掘り出し物に出合える確率は高し。便利な立地なので、こまめに覗いてみよう。ちなみに地階では、北部ハムステッドから始まり市内の地下を貫くテムズ河の支流を見ることもできる。
Grays
58 Davies Street London W1K 5LP
Tel: 020 7629 7034
月〜金10:00-18:00 土11:00-17:00
http://www.graysantiques.com
国内最大級インドア・マーケット Alfies Antique Market

ボンド・ストリート駅すぐのインドア・マーケット「グレイズ」の仕掛け人グレイ氏が、同館より先に自分の生まれ育った地区で手掛けたのがこちら。すっかり荒れ果てていた古いデパートを改造した、その規模は国内最大級というアンティーク・マーケット、「アルフィーズ」だ。「グレイズ」と同じインドア形態をとり、100以上のディーラーがブースを構える。レトロなファッション小物やインテリア小物があふれ、アンティークというよりむしろヴィンテージ色の強い品ぞろえながら、シルバーや真鍮製品に特化したお店も。シルバー製品目当ての訪問客が少ないからこそ、意外なお宝に遭遇する可能性に期待できそうだ。
Alfies Antique Market
13-25 Church Street London NW8 8DT
Tel: 020 7723 6066
火〜土10:00-18:00
https://www.alfiesantiques.com
ストリートマーケットの大御所 Portobello Road Market

言わずと知れた国内最大級の週末ストリート・マーケット。ロンドン西部のノッティング・ヒルから続くポートベロー・ロード沿いで、毎週金・土曜日を中心に開催されている。19世紀後半に誕生した当時は食料を扱う露天商が中心だったというが、20世紀半ばにはアンティークの取引も行われるように。現在は、ノッティング・ヒル・ゲート駅に近い南寄りの通り沿いを中心に、平日も商いを行う骨董品店が軒を連ねるほか、土曜日にはカトラリーや食器類のアンティーク露天商も出店する。スプーンやフォークが束になって無造作に売られているのはストリート・マーケットならでは。じっくり品定めして、お気に入りを見つけよう。
Portobello Road Market
Portobello Road W11 2QB
Tel: 020 7361 3001
金・土 9:00-19:00
http://www.portobelloroad.co.uk/the-market/
学ぶ / 鑑賞する
シルバーの専門家を目指すなら The Goldsmiths’ Centre
ロンドンのアセイ・オフィスを運営する「ザ・ゴールドスミスズ・カンパニー」が同組織最大の出資額を投じて、2012年にロンドン東部のクラーケンウェル地区に建設した「ゴールドスミスズ・センター」。この施設は、シルバーをはじめゴールド、プラチナといった貴金属の専門家を目指す人たちを受け入れる学術機関で、ワークショップやセミナー・ルームなどが完備されるのはもちろん、一般に公開されるエキシビション・エリアやカフェも備える。1872年に創立されたロンドンで最も古い寄宿学校の一つだった建物を再利用した、美しい外観も見ものの一つだ。
The Goldsmiths’ Centre
42 Britton Street, EC1M 5AD London
Tel: 020 7566 7650
www.goldsmiths-centre.org
充実のコレクションで目を肥やすVictoria & Albert Museum
英国屈指のシルバー・コレクションを誇るヴィクトリア&アルバート・ミュージアムでは、3階の「シルバー・ギャラリー」内で、世界各国から集めた、実に1万点以上の作品を展示している。中でも英国シルバーのコレクション数は、公的機関としては世界最大。欧州各地の作品も充実しており、希少な1400年代のものから鑑賞できる。アンティーク・シルバーの歴史を一望するにはこれ以上の施設はないはず。マーケットでお気に入りの一品を見つけるまで、ここで審美眼を磨いておこう。
Victoria & Albert Museum
Cromwell Road London SW7 2RL
Tel: 020 7942 2000
月〜日10:00-17:45(金は22:00まで)
https://www.vam.ac.uk
英国シルバー豆知識
銀の燭台
19世紀にガス灯が普及するまで、ほぼ唯一の照明器具だったろうそく。当然、銀製の燭台も多く製造されたが、17世紀ごろまでは中心部が空洞だったため壊れやすく、今日手に入る銀製の燭台は主に17世紀以降に製造されたものがほとんどだ。蝋燭を立てる腕が2本以上ある燭台が誕生したのは17世紀後半。3本のものが作られるようになったのは18世紀後半になってから。5本以上のものは、19世紀に入るまでは製造されていなかった。腕の数が多い燭台を「これは18世紀のものだよ」なんて高値で売られそうになったら、食って掛かって間違いなし!?
1853 10 Light Candelabrum, Hunt & Roskell
1853 10 Light Candelabrum, Hunt & Roskell
カトラリー
16〜17世紀初頭、人々は友人宅に食事に招かれると、自分専用のマイ・スプーン&ナイフを持参していたのだそう。フォークはまだ存在せず、代わりにナイフの先端が割れて、刺した物を持ち上げやすいようになっていたようだ。1660年以降に、先が2本になったフォークが製造されるように。燭台と同じく、フォークの歯の数は3本、4本と、時代を追うごとに増していった。4本のものは基本的に1760年以降に製造されたもの。また魚用のナイフとフォークが作られるようになったのは19世紀に入ってからだ。
1691 Treffid Spoon, Richard Sweet
牛のクリーマー
英国に暮らしていると、愛嬌のある牛の形をした、陶器製のクリーマーを一度は見かけたことがあるだろう。尻尾を持って傾けると牛の口からミルクが注がれるあの容器、元々はシルバー製品だ。1759年に、シルバー職人ジョン・シュッペによって製造された銀製のクリーマーは、19世紀になってイングランド中部ストラトフォードシャーの陶器メーカーらによってコピーされ始め、現在に至っている。シルバー・アンティーク業界ではそこそこ有名なコレクター商品。カーブーツ・セールで見かけたら、ホールマークをチェックして即ゲットしてみる?
1758-1759, Creamer Jug in the Form of a Cow, John Schuppe
シノワズリ・モチーフ
英国といえば紅茶。しかし、同国におけるその歴史は意外と浅く、17世紀後半に東洋の秘薬として売られ出したのが始まりだ。巷の人々の間で実際に流行し始めたのは、その値段が徐々に下がり始めた18世紀に入ってからだと言われている。当初は高級食品だった紅茶は、貴族たちの間で大層もてはやされ、流行のデザインが施された美しい銀製の茶器が誕生する。そして、当時人気を博していたデザインと言えば東洋風のモチーフ、「シノワズリ」。初期のティー・セットは、意外にもアジアン・テイストのものがほとんどなのだ。

シルバー製品のお手入れ
シルバー製品と聞いて物怖じしてしまう人もいるかもしれないが、銀器は中世から日常的に使われてきた身近な道具でもある。多くのアンティーク・シルバーが出回っているを見ても、大切に使えば時代を超えて輝き続けるのは明らか。お気に入りのシルバー製品を長く愛でていけるよう、ここで基本的なお手入れの際の注意事項をまとめておこう。
- 食器洗浄機は避け、手洗いを厳守。その際、シルバーの変色を促すレモン成分が入った洗剤は使わないようにしよう。また洗った後は、手早く水滴をふき取ること。そのままにしておくと水滴のあとが残ってしまう。
- 普段使いのシルバー・カトラリーは、毎回食事が終わったらすぐに洗い、水分を手早くふき取るだけで十分光沢は保たれる。あまり磨きすぎるとかえって製品を痛めることになるので注意。
- 塩は変色の最大の敵。塩用の小皿、ソルト・セラーなどに残った塩は、食事が終わったら毎回別容器に移し替えよう。セラーをきれいに洗うことも忘れずに。
- シルバーの変色は、主に硫黄成分と空気中の水素成分によって起きる。卵、タマネギ、マヨネーズといった食品は硫黄を含むため、変色を促しやすい。これらを使った料理を頂いた後は、何はともあれ即座に洗ってしまおう。
- もし変色が進んでしまったら、シルバー専用の研磨剤を使って磨こう。シルバー製品を専門に扱うディーラーなら、手袋状になったものや布状のものなど、日常使いに適した製品を扱っていることも多いので問い合わせてみて。ただし、高価なシルバー製品は念のため専門家にお手入れを頼むのも手だ。



在留届は提出しましたか?
左)シルバー製品の品質保証マークを付ける際に使われる刻印機
ロンドン東部にあるアセイ・オフィス、ザ・ゴールドスミスズ・カンパニー

銀の大杯 (1460、製作者不明)
1559年の戴冠式でエリザベス1世が使用したと伝えられているカップ(1554、製作者不明)
お粥用ボウル(1667、製作者不明)
チョコレート用ポット (1717、Joseph Ward)
コーヒー・ポット(1796、Henry Chawner)
ティー・セット (1850、J. Angell)
日本的な装飾が施されたトレイ (1877、Elkington & Co.)
ワイン入れ(1880、Hukin & Heath)
ボウル (1902、C.R. Ashbee for the Guild of Handicraft)
蓋付きボウル(1931、H.G. Murphy)
燭台(1958、Robert Welch)
昆虫を彷彿とさせる デザインのボウル (1962、Gerald Benney)
エナメル加工された皿(1999、Jane Short)
古代エジプトの女神、イシスの名が付けられたボウル(2011、Abigail Brown)
道端で勝利を祝う人々
何千もの人々がトラファルガー広場に集まった
ホワイトホールに集まる約5万人の聴衆に向けて、勝利のVサインを示したチャーチル首相
Vサインはチャーチル首相のイメージの一つ
(左)指令を待っている英国空軍のパイロット。搭乗した航空機には非公式にVサインが塗られている (右)米国のプロパガンダ・ポスター。「. . . —」はモールス符号でVを表す
(左)左からスターリン、チャーチル、ルーズベルトの顔と
戦時中、ノルマンディーからの放送を試みるBBCのスタッフ(1944年)
バッキンガム宮殿のバルコニーに現れた、左からエリザベス王女、
シンプルで強い印象を与える、今ではおなじみのデザイン
Keep Calm and Carry Onの他、同時期に作られたシリーズの2枚
Grow Your Own Food
ヴィクトリア時代の駅舎をそのまま利用した古本屋、バーター・ブックス
(写真左)メイフェア地区に立つ、初代ウエストミンスター公爵の祖父ロバート・グロブナーの銅像
リージェント・ストリートやハイド・パークは王家が管轄するThe Crown Estateの所有となっている
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロも2018年にナイト爵を受けた

超高級ホテルのクラリッジズ
(写真左)高級店がひしめくオールド・ボンド・ストリートのアーケード
高級デパートの代名詞、ハロッズ
カドガン家が保有するカドガン・ホテル(写真左)とカドガン・ホール(同右)
コンサート・ホールとして有名 なウィグモア・ホールが立つウィグモア・ストリート周辺の土地も、ハワード・ドゥ・ウォールデン家の所有となっている
おしゃれな店舗が並びつつ、ビレッジ感も残すマリルボーン・ハイ・ストリート
一流の医師たちが集まるハーレー・ストリート
ロンドンで一番のにぎわいを見せるオックスフォード・ストリート
オックスフォード・ストリートにある大型デパート、セルフリッジズ
センメルヴェイス・イグナーツ・フュレプ博士。最後は精神病院で亡くなった
センメルヴェイスの著作をもとに作成した、第一産科における産褥熱の死亡率の推移。センメルヴェイスが塩素消毒法を導入した1847年5月半ば(赤線)から明らかに低下している
石川 由依
石川さん演じるヴァイオレット・エヴァーガーデン(左)と、
1906年、ベッド上のナイチンゲール(86歳)。
フローレンス・ナイチンゲール(Florence Nightingale、1820年5月12日~1910年8月13日)は、ヴィクトリア時代の英国で看護婦としてばかりではなく優秀な教育学者としても活躍し、近代看護教育の母と呼ばれる。裕福な家庭に生まれながらクリミア戦争に看護師として従軍し、負傷兵たちを献身的かつ進歩的な方法で介護するほか、統計に基づく医療衛生改革でも大きな評価を受けた。戦時中に作られたナイチンゲール基金でロンドンの聖トーマス病院内にナイチンゲール看護学校を作り、英国ではそれをモデルに現在に近い看護師養成体制が整った。ナイチンゲールの誕生日は国際看護師の日とされている。
ロンドン西部ケンジントンのスラム街。借りられる家があればまだましで、
この時代、コレラは空気感染すると思われていた
かつてロンドン中心部コベントガーデンのセブン・ダイアルズは悪名高いスラム街。
1856年、フローレンス・ナイチンゲールによって整備された後の、
ロシア軍のセヴァストポリ要塞を攻める連合軍。セヴァストポリは小高い台地にあり、
写真左)クリミア戦争勃発直後、34歳のナイチンゲール
その形から「コウモリの翼」と呼ばれる、ナイチンゲールの編み出した円グラフ。 
ペットのふくろう「アテナ」。クリミアに発つ日に死んでしまい、
ギャング団の長、トーマス・シェルビー
戦争直後の鬱々とした雰囲気も、本ドラマの重要なバックグラウンドとなる
リアル・ピーキー・ブラインダーズのハリー・フォウルズ、アーネスト・ベイルズ、
スモール・ヒースから少し東に位置する1914年のボーデスリー・グリーンの様子。
主人公のトーマス・シェルビーを演じるキリアン・マーフィーはアイルランド出身の俳優。
女性の権利がまだ制限されていたこの時代、女性たちの暗躍は物語の鍵となる

26エーカーの広大な敷地を持つブラック・カントリー・リビング・ミュージアム






