第9回 和風ピエロ
20 January 2011 vol.1284
コラムを読んで下さっている皆様、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
1月になり肌寒い毎日が続いているが、ロイヤル・バレエ団は年末年始も関係なく、連日連夜公演が続いている。前回のコラムではこの時期の目玉「ポター」について書いたのだが、今回はもう一つの作品「シンデレラ」について紹介したい。
自分はこの作品では「ジェスター」(道化)役を演じさせてもらっている。2幕の舞踏会のシーンからの登場になるのだが、ピエロの格好をして、パーティーを盛り上げる為に幕開けからカーテンが閉じるまで踊り続ける、かなりフィジカルな役である。
自分はいつも一つの役を演じるときには、自分でしっかりとイメージをもってから舞台に臨んでいきたいと思っている。最高の舞台をするには準備が一番大事だと思うし、役作りをするときからいつも自分にしかできないオリジナルの役を作りたいと考えている。人の真似事をしてもそれは結局自分の気持ちではないし、舞台で楽しめないことが多いからだ。
この役作りが自分のバレエ人生における楽しみの一つでもある。ロイヤル・バレエでは踊るときのステップを変えることはほとんど許されていないが、細かな表情、マイム、仕草、踊りと踊りのつなぎのステップなどは自分で工夫しても良いことが多い。
ジェスターを初めて踊った先シーズンでは、あるアーティストの方にこの役の映像を見せたときに「何だか孫悟空みたいだね」と言われ、ならば孫悟空になってみようかと西遊記に関する書物を読んだり、映画やドラマなどの映像を観たり工夫しようとしたのだが、うまくいかなかった。自分がイメージしていたものと踊っているときの気持ちがうまく噛み合わず、力のコントロールがうまくできなかったのだ。人から言われたイメージを自分に置き換えるのは難しいのかもしれない。
そこで今シーズンは今までと違う役作りをしようとずっと考えていた。昨年の春になるのだが、日本から歌舞伎役者の市川海老蔵さんがロンドン公演にやってきた。彼の演技を観たとき、「これだ」と思った。体の動きがやわらかく、かつしなやかで、動き出すときのすり足のリズムなどはバレエで使うステップに似ている。速い動きでも踊りが固まらずいつまでも流れていて、ジャンプも高く、まるで舞台上を飛び回る猫のようだった。
ジェスター役では顔を真っ白に塗るのだが、彼も同じだったのも共通していた。曲が変わるときの表情、特に目の動きはとても参考になった。
そこで今回は役作りの時点から、歌舞伎や日本舞踊の映像をよく観た。静かな動きから大きな動きへの動作がとても参考になったし、踊りの流れを止めないように力の入れ具合を変えてみたり、和の要素を取り入れることで、前回とは違うキャラクターができ上がったと思う。
昨年12月でこの公演は終わってしまったが、来年の4月に再公演が予定されているのが、今からとても楽しみだ。
和風ピエロを一人でも多くの方に観てもらいたい。
* 余談になるが、途中でマスクを振り回している仕草が野球のイチロー選手の物真似かと聞かれることが多いのですが、ご想像にお任せします。