第33回 靴ひもを結ぶように
7 Febryary 2013 vol.1380
2013年も1カ月が過ぎた。今シーズンも半分が終わろうとしているが、ロイヤル・バレエ団では相変わらずの忙しさが続いている。
自分は先月のトリプル・ビル(小品3作)公演より舞台を離れてはいるが、2月のアシュトン・ミックス・ビルの「La Valse」にてプリンシパル(主役)・カップルとしての出番があり、それに向けてリハーサルやトレーニングを積んでいる。
この演目は、ロイヤル・バレエ団史上、最高の振付家と言われるフレデリック・アシュトンによって1958年に創られたもの。社交ダンスのワルツのような踊りに、男女のリフトやジャンプが加わり、女性の細かい動きと男性のダイナミックなステップが要所で使われる人気作品だ。今回、自分が踊る役柄は、入団以来、初めてキャスティングされた、いわゆるデビュー役。否が応にも練習に熱が入る。
ロイヤル・バレエ団に入り16年目。34歳になった今、自分が演じる役は演目によってほぼ決まっている。「ロミオとジュリエット」ならロミオの親友マキューシオ役、「眠れる森の美女」ならブルーバード(青い鳥)役といったプリンシパル・ロールを任されることが多く、フィジカルで情熱的なキャラクターを好んで踊ってきた。毎年、配役が発表されるたびに「前回踊ったときより上手に踊るんだ!」と向上心を持って取り組む。そして舞台後の成功を振り返っては達成感と安堵を覚え、舞台から見えた景色を胸に書き留めるのが、自分の楽しみとなっている。
一方で、年に数回、新しい役をいただけるのもまた楽しみの一つ。新しい役を覚えるたびに、頭の中の引き出しが、また一つ増えたような気がする。自分は新しい役を覚えるのに時間を掛けることを惜しまないのをモットーとしている。舞台の合間に演目で使う音楽を聴き、ステップ一つひとつを頭の中で繋げる作業を繰り返す。足の位置や手の角度、首の伸び具合に始まり、目線の高さはどこに置くのか、体のどのラインを大切にするのか、など、気になった点を頭の中で描き出し大まかな全体像を作っていく。イメージが出来上がったところでスタジオに行き、今まで創った個々のイメージがうまく重なるか、時間を掛けてゆっくりと確認する。
スタジオでの練習は絶対に焦らないのがコツ。焦ったり、力技で出来上がったものは長くは残らない。また、自分が思い描いていたイメージが本当に奇麗に見えるとは限らないし、第三者から見える自分の姿も大切にしたいので、ビデオ・カメラで撮影などもする。そして一度でもうまく出来上がったときの力加減などを心に留めておく。上手く踊ることが出来た瞬間が映像に残ったとしても、体の感覚に残っていなくては、練習の意味はない。そして納得のいったときには、そのステップを靴ひもを結ぶようなイメージにして、きちんと体の中に溶け込ませる。ここでの約束事は、結ぶ靴ひもは決してきつく縛らないこと。一度きつく縛りすぎると、後に踊りを修正したくなったときに、イメージが残りすぎて変更しづらくなることがあるからだ。ゆるくてももちろん駄目。すぐにほどけるようでは、ステージでは使うことが出来なくなってしまう。
ステージ・リハーサルにて
今回踊るのはパドドゥ(男女一緒に踊る)なので、自分だけのイメージで踊ることは難しい。パートナーとはリハーサル時間でしか一緒に踊れないので、いつもどうすれば彼女が美しく見えるかを想像している。本番まであと2週間。毎回のリハーサルで、頭の中で結ぶ靴ひもの形が変わってきているが、どれもが奇麗に結べるようになってきた。
あとは見てのお楽しみ。蔵健太の2013年の新役をどうぞお見逃しなく!