第23回 なめちゃいけない真冬の北海道
22 March 2012 vol.1344
前回に引き続き、ロイヤル・バレエ団の中休みの話。前回、紹介したように、始めの1週間は岡山でバレエ講習会を行い、後半の1週間は北海道の実家へ行ってきた。
北海道へ帰るのは、昨年の夏以来。日本へはここ数年、毎年1度は帰ってはいるのだが、実は冬の季節に北海道へ渡るのは17年ぶりだ。まずは地元に住む友人に、冬の北海道で過ごすためのアドバイスを求めると、皆が「今年は相当雪が多い」「とにかくなまら寒い」「前が見えないくらいの吹雪が続いている」などと口をそろえる。「北海道の冬をなめると痛い目に遭うぞ」と脅かされもした。
ロンドンでできるだけ防寒具を買い込み、いよいよ北海道に上陸。当日は、晴れ男の名にふさわしく快晴。光り輝く白い大地に涙が出そうになったのだが、一歩空港の外に出た瞬間、そんな気分はすぐに吹っ飛んだ。「肌が凍り付いたよう」なんていう表現をよく聞くが、気温はマイナス10度。歩き始めて3分で肌や髪の毛が実際に凍り付き、口元が固まっていくのが分かる。風の強さが尋常ではなく、氷の混じった突風に煽られ、ゆっくり呼吸をすることもできない。
雪が車よりも高く積もっている
空港まで迎えに来てくれた母の運転で街まで移動したのだが、時速30キロ以下で、ハンドルに両手でしがみつきながら運転する姿が印象的だった。夕方からは猛吹雪。次第に雪の影響で視界が狭くなっていくのを感じ、友人が言っていた「北海道をなめるなよ」の言葉が脳裏によぎる。「運転を代わろうか」と母に言ったのだが、冬道を久しく運転していない自分にハンドルは譲れないとの一点張り。仕方なく、母の運転に命を委ねようと決意する。小さなころから母の運転でバレエ教室まで通ったことが思い出され、運転する母の姿がいつもよりひとまわり大きく見えた。
翌日からは昔からの仲間とプライベートを楽しむ毎日。友人には自分の格好を大笑いされた。ロンドンで一生懸命暖かい服を選んで買ってきたつもりだったが、「そんなぺらぺらの格好じゃ、外に出たら死んじゃうっしょ」とまずコートの薄さについて指摘を受け、次に靴は「つるつる靴底」シューズだから北海道では歩くと怪我をする、道内は「ぎざぎざ靴底」が定番だ、ということも教えてもらった。早速、靴屋にて「ぎざぎざ」ブーツを購入したのだが、やはり地元民は正しい。前日は空港の外で転んだが、「ぎざぎざ」は嘘のように滑らない。雪の上を歩くときに「きゅっきゅっ」と鳴る音が、松ヤニを付けすぎたバレエ・シューズの音に似ているのがまた面白い。
知人宅や親戚の家にも行ってきたのだが、どの家も異常に暖かかった。北海道は冬でも家の中ではTシャツ一枚で過ごすのが定番なので、暖房がかなり効いている。実家では毎日下着で過ごし、汗をかきながらアイスクリームまで食べた。冬なのにうちわが置いてあるのは、北海道の家くらいだろう(笑)。
北海道と言えば「食」も忘れることはできない。身の引き締まった刺身に寿司、味噌の利いた石狩鍋にラーメンもおいしかった。
毎日一食はラーメンだった
そして17年ぶりに食べる、母が作ってくれた時期外れのお雑煮の味は格別だった。「これでもか」というくらいボリュームのある朝食に母の愛を感じ、こちらもお礼に生まれて初めて母に手料理を披露した。料理は普段からしているし、自信はあったのだが、その日の料理はどこかいつもと違った。母も何か舌で感じたらしく、苦笑いを交えて「おいしい」と言ってくれた。
今年の夏も、やっぱり北海道に帰ろう。