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Thu, 21 November 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第20回 金平糖の魔法

5 January 2012 vol.1333

髪を解き、現実の世界に戻っていきます
「くるみ割り人形」終演後。
髪を解き、現実の世界に戻っていきます

皆様、新年明けましておめでとうございます。

新年早々、ロイヤル・オペラ・ハウスではクリスマスの定番の出し物、「くるみ割り人形」を上演しています。クリスマスも終わったのに、なぜ「くるみ」を上演し続けるのか分からない私たちダンサーですが——きっとそれはまだパーティー・ムードから抜けきれない方々のためでしょう!

昨年末のクリスマスどきなどは、英国の4つのバレエ団、ロイヤル・バレエ団、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団、そしてマシュー・ボーンのダンス・カンパニー、ニュー・アドベンチャーズが一斉にロンドンで「くるみ」を上演していました。同じ「くるみ」でも、それぞれに異なるストーリーと解釈があり、皆、お客様を引きつけようと、競い合って上演していました。

ロイヤル・バレエとバーミンガム・ロイヤル・バレエのバージョンは、元々が同じファミリーのため、振付家が同じではありますが、ストーリーが違います。ロイヤル・バレエでは、主役はクララとお菓子の国の金平糖の精、バーミンガム・ロイヤル・バレエでは、クララと彼女の夢見るバレリーナ、という設定になっています。

また、ロイヤル・バレエ・バージョンのお菓子の国は、演出家が砂糖菓子のコーティングをイメージして舞台を作り上げたため、舞台は白に近い金一色。そのため、その王国の女王、金平糖の精も全身金ぴかなのです。

チャイコフスキーの名曲「くるみ割り人形」の中でも特に有名な一曲「金平糖の精の踊り」。日本では「金平糖の精」となっていますが、原題は「ドラジェの精」、英語圏では「シュガー・プラムの精」となるなど、国によって呼ばれ方が変わっています。ドラジェ(アーモンドやフルーツの糖衣菓子のこと)は日本ではあまりなじみのないお菓子であったため、この邦題が定着して現在に至っているそうです。たしかに「金平糖」の方がかわいらしくて奇麗ですよね!

私は今回、この役を踊るために、初めて髪を金ぴかに塗りました。通常はかつらを着用するのですが、手違いのため私のかつらが時間通りにできあがらなかったのです。

金ぴかにすると言っても、ただ金のスプレーをするのではなく、白のスプレーでまずは白髪になり、その上にクリーム色のスプレーで金髪に近くし、最後に金箔を散りばめると言う具合に手間暇をかけています。まるで、ケーキのデコレーションのよう!

そして公演終了後は、何回にも分けてスプレーを振りかけたためにバリバリになったその髪を解くのにまたひと苦労。まさに砂糖漬けした髪そのもの……。自分の髪が金ぴかになっていく過程は、何だか少しずつ魔法にかかっていくようで、金平糖の精を演じる自分の助けになったと思います。奇麗に髪を洗い流し、黒髪に戻った自分を見て、「あー、もう魔法が解けちゃった……」と少し寂しい思いをしました。

この金平糖の精を演じるには、イマジネーション、ファンタジーが必要です。子供に戻ったように、色々とお菓子の夢を描きながら、ケーキ屋さんの窓をのぞいていた自分でした。

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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