第20回 雪と子供と「くるみ割り人形」
15 December 2011 vol.1331
気が付けばもう12月。今年は例年以上に頭より体を使った1年だった。最近では「朝起きて仕事に行き、夜舞台に立って家に帰って寝る」という単調な毎日を続けるあまり、「今日は一体何日の何曜日だ?」と同僚と話し合う機会が増えているような気がする。
ロンドンの街のあちこちにクリスマスのイルミネーションが飾られる12月第1週、ロイヤル・バレエは「くるみ割り人形」の公演をスタートさせた。以前に紹介した「眠れる森の美女」同様、チケット入手が最も困難な作品としても知られている。
この作品は、バレエ団のダンサー以外にもロイヤル・バレエ・スクールの生徒が子役、ネズミ、兵隊役など多くの場面に出演するため、次世代のスターが誕生する姿をその場で見届けることができるのがファンには堪らないらしい。現在、プリンシパルとして活躍している英国人ダンサー数名も、子役のときからこの作品に出演している。
アシスタント・コーチの方は、スクール時代の役も合わせ、計15役以上もこなしていて、現在もその記録を更新中。今年はおじいちゃん役としてデビューするとはりきっている(驚)。自分もコール・ド・バレエ(群舞)のときに1幕のお父さん役で出演していたのだが、そのときの子役は今やバレエ団に入団し、当時自分が演じていたお父さん役を演じている(笑)。
ハイライトの一つとなっているスクール生のダンスは、今回も勢いがある。この作品のための練習量は尋常ではないらしく、毎回ミス無しの演技はプロ顔負け。生徒たちはいつもバレエ団のダンサーから学びなさいと先生から言われているらしいが、実は学ばせてもらっているのは大人たちの方かもしれない。
この作品はまた、舞台装置にもとても凝っている。ドロッセルマイヤーの魔法によって巨大化する家やクリスマス・ツリーの変化はとても見応えがあるし、2幕に登場する舞台セットは、1幕に出てくるケーキを巨大化したもの。少年が空を飛んだり、巨大な車いすが出現したりして、客席からは子供たちの驚きの声がいつも絶えない。
自分がこのバレエで最も好きなのは、1幕最後の雪のシーン。クララが自分の夢の中に入り、雪の精たちと一緒に踊るのだが、頭上から降り注ぐ雪の粉が、故郷の北海道を思い出させてくれる。女性コール・ド・バレエ陣が白い衣装を着て細かく、激しく、かつ繊細にステップを踏む姿は、北海道のブリザードのよう。耳を澄ますと床から聞こえてくるポアント・シューズの静かな足音は、夜中に降り積もる雪の音にとても似ている。
小学生時代はスキー・クラブに所属していて、冬になるとスキー板を担いで山に行き、スキー場の明かりが消えるまで毎日をそこで過ごしていた。山のコブをリズムに乗せて越え、足の動きに合わせ両手を使い、ジャンプするトレーニングなどをしていたが、今思えばそれらはバレエで使うための下半身トレーニングにもなっていたのかもしれない。
ワクワクしながら大きいソックスを枕元にぶら下げたクリスマス・イブの夜。サンタクロースを絶対見てから寝るんだと心に決めるのだが、気が付くと眠ってしまい、目が覚めるとプレゼントの箱が頭の近くに置いてあって朝から兄と騒いでいたころを思い出したのも、このバレエを観てからだ。
読者の皆さんが、素敵なクリスマスを過ごせますように。Merry Christmas!