第30回 バレエと俳句の共通点
4 January 2013 vol.1378
「Se ven Hai ku of the Moon」
©Holger Badekow
かつて、詩人のポール・ヴァレリーは、詩は「言語に基づく芸術である」と言い表したそうですが、その通り、詩は様々な形式やジャンルにより、感動や情緒、ビジョンなどを言語で表す表現方法の一つであると思います。
それでは舞踊は、と言いますと、「身体に基づく芸術である」となるでしょうか。クラシック・バレエ、コンテンポラリー・ダンスなど、異なる踊りにより、感動や情緒、ビジョンなどを身体で表す表現方法です。
数々の種類がある詩の中で、私が面白く思った形式の一つに、俳句があります。皆さんもご存じの通り、俳句は定型詩であり、五・七・五の韻を踏む 、基本として季語を入れる、余韻を残す、などの決まりがあり、計17文字の中に、自分が表現したいことをすべて詰めなければなりません。
その意味では、バレエにも同じような要素があるように思います。例えば、ストーリーのあるバレエで、言葉にすると2、3ページぐらいはありそうな出来事を、 32カウントの音楽の中で身体を用いて表現しなければならないときなどがこれに当たると言えるでしょう。振付という決められたステップを踏みながらも、その場面をどのように表現するかは個人のセンスにかかっているのです。踊りながら、「もう8カウント、音楽が長かったら……」などと思うことは度々あります。
このコラムを書くに当たって俳句についてリサーチをしていたら、偶然、ある有名な振付家が、俳句を使ったバレエ作品を作っていたことを知りました。ドイツでハンブルク・バレエ団の芸術監督を務めるジョン・ノイマイヤーの「月に寄せる七つの俳句(Seven Haiku of the Moon)」という作品で、松尾芭蕉や小林一茶、正岡子規など、著名な俳人が詠んだ月にまつわる俳句が朗読される中、踊りの小品が繰り広げられる内容なのだとか。ノイマイヤーは、俳句と踊りの間に、実際の言葉や動きが示すものよりもさらに多くのものを暗示することができるという共通点を見い出し、踊りと言葉、そして音楽の3つの要素を融合させて「目で見る俳句」として、その作品を作ったそうです。彼も私と同様に、俳句と踊りに接点があるという考えを持っていることを知り、とても光栄に感じています。
話は俳句に戻りますが、松尾芭蕉の有名な俳句の一つである「古池や蛙飛びこむ水の音 」。「古池や」の後で一呼吸、句の流れが切れて、読者はその一瞬の間に、作者を取り巻く環境や作者が抱く様々な感情などに思いを馳せることができるのだとか。このテクニックは「切れ」と呼ばれ、17文字という限定された語数で、句の流れを変えたり、世界を広げたりすることができるというのですから、奥が深いものです。なんという芸術! しかも、バレエでもこのテクニックは使えるではないですか!!
俳句的な踊り、目下、私も研究中です!
「古池や蛙飛びこむ水の音」の句碑
©Eckhard Pecher