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Thu, 21 November 2024

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

ロンドン動物園

ロンドン動物園は、リージェンツ・パークの北端を流れる運河沿いに位置する。1828年に開設され1847年に一般公開され始めた、世界で最も古い動物園の1つだ。36エーカーの敷地には現在、700種以上、約1万6000頭の動物が暮らしている。

運河沿いの鳥かご

一般的に、人間が暮らす建築物よりも、動物のための檻や小屋の方が構造的な制約が少ないため、その気になればかなり大胆なデザインに挑戦できる。1964年に出来た鳥かごは、その典型的なものと言える。なにしろ、構造的に自立し巨大なネットを設置することが出来れば良いのだから、高層ビルや美術館・博物館、あるいは人間の家を設計するのとでは、安全性においても規定が違う。また、リージェント運河に面した構造上、周辺の視界が開けているため公園内外からもそのシルエットを見ることができる。

大胆なフォルムながら、自然とも調和する形の鳥かご
大胆なフォルムながら、自然とも調和する形の鳥かご

一見、巨大なテントのように見える構造体は、マーガレット王妃の元夫でもある写真家、アントニー・アームストロング・ジョーンズ、建築家のセドリック・プライス、そして構造家のフランク・ニュービーによる合作だ。籠を支える鉄柱が木々の間からそびえるさまは圧巻で、バランス良く林立している。

二重螺旋の優美なフォルム

ロンドン動物園は園内の建築物を、その時代に活躍した建築家に依頼することに定評がある。そんななかでも特に話題を集めたのが、1934年に完成した設計事務所「テクトン」の代表、バーソルド・リュベトキンによるペンギン・プールだろう。近代建築家であるバーソルドは、コンクリートを使って大胆な造形美を実現させた。2重螺旋のスロープがまるでダンスを踊るかのように交錯するさまは、軽快でリズミカル。白く塗られたコンクリートは、灰色の重苦しさを塗り隠す効果もある。ドイツで芽生えたバウハウス出身の建築家たちがこぞって白塗りのコンクリート建築を造ったように、白い壁は新時代の到来を印象付けるものだった。

そして彫刻のようなスロープを構造的に解析し、構造物として実現させたのは、世界的な構造家オヴ・アラップだ。バーソルドとアラップの協同作には、代表的なものにハイゲートにあるハイ・ポイント集合住宅がある。構造家として世界中にその名を轟かせたアラップは、パリにあるポンピドゥー・センターやシドニー・オペラハウスなど、数々の構造的難題を解決している。

70年以上も前に設計されたとは思えないほどモダンなペンギン・プール
70年以上も前に設計されたとは思えないほどモダンなペンギン・プール

しかしこのペンギン・プール、今では一羽も泳いでいない。コンクリートという構造材料がペンギンの身体に悪影響を及ぼすという理由で、館内の別のプールに引っ越してしまったからだ。螺旋状のスロープを一列になって行進する愛らしい姿を見ることは、もうないと言われている。寂しい限りだが、これは人間の一方的な考え方に過ぎない。動物にとっては生まれ育った環境が一番快適であって、小さな動物園に閉じ込められるのは不快に違いない。

昨年新設された「ゴリラ・キングダム」では、右のガラス越しにゴリラを見るこ
とが出来る
昨年新設された「ゴリラ・キングダム」では、
右のガラス越しにゴリラを見ることが出来る

ニューヨークにあるブロンクス動物園の一画に「この世で最も危険な生き物」と題する鏡があるそうだ。その鏡が映す生き物とは、もちろん「人間」である。ロンドン動物園は、飼育を通して動物の生態を科学的に分析しているそうだ。当動物園には、マイナス面よりもむしろ、生態系を守ることへの寄与を期待したい。

 

藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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