世界三大博物館の1つとされる大英博物館は、長い歳月を経て集められた膨大なコレクションを有するが、これは世界各地に植民地を築いた大英帝国時代の功績が大きい。「略奪」との非難も聞こえてくるが、これほどの規模で世界の歴史と文化を一カ所に凝縮し世に公開している場所は稀である。
グランド・コートと大英博物館
2000年に整備されたグランド・コートは、英国建築界の巨匠、ノーマン・フォスター卿によって手掛けられた。無柱のガラス屋根から降り注ぐ明るい光は、権威主義的な重苦しさが漂っていた旧来の雰囲気を一転させ、現代建築による軽快な博物館へと様変わりさせた。しかも、迷路のような博物館に目印になる中心点ができ、博物館巡りのスタート地点や中継地点も明確になった。
さて、この膨大なコレクションも、もともとは個人の収集品がその基礎となっている。1753年、ハンス・スローン卿という内科医が、生涯をかけて集めた図書や植物、医学の標本などを、遺言により国に買い取ってもらい一般に公開したことが、この博物館の始まりだ。このスローン卿はかなりの資産家で、ロンドン南西部チェルシー地区のスローン・スクエアやハンス・ロードという地名に、彼の名前が残されている。
これらのコレクションは転々と移動を繰り返した後、1755年、モンタギュー・ハウスという館にて一般公開され始める。その後もコレクションは増え続け、同館が手狭になったために大々的な改修・新築工事が行われ、現在あるような古典的な大建築物が築かれた。工事は1823年に着工され、20年の歳月を経て中央ホールが完成。ギリシャ神殿を思わせる格調高いデザインの正面は、パルテノン神殿に代表される三角破風(ペディメント)が、プロポーションの良い柱で支えられている格好だ。このあたりに、英国の古典建築崇拝を垣間見ることができる。ただ、これは英国に限ったことでなく、新古典主義の時代には、世界各地でギリシャやローマ時代の様式が再現されている。
ギリシャ式オーダー
ガラスの屋根は天然の照明代わりになる
ギリシャ建築と言えば、パルテノン神殿を代表とする神殿建築が有名で、デザインの完成度はすこぶる高い。2500年以上もの長きにわたり「古典主義建築の規範」とされ、直接的にも間接的にも模倣され続けている。
屋根を支える柱の種類は「オーダー」と呼ばれ、大きく3つに分けられる。1つめは、柱頭部に平たい正方形の石を乗せた、力強くて男性的なイメージを与える「ドーリス式」。パルテノン神殿や、ポセイドン神殿の列柱が良い例だ。2つめは、アカンサスという植物の葉をモチーフにデザインした、装飾的な柱頭部を持つ「コリント式」。権力や武力を象徴する建物に好んで用いられた前述のドーリス式とは対照的に、女性的で華麗な建物に使用される。3つめは、大英博物館でも用いられている「イオニア式」。羊の角のような丸い渦巻き状の飾りがついているのが特徴的で、中性的な意味合いを持ち、アカデミックな建物に用いられることが多い。
柱頭のデザインが、建物の性質にまで影響しているのは興味深い。パルテノン風の建物を見かけたら、設計者の意図に思いを馳せながら、柱頭の形に目を向けてみるのも一興だろう。
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