ビーフ・ウェリントン
Beef Wellington
「今日のランチは英国らしい食べ物がいいな」英国には既に何度か遊びに来たことのある日本人の友人にそうリクエストされ、ロンドン市内にあるロースト料理がおいしいと評判の店に行きました。ビーフを始めポークにラムにチキンと、英国のロースト・メニューがよりどりみどりでしたが、「今日のスペシャルは『ビーフ・ウェリントン』ですよ。英国料理を食べたいなら、これがお勧め」と、にこやかな笑顔でウェイトレスさんが教えてくれたので、友人は迷わずそれを選びました。
「普段だとレアは好みじゃないんだけど、これは格別ね。サクサクとしたパイと牛フィレの軟らかさが絶妙だわ」
一口食べて友人が言いました。ちょうど友人の頬紅の色にも近いピンク色をした牛肉をマッシュルームのパテが覆い、それをパイ生地で包んで黄金色に焼き上げた、見た目にも美しい一品。「このソースもおいしい!」こっくりとした焦げ茶色のグレービーにも満足した様子を見て、「おいしい英国料理」 を紹介する大役を果たせた私は一安心です。
以前、本誌でも特集されたように、実は英国はたくさんのパイ料理で知られています。中でもこのビーフ・ウェリントンは、「ポッシュなパイ」「パイの王様」などとも言われ、ザ・リッツ・ロンドンやサヴォイ・ホテルなど、ロンドンの最高級ホテルのレストランでもメニューに挙がっているほどの、ちょっと特別なパイです。
ウェリントンといえば、1815年、ワーテルローの戦いで、ナポレオン軍を打ち破った初代ウェリントン公爵を思い出す人も多いのではないでしょうか。とすると、このメニューは、ウェリントン公爵の好物だったのかと思ってしまいますが、どうやらそうではないようです。
というのも、ビーフ・ウェリントンのレシピは19世紀の料理書には見つからないどころか、この料理の名前が残る最も古い記録としては、1939年に米国で出版された「Where to dine in Thirty-nine」というガイドブックだといいます。
その後、米国はもちろん、英国でも、特に1960年代にはパーティーのメイン料理として、大変人気になりました。以降、骨なし肉をパイ包みにしたものを「ウェリントン」と呼ぶのが一般的になり、チキン・ウェリントンやらダチョウ・ウェリントンという料理まで登場。最近ではベジタリアン用の、野菜やナッツを使った「ウェリントン」も珍しくなくなりました。
ウェリントン公爵の名前はブーツでも知られ、英国では長靴のこともウェリントン・ブーツと呼びます。長くてつやつやした見た目がこのブーツに似ているから料理名がついたという説もあるようですが、真相は不明。いずれにしても英国の英雄の名前がついた英国人の好きな料理であることに変わりはありませんが。
ビーフ・ウェリントンの作り方(4人分)
材料
- 牛肉(ヒレまたはロースト用) ... 550g
- マッシュルーム ... 500g
- パルマ・ハム ... 6枚
- パフ・ペストリー ... 375g
- 卵(溶きほぐしておく) ... 1個
- タイム(フレッシュ) ... 適量
- バター ... 20g
- 植物油 ... 適量
- 塩・こしょう ... 適量
作り方
- 牛肉にこしょうをまぶし、植物油を熱したフライパンで焼き、全体に焦げ目をつける。お皿にとって完全に冷ます。
- ❶のフライパンにバターを入れ、マッシュルームとタイムと塩・こしょうを加えて10分ほど、水気がなくなるまで炒める。お皿にとって完全に冷ます。
- まな板の上にラップを敷き、パルマ・ハムを6枚並べる。
- ❸の上に❷を敷き詰め、その上から牛肉を載せ、ラップを使ってハムとマッシュルームを肉全体に巻きつける。
- ❹を冷蔵庫で15分ほど冷やす。
- パフ・ペストリーを4分の1程度取り分け、残り4分の3を作業台の上に広げて、真ん中あたりに冷蔵庫から出した牛肉のラップを外して置き、パフ・ペストリーの片側の端に溶き卵を塗る。
- パフ・ペストリーで牛肉全体を包む。
- 取り分けておいたパフ・ペストリーで飾りを作り、❼の上に付け、全体に溶き卵を塗る。
- ❽を冷蔵庫で15分ほど冷やす。
- ❾をベーキング・シートを敷いたベーキング・トレイに載せ、200℃に予熱したオーブンで40分ほど焼く。パイがきつね色に焼けたら出来上がり。
memo
マッシュルームと一緒に、フォアグラやチキン・パテで牛肉を覆うものや、ハムの代わりにクレープで包むものなど、レシピには多くのバリエーションがあります。見た目がゴージャスでパーティーのセンター・ピースにぴったりのこの料理には、グレービーを添えるのをお忘れなく。