チャリティーのためのレシピ本
先月のある日、ショッピングの帰り道にバスの座席に座り、街で買った雑誌「ザ・ビッグ・イシュー」1336号を読み始めました。
その号は、表紙にサセックス公爵夫人メガン妃の写真が大きく使われていて、特集記事では、彼女が関わったレシピ本「Together:Our Community Cookbook」が紹介されていました。
それは、2017年6月に発生したグレンフェル・タワー火災で被災した人々へのチャリティーとして出版された書籍。その売り上げは、被災者の人々が集い、手作りの料理を食べることのできる「ハブ・コミュニティー・キッチン」と呼ばれる場所の運営に充てられています。
2018年1月に初めてこの場所を訪れたメガン妃。資金不足のためにコミュニティー・キッチンが週に2回しかオープンできないと知り、それならば、このキッチンで作られている料理のレシピ本を出版して、それを運営資金にしてはどうかと提案したのだそうです。
紹介されているのは、ウガンダ、アルジェリア、エジプト、ロシア、イラクなど、10カ国以上にわたる国々のレシピが54種類。ハーブたっぷりのラム・シチューや、ココナッツ・チキン・カレーなどが、紙面からスパイスの香りが伝わってくるような美しい写真とともに掲載されています。
このどれもがグレンフェルに住んでいた、またはそのコミュニティーに関わる人々が、家族や友人から受け継いできた料理です。ロンドンの街で、大きな災難の後に、こうした家庭料理を共に作り、一緒にテーブルを囲む。それはまさに、英国が多民族多文化コミュニティーであることのあかしであり、また、それを支えるチャリティー活動というのも、英国の素晴らしい一面だと、この本を手に取った誰もが感じるに違いありません。
実際に本のレシピに沿って「ベジタブル・サモサ」を作ってみましたが、クミン、ターメリック、シナモンなど、いくつものスパイスが入ったスナックは我が家でも大好評。これからも時々作ってほしいとリクエストされています。
チャリティーのためのレシピ本といえば、ほかにも昨年購入したものに「♯CookForSYRIA Recipe Book」があります。こちらは、今なお続くシリア内戦において厳しい生活を強いられている子供たちへの募金のため。シェフや料理家たちが、シリアの食材にインスピレーションを受けて作り出した料理のレシピが紹介されています。もとは、シリア料理を食べて、その売り上げをシリアの子供たちへ寄付する、というサパー・クラブから始まったこの活動。今や世界中に広がるムーブメントとなっています。
これらのレシピ本に登場するのは、英国伝統の食べ物ではありません。でも、私は英国で出版されるこれらの本にも「英国の口福」を見つけた気がしています。