レモン・メレンゲ・パイ
Lemon Meringue Pie
さくさくのパイ生地に、とろりとしたレモン味のカスタード・ソース。その上は表面こんがり、中はふわふわのメレンゲで覆われている——その中身をすべてくっつけた名前のお菓子が「レモン・メレンゲ・パイ」です。
レモンの酸味が効いた大人味(?)のデザート。初めて食べたのは8年前の夏、友人夫妻の次女マリアちゃんの洗礼式(Christening)の日でした。教会での洗礼式の後、友人宅ではビュッフェ形式のランチ・パーティーが行われました。そのとき、皆の目を釘付けにしていたのが、デザート・コーナーに並んだレモン・メレンゲ・パイ。パイ皮の上にそそり立つ、山脈のようにツノがいくつも立ったベージュ色の塊。周りの英国人たちはもちろん、それが何か分かっていたのでしょうが、私には謎のお菓子でした。
デザートを食べるタイミングになって、マリアちゃんの母で、このパイを作ったサラが、一人ひとりに切り分けてくれました。皿の上には、きつね色、鮮やかなレモン・イエロー、白、ベージュという美しいグラデーションのひと切れ。上面の焼けたメレンゲの部分がやや崩れ気味とはいえ、なんて美しいパイなんだろう、と感動したのを覚えています。
ひと口食べると、まずはレモンの酸っぱさが舌を刺激。その酸味をマシュマロのように柔らかなメレンゲの甘さが緩和させます。そこにしっとり気味のタルト生地が加わり、口の中で見事な「口福」三重奏が繰り広げられたのでした。
デザートはほかにも並んでいたのですが、このレモン・メレンゲ・パイが最初になくなっていたのを見ると、英国人の大好きなお菓子だというのは明らかでした。
パーティーの後、サラに「あのパイはすごくおいしかった。作るのは大変だったでしょう?」と言うと、彼女は「そうでもないの。ちょっとずるしちゃったから」と、キッチンの棚から小さな箱を取り出しました。
それはGreen'sというメーカーが発売している「Lemon Pie Filling」というもの。パイの主要3要素の一つであるレモン味のカスタード、その部分はこれで作ったというのです。「卵の黄身と水を混ぜるだけだから簡単。それにパイ生地は広げて使うだけの市販品。メレンゲはハンド・ミキサーであっという間にできるから、難しいことは何もないのよ」。
レモン・メレンゲ・パイの歴史については食物史家の間でもはっきりした確証がないようですが、19世紀の料理書には「レモン・パイ」や「レモン・カスタード・パイ」などの名前でメレンゲを載せたレモン・パイのレシピが登場しています。英国では1960年代に特に人気で、多くのレストランでデザート・メニューに上っていたそう。最近では、こうした昔懐かしいデザートがリバイバルしてきているので、パブやカフェなどでも見掛けることが増えてきました。一見ボリュームがありそうですが、意外と食べきれてしまうもの。くれぐれも食べ過ぎにはご注意ください。
レモン・メレンゲ・パイ(6~8人分)
材料
- 市販のショート・クラスト・ ペストリー生地 ... 1個
- 市販のレモン・パイ・フィリング(Green's社のもの) ... 1パック
- 卵の黄身(左記のフィリングに加えるもの) ... 1個分
- 卵の白身 ... 3個分
- カスター・シュガー ... 180g
作り方
- ショート・クラスト・ペストリー生地を20cmのパイ型に敷きこみ、ところどころフォークで穴を空けておく。
- ❶にクッキング・シートを敷いて、上からタルト用重石(小豆などの乾燥豆でも)を入れて、190℃に予熱したオーブ ンで15分ほど焼く。
- ❷をいったん取り出してシートと重石を取り除き、さらに 10分ほど焼く(きつね色になるまで)。
- 市販のレモン・パイ・フィリングを説明書に従って準備する。
- ❸の上から❹を流し入れる。
- ボウルに卵白を入れて、ハンド・ミキサーでツノが立つく らいに泡立てる。
- ❻にカスター・シュガーを3回くらいに分けて入れ、その都度よく泡立ててメレンゲを作る。
- ❺の上から➐をツノが立つように載せていく。
- 200℃のオーブンで20分ほど焼き、上面がベージュ色に焼き上がれば出来上がり。
memo
レシピでは簡単に作れるように市販品を使っていますが、 手作りのレモン・フィリング(レモン・カード)は香りも味も抜群に良いです。
参考レシピ: www.bbc.co.uk/food/recipes/lemon_curd_68499