ジャケット・ポテト
Jacket Potatoes
「ジャケット・ポテト」を初めて食べたのは、通っていた語学学校の学食でした。出てきたのはゲンコツ2つ分ほどもある、日本では見たこともないようなでっかいジャガイモ。英国に来てまだ日が浅かった私は、カウンター内のスタッフに「一番英国らしいトッピングを」と注文しました。すると、ぱっくり割れたジャガイモの上に、火山から吹き出したマグマかと見まごうほどのベイクド・ビーンズを山盛りにかけてくれたではありませんか。今ならぺろりと平らげられる量なのですが、当時はまだ英国サイズのポーションに(胃が)慣れておらず、半分くらい残してしまったのも懐かしい思い出です。
他国ではベイクド・ポテトと呼ばれるこの食べ物ですが、Oxford Advanced Learner's Dictionaryによれば、英国英語ではベイクド・ポテトの皮の部分を「ジャケット」と呼ぶので「ジャケット・ポテト」。イモですらスマートな(?) ジャケットを着込んでいるだなんて、「紳士の国」英国らしいと言うべきか——つまりこの焼きジャガイモには皮が必須というわけです。
この国ではランチや小腹が空いたときの軽食としてよく食されますが、作り方はいたって単純。ジャガイモを皮付きのまま丸ごとオーブンに放り込んで200〜220℃の高温でじっくり時間をかけて焼き上げるだけ。調理と呼ぶのも躊躇してしまう簡単料理ですが、トッピングを変えれば、毎日食べても飽きないほど様々な味わいが楽しめます。ベイクド・ビーンズはもちろんのこと、チーズ、ツナ & マヨネーズ、コールスロー、チリコンカン、海老のカクテル・ソースや、チキン・ティッカ・マサラ(英国発祥のカレー料理)などなど、パブやカフェでも相当な種類がありますし、自分で作るのなら、オリジナルのトッピングを考えるのも楽しいですよね。
ジャケット・ポテトが人気なのは、やはり英国人が「ジャガイモ大好き」なゆえでしょう。トーストやサンドイッチを始めとして英国ではパンも日常的によく食べますが、肉や魚などのメイン・コースにつけ合わせるのはたいていがジャガイモ(料理法は揚げたり、茹でたり、焼いたりと様々)。そういう意味ではやはり英国の主食(ステープル・フード / staple food)はジャガイモだと言えるのではないでしょうか。そのせいか、英国人の心の奥底に潜むジャガイモへの思いは、日本の米に相当すると考えても間違いではなさそうです。それが証拠に、日本人が米の種類にこだわるのと同様に英国人もポテトの種類には存外うるさく、ジャケット・ポテトに使うイモは、キング・エドワードやマリス・パイパーなど、調理したときに中がほっこりする品種でなければならないとされています。とは言ってもスーパーでは「ベイキング・ポテト」とラベリングされたイモが売っているので、品種名を知らなくても心配は無用です(ちなみに私が今回買ったのは「メロディー」というラブリーな品種名でした)。
ジャケット・ポテト(4人分)
材料
- ジャガイモ(直径約12cm、250g程度のもの) ... 4個
- オリーブ油 ... 適量
- 好みのトッピング ... 適量
作り方
- 皮のついたジャガイモを水で洗い、キッチン・ペーパーなどで水分をよく拭き取る。
- ジャガイモの表面にフォークを突き刺していくつか穴をあけた後、オリーブ油を塗る。
- 220℃に予熱したオーブンで約1時間~1時間半ほど焼く。
(ジャガイモの大きさやオーブンによって焼き時間はまちまちなので、調理時間はそれぞれ調整してください。電子レンジでも調理できますが、オーブンで焼いたものとは雲泥の差です) - 外側の皮がカリッとして、中がほくほくになれば出来上がり。熱々のうちに好みのトッピングをして召し上がれ。
memo
英国ではポテトのことを別名スパッド(spud)とも呼びます。この呼び名については少なくとも19世紀中ごろから使われていたといい、イモを掘り起こすときに使った鋤(spud)からきたという説があるそうです。