ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Fri, 04 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 4

ウナギのゼリー寄せ
Jellied Eels

Jellied Eels

ウナギ料理が隠れたロンドン名物だというのは、その昔、テムズ河でウナギがたくさん捕れたことが始まりのようです。1800年代には、安くて栄養価が高いウナギは、特にイースト・エンドに暮らす労働者階級の人々の重要なタンパク源となっていました。ロンドンに最初のウナギ専門店がオープンした当時には、ウナギをパイにして食べていたそうですが、現在残っている料理法は、主に「煮たもの(stewed)」と「ゼリー寄せ(jellied)」の2つ。日本人が食べ慣れている蒲焼きとは、ずいぶん様相が違います。

M.Manze ウナギのゼリー寄せM.Manse
左)緑のファサードが目印。店内には木製の長椅子が
中央)皿には11切れのウナギ。 かなりのボリューム
右)常連客だけでなく一見さんにも優しい店員さん

実は私、10年ほど前に取材でウナギ料理に挑戦したことがあります。訪ねたのは、当時、グリニッジにあった老舗のパイ店。その時は、ハードルの低そうな「シチュード・イール」をオーダー。これはぶつ切りのウナギを煮たものに、「リカー」と呼ばれるパセリ入りソースをかけて食べるのですが、意気地のないことに2切れほど食べたところでギブアップ。そんな前科を思い出しつつも、今回は「ゼリー寄せ」がテーマですから、食わず嫌いをしているわけにはいきません。そこで、ロンドンで最も古い「パイ & マッシュ & イール」店「エム・マンゼ(M. Manze)」に出掛けてきました。人気シェフのヘストン・ブルメンタールやリック・スタインもテレビ収録のために訪れたという同店は、1902年の開業。一歩足を踏み入れると、緑と白のタイルで彩られた歴史を感じさせる内装が目をひきます。

さっそくカウンターにて注文し、食べ方を尋ねました。フレンドリーな店員さんによれば「塩・胡椒とチリ・ビネガーを好みでかけてどうぞ」とのこと。そして、大きななべから白いお皿によそわれた今日の主役「ジェリード・イール」が登場。見た目は……骨付きのぶつ切りウナギに、透明のゼリーがしっかり張り付いています。皮の部分は薄青く、ミルク色の身とゼリーの透明感は爽やかな水彩画(?)のよう。まずは何もつけずに、ひと口。うーーん、味を感じる前に一瞬、生臭さが鼻腔をかけ抜けます。で、皮の部分はかなりの弾力でかみごたえあり。白身は、鱧はもの舌触りに近く、ほのかな甘みが感じられます。次はアドバイスに従って塩・胡椒とチリ・ビネガーをかけました。辛みと酸味がいい役目をしてくれたものの、結果は……やはりハードルは高く、完食ならず(もったいないので、残りはテイクアウェイにしました)。

オーナーの一人、ジェフさんによると、このメニューは1日平均10皿前後の販売数だとか。また、ウナギはテムズ河口で捕れたものも若干はあるものの、多くはアイルランドやオランダ産のものをロンドンの魚市場ビリングスゲートにある仲卸から仕入れているそうです。

最近では、スーパーでも売られていますが、せっかくなら、100年前のロンドナー気分を味わえる、老舗の「パイ&マッシュ」店で挑戦してみてください。

memo

エム・マンゼ(M. Manze)

1902年開店で、現在はロンドン内に3店舗を構える。創業者の孫に当たるグレアム、ジェフ、リックさん3兄弟が現在のオーナー。デービッド・ベッカムがここのパイをよく食べていたとか、エルトン・ジョンの「Made in England」のビデオに登場したなど、エピソードにあふれた有名店です。「ジェリード・イール」はウナギのぶつ切りを煮込んだものに、少量のゼラチンを加え、一晩おいて固めるだけのシンプルなレシピ。一人前3.65ポンド。ほかに同店の名物は牛肉パイとマッシュ・ポテトにパセリの入ったソース「リカー」をかけたものですが、大豆ミートを使ったベジタリアン用パイもあります。テイクアウェイのほかにデリバリー・サービスもあり、お土産用のオリジナルT シャツやマグなども販売しています。

87 Tower Bridge Road SE1 4TW
105 High Street, Peckham SE15 5RS
226 High Street, Sutton SM1 1NT
http://manze.co.uk

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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