今年は晴天が続く見込みと言われている英国の夏。つまり、これから英各地をめぐるには絶好の季節を迎える。
今回は、イングランド南東部にあるライを特集。古い歴史が今も生き続ける景色の間を海風がそっと吹き抜ける、この小さな街をめぐる旅を紹介する。
ロンドンからのアクセス:
キングス・クロス・セント・パンクラス駅、チャリング・クロス駅、ロンドン・ブリッジ駅などから列車で約1~2時間(ヘイスティングスやアシュフォードを経由)
ライってどんな街?
かつて海に面していたライは港町として繁栄していた。「岸辺」「魚市場」「人魚」といった、この街が海に面していたことを示す通り名がたくさんあるのはそのためだ。
13世紀前半までフランスの支配下にあったこの地をヘンリー3世が取り戻し、特権港に指定。ライの住人たちに海岸線の防衛を担うことを命じるのと引き換えに、免税や自治を認めた。14世紀前半に、主に高級品に対して関税がかけられるようになると、この地域には密輸業者が跋扈(ばっこ)するようになる。やがて海岸線が後退して港町としての機能が失われたことに加えて、フランスやスペインからの攻撃、黒死病の流行などの被害を受けて、この街や周辺の地域は没落していく。その後はまるでときが止まってしまったかのように発展を止めたため、街の至るところには、いまだ中世の趣が残っているのだ。
ゆっくり歩いても数十分で街全体を一周できてしまうほどの小さな街なので、ロンドンからの日帰り旅行には最適。廃墟のような佇まいの塔や城門、小石が敷き詰められた小道と、その脇に並ぶチューダー様式の建物を眺めれば、思わずタイムスリップしたかのような気持ちにとらわれてしまう。またアンティーク・ショップが軒を並べる河沿いでの買い物も楽しめるはずだ。
ライの地図
ライだけのものを求めてお買い物
せっかく遠出しても、視界に入ってくるのはロンドン市内でも見かける店ばかりというときほどがっかりすることはない。だが、ライではチェーン店らしきものが見当たらない。各店の店内には、ライだけでしか見つけることのできない宝物がたくさんあるのだ。
タイムスリップした気分になれる街歩き
歴史的建築物についての知識を事前に仕入れておけば、ライという街の散策がより楽しくなる。ホテルやカフェにまで古い逸話がたくさん残されているこの街を歩いていると、過去の偉人や風景が目の前に立ち現れてくるような錯覚さえ覚えてしまう。
絵葉書のような街並みを楽しむ街歩き
駆け落ち先からギャラリーに
Rye Art Gallery ライ・アート・ギャラリー
常設・特別展の開催及び展示物の販売を行っているギャラリー。この建物の一部は、1890年代にこの街に駆け落ちし、街の中心に立つ聖メアリー教会で結婚式を挙げたアーティスト同士が暮らした家だったそう。ギャラリーには絵画、彫刻、陶器などが展示されている。
写真)ギャラリーに入ってすぐが販売エリア、奥が展示スペースとなっている
107 High Street, Rye, East Sussex TN31 7JE
Tel: 01797 222433 無料
販売エリア: 10:30-17:00(日は12:00-16:00)
展示エリア: 木~月10:30-13:00、14:00-17:00(日は12:00-16:00)
www.ryeartgallery.co.uk
店内で織る姿が見られる
Plaristo Gallery プラリスト・ギャラリー
家族経営の編み物販売店兼アトリエ。店内の奥に置かれた織機を使って、日々作業が行われている。この店で織られ染められたラグやカーペット、靴下などに加えて、天然繊維を使用した毛糸玉といった商品を販売。また光るガラスやろうそくなど、店内には色彩豊かな商品が並ぶ。
写真左)鮮やかな色合いの商品ばかり。天然繊維を使った織物は優しい触り心地がする
写真右)店内に置かれた織機。作業している姿を見ることも可
55 The Mint, Rye, East Sussex TN31 7EN
Tel: 01797 222802
9:00-17:00
www.plaristo.com
品数の豊富さは圧倒的
The Quay Antiques and Collectables
ザ・キー・アンティークス・アンド・コレクタブルス
日本語で「岸辺」を意味するストランドの一画に軒を並べるアンティーク店の一つ。どの店も個性豊かな空間づくりをしているが、この店の無造作に置かれた品数の豊富さは圧倒的だ。用途さえよく分からないような不思議なものがたくさん置かれた空間は、まさに異次元の世界。
写真)店内には混沌とした独特の世界が広がっている。奥では商品の修繕作業を行う人の姿も
6-7 The Strand, Rye, East Sussex TN31 7DB
10:00-17:30
Tel: 01797 227321
廃れた家具の再生工場
Halcyon Days ハルシオン・デイズ
真っ白な扉を開ければ、白いペンキの容器がいっぱい。「チョーク・ペイント」と呼ばれる滑らかでつやのある特製の白ペンキを使って、各地の廃棄物入りコンテナや蚤の市で見付けた古びた家具を美しく再生させるというビジネスを営んでいる。再生させた家具やペンキなどを購入可。
写真)この店の目玉商品でもある、目が覚めるような真っ白なペンキで塗られた外観
Strand, Rye, East Sussex TN31 7DB
Tel: 01797 225543
10:00-17:00
www.halcyon-days-rye.co.uk
タイムスリップした気分になれる街歩き
小さいながらも見所がたくさん
Church of St Mary 聖メアリー教会
教会内にある鮮やかなステンド・グラスを眺めたら、入り口近くにある84段の階段を上ることをお勧めする。イングランドの教会で使われているものとしては最古の時計を見た後で、はしごのような細い階段を上って、8つの大きな鐘の保管場所へ。そのさらに上に行けば、街全体を見晴らす展望台に出る。
(写真右)聖メアリー教会のステンド・グラスは
比較的最近になって製作された
(写真上左)イングランドの教会に置かれているものとしては最古とされる時計
(写真上右)鐘が置かれた部屋
Church Square, Rye, East Sussex TN31 7HF
Tel: 01797 222318
無料(塔は£2.50)
9:15-17:15(冬季は16:15まで)
www.ryeparishchurch.org.uk
外国軍の侵入を防ぐ要塞
Ypres Tower イプラ・タワー
1249年に要塞として建てられ、その後は個人宅や牢獄として使われた塔。内部では拷問に使った機具や、密輸業者たちが船への合図に使ったちょうちんなどが展示されている。非常に小さい施設なので、内部の見学は数十分で済んでしまうはず。大砲が設置された、塔の南側の公共スペースから見渡す景色も美しい。
写真左)威圧感のある外観だが内部は意外と狭い。聖メアリー教会のすぐ裏手にある
写真右)聖メアリー教会の南側の小道にはチューダー様式の建物が並ぶ
Gun Garden, Rye East Sussex TN31 7HH
Tel: 01797 226728
10:30-17:00(冬季は10:00-15:30)
£3
www.ryemuseum.co.uk/home/ypres-tower
密輸業者たちの溜まり場だった
The Mermaid Inn マーメイド・イン
小石が敷き詰められたマーメイド・ストリートの中央にあるパブ兼ホテル。地下には創業年である1156年につくられた貯蔵室が現存している。かつてこの街のすぐ近くにまで海岸線があった時代に跋扈した密輸業者たちの溜まり場として使われていたのだという。暖炉と深紅のじゅうたん、白い天井に交差する黒い梁で構成された内部は中世の雰囲気たっぷり。
写真)宿泊客でなくともパブを利用可。またこのホテル内の各所では幽霊が出るとの噂も
Mermaid Street, Rye, East Sussex TN31 7EY
Tel: 01797 223065
一泊£90~
www.mermaidinn.com
米作家ヘンリー・ジェームズの住み家
Lamb House ラム・ハウス
歴史的建築物を保存する団体ナショナル・トラストが所有する建物。この家を建造させたワイン商人の名字を取って名が付けられた。「ねじの回転」などの名作を残した米国人作家ヘンリー・ジェイムズが暮らした家として知られており、彼はこの家でH・G・ウェルズやジョセフ・コンラッドといった英作家たちとの交遊を深めたという。
写真)ヘンリー・ジェイムズが暮らした家は、聖メアリー教会に続く道の上にある
West Street, Rye, East Sussex TN31 7ES
Tel: 01580 762334
£5
火・土14:00-18:00(冬季は閉館)
www.nationaltrust.org.uk/lamb-house
ライ版「兵どもが夢の跡」
Landgate
ランドゲート
街の西端にある大きな門。1329年に当時のイングランド王であったエドワード3世が、街の要塞化を強化するために資金を与えて4つの門をつくらせた。このうち唯一現存するものがこのランドゲートであり、かつては落とし格子や跳ね橋も付設されていたという。入場することはできないが、門の上部の内側には部屋がある。
写真)今でもこの門の下を人や自動車などが通過している
Fletcher's House Tearoom and Restaurant
聖メアリー教会の目の前にあるカフェ&レストラン。シェイクスピアに匹敵する才能の持ち主と言われたライ出身の劇作家ジョン・フレッチャーの生家であり、黒い梁がむき出しになった天井にティー・カップが吊り下げられているインテリアは一見の価値あり。奥にはテラス席があり、日替わりメニューとなる自家製のスープは美味。
2 Lion Street, Rye, East Sussex TN31 7LB
Tel: 01797 222227 水~月10:00-17:00
www.fletchershouse.com
Ye Olde Bell Inn
15世紀に建造された建物内にあるパブで、かつては密輸業者たちがたむろしていた。店名は、14世紀後半にこの街を襲撃したフランス人たちが聖メアリー教会の鐘を盗んだという逸話から付けられたもの。地元で生産された食材を調理したサンデー・ローストやタパス、サセックス地域のエール・ビールを提供している。
33 The Mint, Rye, East Sussex TN31 7EN
Tel: 01797 223323
11:30-23:00(日は11:00から)
www.yeoldebellrye.co.uk
Knoops
チョコレート・ミルク・シェイクとホット・チョコレートの専門店。暑い日には、近隣でこの店のシェイクを飲んでいる通行人を絶えず見かけるほどの人気ぶり。シェイク内のチョコレートの含有率に加えて、同じチョコでもダークかホワイトか、各種フルーツのすり下ろしをトッピングするかどうかなどを好みに合わせて選択できる。
Tower Forge, Hilders Cliff, Rye
East Sussex TN31 7LD
Tel: 01797 225838
10:00-18:00
www.knoops.co.uk
The Apothecary Coffee House
17世紀にロンドンで流行したコーヒー・ハウスの雰囲気を再現したカフェ。また「薬局」を意味する店名が示唆する通り、薬箱をインテリアとして活用するなどの趣向が凝らされている。オリジナル・ブレンドのコーヒーやアフタヌーン・ティーで一服するには便利。サンドウィッチやペストリー類も充実している。
1 East Street, Rye, East Sussex TN31 7JY
Tel: 01797 229157
9:00-17:00
www.apothecaryrye.co.uk
ライ近郊の街
ライは海と田園地帯に囲まれているため、周辺をドライブするのも楽しい。またライの街自体は非常に小さくすぐに一周できてしまうため、朝早くから出掛けた場合は、隣町へと出掛けるのも良いだろう。バスは1時間に1本の頻度で運行している。
ライと並ぶ歴史的な街
Winchelsea ウィンチェルシー
13世紀後半に街全体が海の中へと沈んでしまった後に、ときの国王エドワード1世の勅令によって再建されたという街。周囲には、英国の国民的画家であるJ・M・ウィリアム・ターナーが描いた田園風景が広がる。街の中心にひっそりと立つ聖トーマス教会や、かつて砦として使われていたストランド・ゲートなどが見所。
100番のバス(Conquest Hospital行き)で約10分
「金の砂」の美しさは見事
Camber Sands カンバー・サンズ
ライの南東側に位置する一帯で、ロンドンから日帰りで行ける範囲では最も美しい海辺の一つとして知られている。イースト・サセックス地域で唯一の砂丘があり、「金の砂」と形容される美しくそして広い砂浜は絶景。ウィンド・サーフィンやカイト・ボーディングなどの水上スポーツはもちろん、砂浜では乗馬なども行われている。
100番のバス(Lydd Camp行き)で約10分