新しい千年紀を記念するミレニアム・プロジェクトの一環として、2000年までに英国各地ではさまざまな公共事業が整備された。それらの中には、テムズ河に架けられたミレニアム・ブリッジとイングランド北東部ニューカッスルに架けられたゲイツヘッド・ミレニアム・ブリッジも含まれる。
テムズ河上で揺れるミレニアム・ブリッジ
ロンドンのミレニアム・ブリッジは、ノーマン・フォスター卿が設計した全長325メートルの優美な吊り橋だ。今ではセント・ポール大聖堂とテート・モダンを繋ぐ新しい都市軸として機能しているが、2000年6月に開通してわずか2日後には閉鎖の憂き目にさらされた。開通に合わせて詰め掛けた大勢の通行者が引き起こす横揺れが、見事に橋の持つ固有周期(一回揺れるのにかかる時間)と共鳴したのだ。それにより、橋はより激しく揺れ、歩行者は歩くこともままならない状態に陥った。華麗さを追求するあまり、構造的に華奢になったのが災いした格好だ。英国の威信をかけたはずが、欠陥品を世に知らしめてしまったが、幸い負傷者は出ていない。ちなみに横揺れのエネルギーを吸収するダンパーの取り付け工事には、9億円近い費用を要したという。
もう一つのミレニアム・ブリッジ
イングランド北東部ニューカッスルのタイン河に架けられたゲイツヘッド・ミレニアム・ブリッジも注目に値する。大胆な構造表現や洗練されたデザイン力に定評のあるウィルキンソン・イアー設計の斬新なアーチ橋で、全長約100メートルの歩行者専用橋である。こちらはオーソドックスなアーチ橋なのだが、驚異的なのは船の走行に応じて開閉すること。一般的な開閉橋では、真ん中で橋桁が2つに別れて跳ね上がったり、橋脚の軸を中心に横に回転したりする形式を取るが、ここでは両端に取り付けられた軸部を中心に縦に30度回転する。
造船などの産業都市として栄えたニューカッスルでは、基幹産業の衰退への対応策として、ウォーターフロント一帯において再開発事業が目白押しで、新旧相まった景観が築かれつつある。河畔にはノーマン・フォスター卿設計の音楽ホールも完成した。このホールは入道雲のような曲面が特徴的で、不思議とタイン河に架けられた他のアーチ橋と調和する。また幾重にも連なったカーブの連続は、独特のスカイラインを形成している。
橋梁デザインの新傾向
コベント・ガーデンにある
「ブリッジ・オブ・アスピ
レーション」
現代の技術では、全長4キロにも及ぶ長大橋や、数本の橋を連結させて十数キロに及ぶものまで建設可能となっている。しかし建物同様、高さや長さを競う時代は終焉に差し掛かっているように思える。それよりも、規模は小さくてもデザインの洗練されたものが、街中でその存在感を醸し出す。そんな時代の到来を予感させる構造物が、英国から発信されている。
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