イスラエルへの武器輸出を止めるべきか
- 人道支援の英国人ら殺害で、議論白熱
昨年10月に始まったイスエル・ガザ紛争は、発生から半年を経てもいまだ解決の糸口が見つかっていません。イスラム組織ハマスの戦闘員がパレスチナ自治区ガザ地区にイスラエル側から侵入し、約1200人を殺害した上に数百人を人質に取ったことがその発端でした。イスラエル側の反撃によってガザ地区の大部分が破壊され、3万人余りのパレスチナ人が命を落としたといわれます。
4月1日、包囲状態となって物資の欠乏に苦しむガザ地区のパレスチナ住民のため、食糧支援を行っていた慈善組織「ワールド・セントラル・キッチン」(WCK)の職員7人がイスラエル国防軍(IDF)の空爆によって亡くなりました。そのうちの3人が英国人だったため、紛争の悲惨さがより一層印象付けられました。WCKによると、100トンにも上る食料関連の物資を降ろしたトラック集団が動き出したときに攻撃を受けたそうです。トラックの行程はIDFとの調整の上で策定されていたものです。人道支援の活動であり、IDFの承諾の下に移動していたのに攻撃を受け、英国人を含む職員らが殺害されてしまったのです。英国はイスラエルに武器を輸出(UK Arms Exports)しており、英国製の武器で英国人が殺害された可能性もあります。割り切れない思いがするのは遺族だけではないでしょう。
イスラエルには独立国家として国を防衛する権利はあるものの、パレスチナ人市民の犠牲者数が増えるにつれて、軍事攻撃を一時的にせよ停止するべきという声が国際社会で広がってきました。WCK職員の犠牲をきっかけに、英政府に対してイスラエルへの武器売却を停止するよう求める圧力がより強まっています。すでに野党や与党・保守党議員の一部は政府に武器輸出の停止あるいは保留を求めていましたが、3日には、600人を超える司法関係者や学者などがリシ・スナク首相に公開書簡を送り、恒常的な停戦のために政府が尽力することやイスラエルへの武器輸出の停止などを訴えました。
書簡の主張を見てみましょう。今年1月に国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対し、ガザ地区でジェノサイド(大量虐殺)を防止するためにあらゆる措置を講じるよう命じています。ICJはイスラエルによる攻撃がジェノサイドだと判定したわけではありませんが、書簡の署名者らは政府がイスラエルに武器輸出を続行すれば、「英国はジェノサイドに加担するあるいは国際的な人道法に違反する」可能性があると警告しました。スナク首相は武器輸出について見直しを行っていると表明していますが、即時停止には慎重です。4月5日、今度は国連の人権理事会がガザ地区での停戦やイスラエルの武器売却停止などを求める決議を採択しました。
ストックホルム国際平和研究所によると、2019~23年にイスラエルが輸入した武器の69%が米国からのもので、これに続いたのがドイツ(30%)です。一方、イスラエル自身も武器輸出を行っており、輸入した国は上位からインド(全体の37%)、フィリピン(12%)、米国(8.7%)です。英国のイスラエルへの武器輸出の総額は2022年に4200万ポンド(約80億円)で、「比較的少額」(政府官僚)といわれています。でも、非営利組織「武器取引反対キャンペーン」(CA AT)によると、2008年以降、英政府がイスラエル向けに輸出承認をした武器は5億7400万ポンド(約1100億円)に上ると推定されています。
英政府がすぐにもイスラエルへの武器輸出を停止する可能性は低いかもしれません。デービッド・キャメロン外相は9日、輸出停止をしないと述べています。もしイスラエルが国際人道法を違反したとなれば、英政府は武器輸出を停止しなければなりませんが、最新の法的助言を基にこれまでの立場を変えないことにしたそうです。ガザ地区の惨状をテレビで見るたびに、武器輸出に慎重であってほしいと願わざるを得ません。
UK Arms Exports(英国の武器輸出)
英国の防衛関連企業が武器を輸出する際、政府から認可を受ける必要がある。輸出品が「国際人道法の重大な違反となる明確なリスクがある」、該当国の「平和と治安を乱す明確なリスクがある」、「英国が加盟する国際的な条約や決まりの下で違法と見なされる行為を発生させる」などに該当する場合、認可は下りない。