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Thu, 21 November 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 52

エッグ & ソルジャーズ
Egg and Soldiers

Egg and Soldiers

「黄身がちゃんとトロトロしてるかな~ ? ワン、ツー、スリー」

エッグ・スタンドに載ったゆで卵の頭の部分をスプーンでコツコツっと割ったあと、「イェイ!」と満面の笑顔になったのは、当時8歳だった下宿先の次男ジョー。「こうやってソルジャーを浸して食べるんだよ」。そう言って、細長く切ったトーストを、半熟の黄身がこぼれ出しているゆで卵につけていました。

英国に住みだしてまだ1年も経っていなかったころだったので、どうしてトーストをソルジャーと呼んでいるのか、意味がよく分かりませんでした。「兵士とトーストがどうして関係あるのだろう?」自分のリスニング力がないから、何か違う単語をソルジャーと勘違いしたのかと、あいまいな笑顔を向けると、ジョーが「ほら、こうやって兵隊が歩いていって、黄身の中にダイビングするんだ」と説明してくれました。そこでやっと、なるほど、細長く切ったトーストが、ベアスキンと呼ばれる背の高い帽子をかぶって直立している英国の衛兵に似ているのだと分かったのです。

子供のころ、誰もが親から一度は「ほら、兵隊さんだよ」と言われて、これを食べたことがあるはず、というくらい、この「卵と兵隊さん」は英国人にはなじみの食べ方。ただのゆで卵とパンの組み合わせ、といってしまえばそれまでですが、彼らには大変なこだわりがあるのです。そのこだわりとは、卵のゆで加減。というのも、ここでのゆで卵は、「ソフト・ボイルド・エッグ」と呼ばれる、卵黄がゆるゆるの半熟状態でなければいけないのです。

このコラムのNo.50 でコドルド・エッグをご紹介しましたが、あちらもやはり卵はどろりと柔らかいのがお約束でした。「マスターシェフ」や「グレート・ブリティッシュ・メニュー」といった英国の料理番組では、スコッチ・エッグやポーチド・エッグなどを割ったときに中から卵黄がとろりと流れ出してくるかどうかを、どのシェフも緊張気味に見守っていて、やはりこちらも卵黄の柔らかさが料理の決め手。英国人にとって、上手に半熟卵を作るのはとても重要かつ必須なテクニックなのです。

それを証明するかのように、1998年にBBCで放映され、大反響があったという料理研究家デリア・スミスの番組「Delia's How to Cook」を基にした同名料理書では、半熟卵の作り方が最初に紹介されています。

なお、誰が最初に細長く切ったトーストを「ソルジャーズ」と言ったかは分かっていません。ただ、1965年に「Go to work on an egg」という卵キャンペーンのTVコマーシャルで、ゆで卵とソルジャーズが紹介されたことが、この食べ方が人気になった要因の一つと考えられているようです。キャンペーンのおかげか、1960年代には、一人当たり1週間に平均5個の卵を消費するようになったそうですよ。

エッグ & ソルジャーズの作り方(1人分)

材料

  • 卵 ... 1~2個(お好みで)
  • 食パン ... 1~2枚(お好みで)
  • バター ... 適量
  • 塩・胡椒 ... 少々(お好みで)

作り方

  1. 小なべに卵を入れ、ひたひたに浸かるくらいの水を加えて、蓋をして沸騰させる。
  2. 沸騰したらすぐに火から下ろし、3~5分ほど蓋をしたままにして待つ。
  3. 卵を冷水に取り、水気をふいてからエッグ・スタンドに立てる。
  4. ゆで卵を作っている間にトーストを作り、バターをたっぷり塗る。
  5. ❹を細長い短冊状に切る。
  6. ゆで卵に好みで塩・胡椒を振りかけ、❺をディップして召し上がれ。
memo

卵の大きさによってもゆで時間が変わるので、お好みで調整してください。なお、トーストしていない普通の食パンをソルジャーにする人もいるそうです。私はトースト派ですが、皆さんはいかがでしょう?

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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