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Wed, 17 July 2019

第5回 サンタ・クロースはいますか?

2カ月以上も連載を休んでいる間に、今年もクリスマスの季節になった。クリスマスといえば、サンタ・クロースである。

先日の新聞には、東京で始まった「チャリティー・サンタ」の話題が掲載されていた。子供たちのために両親から預かった贈り物を24日の夜、ボランティアの若者たちが届けに行く。両親からは「配達料」を受け取り、それを原資に第三世界の子供たちにもプレゼントを届ける——。そんな活動だ。

サンタに扮するボランティアは、日本各地、世界各地にたくさんあると思う。それも今に始まったことではなく、相当に以前から、である。

あの不思議なサンタ・ボランティアの話を知人から聞いたのは、5、6年前のことだ。

知人は、北海道各地の児童擁護施設へ時々、ボランティアで慰問に出掛けている。かつて、そのボランティア仲間に50歳過ぎの年配の男性がいた。カバンや靴などを扱う卸売会社の社員だったという。

「もう亡くなってしまったけど、その彼がさ、実に不思議な体験をしたと言っていたんだよね。僕らの仲間では、語り草になってる。そんなことあるはずはないのに。実直で、嘘をつくような人ではなかった。だから、不思議なんだよね」

卸売会社の男性が、まだ30歳くらいの時だったというから、話は恐らく昭和のことである。男性はそのころから、児童養護施設への慰問活動を続けていた。

クリスマス・イブの夕方、男性は札幌での仕事を終え、車で数時間の施設へ出掛けた。後部トランクにはサンタ・クロースの赤い衣裳と、子供たちへのプレゼントの数々。例年のように、夜、施設に到着すればサンタに変身し、子供たちの枕元に贈り物を置いてくる算段だった。

施設へと雪道を向かう。出発が少し遅くなったこともあり、男性は途中から山道へ入った。それが近道なのである。

ところが、途中で、タイヤが深雪にはまってしまい、動かなくなった。タイヤの下にボロ布を敷いて脱出を試みたが、動かない。山道とあって、ほかの車も来ない。時間はどんどん過ぎて行く。

やがて男性はあきらめた。幸い、ガソリンはたっぷりある。エンジンを掛けて座席で少し眠り、別の車のクラクションの音で目が覚めると、もう朝だった。決まりが悪くなった男性は、施設に行くのをやめ、車を脱出させてもらい、札幌へ戻った。

そして、言い訳を考えながら、施設へ電話を掛けた。すると、施設長がこう言ったのである。

「ありがとうございました。子供たち、朝から大喜びです。仕事がずいぶん、遅かったんでしょう?宿舎のカギの場所、分かりましたか? しばらくは起きて待ってましたが、あなた様が来られたこと、私も気付きませんでした」

施設長は勘違いしているようだ。それに、自分のほかにもサンタ役をやる人がいるらしい。そう思いながら、男性が車に戻り、トランクを開けると、サンタの衣裳だけが残され、子供たちへのプレゼントはそっくり無くなっていた。

慌てた男性は、施設長へもう一度電話し、20個ほどあった贈り物の特徴を尋ねてみた。すると、それはまさに、彼が揃えたものと全く同じだったという。

サンタが実在するかどうかについては、米国の「ニューヨーク・サン」紙が1897年に掲げた有名な社説がある。8歳の女の子からの「サンタはいないと友だちは言うんだけど、新聞社のおじさんはどう思いますか」という投書に答えたものだ。

「ヴァージニア、それは友だちが間違ってる。何でも疑う年頃だから、見たことがないと、信じられないんだね……大人も子供も全部が分かるわけじゃない。広い宇宙では、人間って小さな小さなものなんだ。僕たちは、世界のほんの少ししか分からないし、本当のことを全部分かろうとするには、まだまだなんだ……」

卸売会社の男性の話が、本当だったかどうかは、この際、たぶん問題ではない。いろんな事情があって両親と離れて暮らす子供たちがいて、サンタを待ち望んでいる。その方が、話の真贋よりも、きちんと記憶されるべきことなのだと思う。

 
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高田 昌幸:北海道新聞東京編集局国際部次長。1960 年、高知県生まれ。86年、北海道新聞入社。2004 年、北海道警察の裏金問題を追及した報道の取材班代表として、新聞協会賞、菊池寛賞、日本ジャーナリスト会議大賞を受賞。2006~09年、ロンドンに駐在。
E-mail: editorial@news-digest.co.uk
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