第220回 黄金比と英国の建築
最近、コピー用紙のことで気付いたことがあります。環境問題に配慮して印刷の際には枚数を減らし、用紙のサイズも小さくしていますが、拡大印刷も縮小印刷も自由にできて非常に便利だと思う一方、コピー用紙のA版もB版もどんなサイズでも印刷が可能なのは、コピー用紙が相似形でできているからだと今更ながら納得してしまいました。つまり、用紙の縦横の長さの比率はどれも1対√2(白銀比)に固定されているのです。
白銀比は1対√2
実はこの白銀比はコピー用紙だけでなく、日本の建築から工芸、美術、アニメのキャラクターに至るまで多くのデザインに使われています。法隆寺の五重塔や伊勢神宮など有名建築物に多く採り入れられ、大和比とも呼ばれているそうです。大工さんが持つ直角の計算尺、指矩(さしがね)には裏面に角目と呼ばれる表目盛を倍した目盛が表示されています。大工さんは奈良時代から白銀比を自在に使いこなして建物を建ててきたようです。
奈良時代からある指矩
日本人が白銀比なら西洋人は黄金比でしょうか。黄金比は古代エジプトのピラミッドや古代ギリシャのパルテノン神殿、ミロのビーナスにも使われていたという長さの比率が1対1.618(正確には1対1+√5/2)のことです。黄金比を用いた設計は人々に安心感を与え、審美的な美しさを醸し出すといわれています。美容業界でも黄金比が重宝され、有名な英美容師のヴィダル・サスーン氏は黄金比カットの先駆者といわれます。
黄金比は1対1.618
1605号で白銀比は1対√2をご紹介しましたが、その周囲に並ぶジョージアン様式建築は、建物の全体だけでなく窓のサイズも部屋の仕切りも細部の意匠にまで黄金比で設計されているそうです。質実剛健、安心感を与える建物の秘訣が黄金比にあったとは驚きです。
黄金比が多く採用されたジョージアン様式建築
そして黄金比を英国建築に導入したのが建築家のイニゴ・ジョーンズ。ジョーンズはローマ時代の建築理論家ウィトルウィウスの著書「建築論」に注目し、対称性と比率によって建物各部の調和が生まれ、人間が美しいと感じる建築方法を重視しました。レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた「ウィトルウィウス的人体図」はそれを身体に応用したものです。また、イニゴ・ジョーンズの教えをくむクリストファー・レンが建てた最高傑作、聖ポール大聖堂も黄金比であふれています。英国の屋根素材メーカーが世界各地の有名な建築物を調査したところ、黄金比が最も多く採用された建築が聖ポール大聖堂なのだそうです。
レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」
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