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Thu, 21 November 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 蔵 健太

第15回 突然の舞台復帰

21 July 2011 vol.1310

マキューシオ役正式な舞台復帰作となったO2 アリーナでの
「ロミオとジュリエット」のマキューシオ役

ロイヤル・バレエ団にいると、怪我人や病人などの代役出演が多いことは今までも話してきたが、手術後初の舞台復帰も突然訪れた。

当初の舞台復帰予定は、O2 アリーナ公演での「ロミオとジュリエット」だったが、予定より10日以上早い、手術後7週間半でそのときはやってきた。

ロイヤル・オペラ・ハウスでのシーズン最終公演日の朝10時半、知人宅で朝からピラティスをしていると、急に自分の携帯電話に非通知設定で連絡がきた。ちなみにバレエ団からの急な出演要請があるときは、なぜか非通知設定だ。今回もコーチのクリストファーからの電話で、急にダンサーが病気になったので、最終演目の「春の祭典」に出演して欲しいとのことだった。

この作品は5年前にも踊っていて、振付家ケネス・マクミランの作品の中でも個人的に特に気に入っているものの一つ。ソリストからコール・ド・バレエ(群舞)までを総動員し、30分間ひたすら動き回らなければならない、とてもフィジカルな演目だが、踊り終わった後は言葉にならないくらいの達成感を得ることができる。

この演目については、膝のリハビリをしている頃から、正座など膝を深く曲げたりする動作も多いため、医者やフィジオ・チームからも、まだ踊らない方が良いとも言われており、バレエ団側もこの作品での自分の出演は見送ろうと決めていた。

しかし電話での会話の最後に、コーチから「やれるか?」と言われたときには、「やらせて頂きます」と、頭で考える前にもう返答してしまっていた。電話を切ったときに、踊れる喜びからか頭の先から熱いものを感じた興奮は今でも忘れられない。

急いで電車に乗りオペラ・ハウスに着いたら、もう緊急リハーサルが始まる時間。今回の振り付けが今まで自分が踊っていたものとは全く違うということもその場で知った。

リハが始まり本番までの約2時間は、ただがむしゃらに振り付けを覚えた。気が付くと、音楽を聴きステップを覚えることを楽しんでいる自分にまた出会うことができた。リハビリをし、バレエ・クラスを開始した頃から膝の回復が急速に早くなり、ジャンプを開始した時点ではもう、いつ復帰できるのだろうと、毎晩、舞台で踊る自分を想像しては興奮していた。しかし舞台前に久々に味わう緊張と興奮は、自分の想像をはるかに超えていた。


肝心の舞台も、何とかステップを間違わず乗り切ることができた。恥ずかしい話だが、オーケストラのイントロが聞こえたときには涙が出てしまった。舞台後、痛みが再発するのではとの周りの心配もあったが、腫れが少し大きくなる程度で収まった。何よりこの舞台後で得られた達成感は、今までとは比べ物にならないくらい大きなものだった。

復帰までの2 カ月間は正直、本当につらかった。何がつらいって、ダンサーなのに舞台で踊れないのがとても悲しかった。自分が怪我をしたために出演機会が増えてしまい、逆に怪我をしてしまうダンサーなどの話を聞くのも本当に申し訳なかった。

また、代役で踊っているダンサーよりも、怪我をして舞台で踊ることができないダンサーの方が、はるかに大きなハンデを心に背負うことも知った。

復帰後は、O2 アリーナ公演、北海道でのゲスト公演、バレエ団台湾公演も無事、全公演出演し、今シーズンを終えることができた。来シーズンも何があっても踊りたいという気持ちを正直に受け止め、舞台に挑んでいこうと思う。

 

蔵 健太
1978年8月2日生まれ。北海道旭川出身。95年にローザンヌ国際コンクールに出場し、スカラーシップ賞を受賞。ロイヤル・バレエ学校で2年間学んだ後、97年にロイヤル・バレエ団に入団する。現在、ソリスト。http://kentakura.exblog.jp
今後のスケジュール
「Alice's Adventures in Wonderland」3月15日~4月13日(フロッグ役)
(予定は突如変更になる場合があります)
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