第11回 不思議の国のアジアン・フロッグ
17 March 2011 vol.1292
「不思議の国のアリス」の公演が始まった。ロイヤル・バレエ団では毎年、複数の小作品が作られているが、全幕もので新曲による新作はなんと20年ぶり。振付家には、元ロイヤル・バレエ団のクリストファー・ウェルダン(通称クリス)を迎え、昨年の4月からリハーサルが行われてきた。
この作品では主要キャラクターの一人として、カエル(Frog)役を任されている。
プロローグではタキシードを着てアリスの屋敷の執事として登場し、不思議の国では緑のジャケットをまとってカエルに変身、その名の通り、ずっと飛び続けるフィジカルな役。今まで、誰かが踊った役を自分なりにアレンジし演じたことは多々あったが、全幕ものの作品で自分だけの為にステップをつくって頂いたのは初めてだったので、キャスティングされたときからとてもエキサイトしていた。
クリスは、リハーサル初日から自分が得意なジャンプのステップをたくさん取り入れてくれ、キャラクター作りについても熱心に相談に乗ってくれた。「ダンスのステップは僕がつくるけれど、演技とかは好きな風にアレンジしていい」と言ってくれたので、今回も自分にしかできないオリジナルなキャラクターつくりをすることにした。
まずはストーリーをしっかりと把握したかったので書店で本を購入。英語バージョンだとヨーロッパ風なイメージが強くなってきたので、和風キャラクターつくりにこだわりたくて日本語バージョンも購入。ストーリーを把握したところで、いよいよ踊りも含めたイメージつくりをすることにしたのだが、どうも上手く頭に湧いてこない。カエル役としてはクリスマスに「ポター」のジェレミーを踊っていたが、あれはマスクを被っていたので、表情をつける心配が無かった。表情をチェックしようとカエルの映像を動画サイトのYouTube などで観てみたが、どうもよく分からない(笑)。絵本も読んでみたが、かわいらしさが自分の顔とはかけ離れている。
そこでクリスにどんなキャラクターを求めているか相談したところ、「少しお馬鹿なカエルさん」がいいかな、という助言をもらい、アジア風のコメディアンを意識している。
そうやって演技はまとまってきたが、今度はダンスのステップのアクセントの付け方がしっくりこない。悩み付いた末に、自分のカエルとの出会いはいつだったろうと、過去を振り返ることに。北海道鷹栖町で育った自分は、田んぼが広がる農園のそばに住み、カエルにはすぐに触れることのできる環境にいた。
自分にとってカエルと言えば、季節は夏。友達と田んぼで捕まえ、足にひもを付け相撲をさせたり、レースをさせたりと、ちょっといたずらして遊んでいた記憶が目をつぶるだけで蘇ってきた。夏の暑い日に友達と花火をしながら、当時流行っていたテレビの話を皆と夜遅くまでし、家に遅く帰ると母が怒っていた情景がすぐに目に浮かぶ。
たまたま自分の登場シーンの音楽もアクセントの効いた曲だったので、ダンスのテーマは緑の爆竹を想像することにした。花火のイメージが自分の体の動きにもぴったり合ったし、ぱんぱん弾けるたびにみんなを驚かしてやろうという気持ちで飛んでいる。アジアン・コメディアンがカエルの格好してきゃっきゃっきゃっきゃっ言いながら爆竹のように飛び続けることなんてありえない、これができたら面白いかなって取り入れてみたら、クリスにも喜んでもらえた。
肝心の公演の出来にもまあまあ納得している。喜ばしきはチケットも完売し、連日満員御礼だということだ。もうすぐテレビで放送されるので、たくさんの人に観て欲しい。