第10回 自分の原点に返るとき
17 February 2011 vol.1288
ロイヤル・バレエ団では、毎年1〜2月の半ばまでのどこかに、「MID SEASON BREAK(中休み)」と呼ばれる休みが一週間ある。
クリスマス・シーズンは舞台数がとても多く、たくさんのダンサー陣がここで体力を使い果たし、疲労もピークに達するので、シーズン途中で一度お休みを頂けるのは、とてもありがたい。このお休みの使い方は個人の判断に任されていて、その過ごし方は千差万別。ロンドンを脱出し海外旅行へ行く人もいれば、実家へ帰り家族と過ごす人もいる。
怪我をしていたダンサーなどはここでリハビリもできるので、心身共にリフレッシュすることができる。
自分は今回の休みを利用し、日本は岡山県と広島県にて、バレエの教師活動を行ってきた。教師活動なんて言うと偉そうに聞こえるが、人に何かを教えるというよりは、一緒にバレエをしようという気持ちの方が強く、同じスタジオの中で一緒に語り合い、音楽を聴き、体を動かし、汗をかくことで、年の差を超えて舞台に立っているような感覚になっている。
小さい頃は自分も大人のダンサーと一緒にレッスンすることが大好きだったし、先輩の背中を見ながら、体の動かし方、リズムの取り方、呼吸の仕方などを自然に学んでいたような気がする。子供たちも一緒に楽しむことで、自分が持っているテクニックを少しでも掴んでくれたらありがたい。
プロになり、毎日のように舞台に立って自分の気持ちを伝えようと一生懸命頑張っているが、「始めから最後まで舞台を楽しめた」なんていうことは、ほとんどない。舞台上では細かな決めごとが多く、振り付けによるステップの制限などもあり、舞台終了後は成功したと思うより、「あのとき、こうしておけば良かった」という反省の気持ちが強いことが多い。疲労が溜まってくると、踊るというよりも働いているという感覚が強くなるときも正直ある。そんなとき、子供たちとバレエ・クラスをすることで、ただ純粋に踊りを楽しむという、自分の原点に返ることができる。
肩書きはバレエ・ダンサーだが、給料を頂くという意味では他の職業の方と何ら変わりはない。しかし、ただ舞台上でがむしゃらに働くだけでは、観に来てくれているお客さんを楽しませることはできないと思う。真剣に、そして純粋に踊りを楽しむことで、周りに気持ちが伝わるんだと言うことを、子供たちは自分に教えてくれている気がする。
「このステップができるまで帰らない」なんて言う子もいて、なかなか家に帰らせてくれないときもあるが、「あきらめてたまるか」という真剣な目に、こちらも「一緒に上手になろう」と、夜遅くまで熱くなってしまう。
日本での教師活動、実は国内旅行としても楽しんでいる。詳しくは自身のブログでも紹介しているのだが、今回も広島では耕三寺、原爆ドームへ行き、岡山では倉敷の美観地区へ行ったりと、観光も楽しんできた。
全国食べ歩きツアーと題して各地の郷土料理を食べるのも楽しみの一つ。岡山ではきびだんごを食べ、広島の焼き牡蠣もお好み焼きも、なまらおいしかった。
昨夏は、北は北海道から南は九州まで7都市を周ったが、「名古屋は天むすに手羽先」「福岡は屋台に明太子」など、毎晩食べ歩き、気がつくとデジカメの写真は食べ物の写真ばかり。仕事と旅行のどちらがメインで帰国しているのか、分からなくなってきている。
今年の夏も帰国する予定。いっぱい踊っていっぱい食べて、最高の夏を過ごしたい。