博物館の充実度では世界屈指の英国。もちろん、戦争にまつわる博物館も揃っている。王立空軍博物館や帝国戦争博物館には数々の戦闘機が展示され、その陳列の仕方も豪快だ。来館者を圧倒する、膨大な戦争関連資料の集積を可能にした大空間建築の魅力に迫る。
新しいランドマーク
ロンドン北部の町ヘンドンに王立空軍博物館がある。ステンレス鋼を葺いたヴォールト(カマボコ型)の建物、そして軽快なスチールのモニュメントは、民家が立ち並ぶ郊外地では一際目立った存在だ。この新館は、手堅さの中に力強い存在感のある建築を作ることで知られるファイデン・クレッグ・ブラッドリー・スタジオによる設計で、2003年に竣工(しゅんこう)した。ただ単に建物を敷地に配置しただけの旧博物館はこれといった魅力に欠けており、当時は新しい顔となる建物が熱望されていた。新しいデザインは、そうした人々の期待に存分に応えている。
内部では、白いファブリックがヴォールト屋根の内側を柔らかく覆っている。一見、膜構造のような素材は初期型飛行機の翼を彷彿とさせる。そして天井からは、クラシックな飛行機が吊り下げられている。壁面一杯に記された航空史を眺めるのも楽しい。また格納庫のような旧館を合わせると130機にも及ぶ戦闘機やヘリコプターが悠然と陳列されているなど、郊外という地の利を生かして巨大なスペースが贅沢に使用されている。
シンボル・エントランス
飛行機が大空へ飛び立つ瞬間をイメージしたようなフォルムの彫刻は、ロンドン在住の日本人建築家・彫刻家、川上喜三郎氏によるものだ。デザイン競技会で最優秀作品に選ばれた濃いグレーと淡い黄色のモニュメントは、新館と共にライト兄弟初飛行100周年を記念して作られた。実は、この構造体はエントランス・キャノピー(庇)、そしてベンチにもなっている。
大建築の発展
今や鉄や新素材の発達によって、大空間建築はさらに巨大化してきている。リチャード・ロジャース卿による世界最大級のドーム、ミレニアム・ドーム(現The O2)などは、直径365メートルに及ぶほどだ。
ドーム建築の出現はローマ時代にまで遡る。もともと石や日干し煉瓦を、円弧を描くように積み上げたアーチ構造が原型になっているようだ。アーチをその頂点を中心に360度回転させれば、その軌跡はドームを描くことになる。また、アーチを直線状に移動すれば、その軌跡はヴォールトを描く。
アラビア半島の砂漠地帯で屋根を架けるために編み出された建築工法を遠征中のローマ人が発見し、その技術を自国に持ち帰り発展させたとの説もあるらしい。確かに木材の入手が困難な砂漠では、石やレンガを積み上げることでしか屋根を作ることは出来なかったかもしれない。しかし、今となってはアーチを発明したのはローマ人ということが定説となっている。
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