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Tue, 12 November 2024

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

ゼロ・エネルギー建築 BedZED

世界規模で地球環境を守る気運が高まっている。少々荒っぽい言い方だが、環境を守る視点に立てば、建築や都市を作る建設行為は地球を傷つける生産活動だ。自然のエネルギーを最大限活用しエネルギー負荷を抑えた建築が注目を集めるなど、建設業界は今、大幅な路線変更を余儀なくされている。

環境に優しい住宅の代表格、BedZEDの外観
環境に優しい住宅の代表格、BedZEDの外観

省エネルギー建築

環境問題にいち早く対処している英国では、環境に優しい住宅や集合住宅が数多く建設されている。中でも再生可能資源の活用を徹底化したピーボディ・トラスト社によるBedZED:(Beddington Zero Energy Developmentの略)は、英国を代表するエコ建築だ。2002年、ロンドン南部の郊外ウォーリントンに完成したこの100戸の集合住宅(分譲・賃貸・職住混合)では、謳い文句通り二酸化炭素を排出する化石燃料に極力頼らず、再生可能なエネルギーの活用が実践されている。

ここにはバイオ燃料電池を利用した発電システム、高気密・高断熱による理想的な熱環境、自然換気による熱交換、雨水や排水の再利用といった仕組みがある。そのほか太陽エネルギーを取り込むソーラー・パネルが日当たりの良い南面の外壁や屋根に取り付けられ、電気自動車を走らせるために使用されている。建築資材の選択にも細心の注意が払われ、建設地から半径35マイル(約56キロ)の範囲で調達できるものを採用し、運搬によるエネルギー消費を低く抑えている。もちろん、廃棄しやすい自然素材を積極的に使用し、間接的なリサイクルにも貢献している。

エコ思想と遊び心が共存

BedZEDの設計を手掛けた建築家のビル・ダンスターは、先に挙げた具体的な省エネ機能だけではなく、例えば集団で暮らすことの利点に配慮した保育園や家庭菜園の併設、または共同での電気自動車の所有など、彼が理想とするサステイナブル(持続可能)な暮らし方をこの集合住宅の中に提案した。共用施設の中には、エネルギー節減のアイデアを一般に公開するための展示場もあって、啓蒙活動に一役買っている。

実際この建物は、光熱費の大幅な削減、上水使用量の半減、ガソリン車の利用率低下などといった成果をもたらしている。しかもエコ理論優先の合理的な建物であるにもかかわらず、遊び心がデザイン面に見え隠れしているのが面白い。例えば、今やBedZEDのシンボル的存在になっている色とりどりの風見鶏は風力を生かした熱交換機となっている。風を捉える度に回転する様は本当に愛らしい。

BedZEDのバルコニー
BedZEDのバルコニー

英国ならではの強み

さてこの事例を見て、目新しい先端技術が駆使されていると感じた日本人読者は少ないのではないだろうか。というのもこれらの省エネのアイデアは、日本でもなじみ深いものばかりだからだ。しかし、注目すべきは「二酸化炭素の排出量を抑える」、「省エネルギーな建物を作る」などの至上命題さえあれば、英国はその実現に焦点を絞り込み、エコ対策において世界のリーダー的存在にのし上がるプロパガンダに長けているという点だ。英国は時代の変化に対応し、法律がどんどん変わっていくことでも有名だが、建設業界においても例外でない。開発申請の段階で、当局から新しいエネルギー・システムの提案を求められるようになった。空調負荷を高くする全面ガラス張りの建物は、現行法ではもう許可されない。

ちなみに、米国でも同じような規制が実施されている。そうなると、今や総ガラス張りの建物の建設が可能な場所は、建設バブルに沸き立つ中東や中国などといった限られた地域に収束することになる。新しい建物のデザインを見れば、その国の環境保全に対する方針や政策が読み取れるのだ。

 

藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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