instagram Facebook ツイッター
ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Thu, 29 October 2020

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

シネワールドが英米の全映画館を一時閉鎖に - ボンド作品の公開延期で苦渋の選択

英国の新型コロナウイルス感染者が10月上旬、累計50万人を超えました。いったんは収まったかのように思えましたが、第2波の様相を見せてきました。

コロナ危機によるビジネス面への負の影響はこれまでにも報道されてきました。ただ、映画館の運営では世界第2位を誇る「シネワールド・グループ」が、同9日から英米にある全館を一時閉鎖するという発表に、驚いた方も多いのではないでしょうか。米国では傘下である「リーガル」の536カ所、英国では127カ所の「シネワールド」と「ピクチャーハウス」が閉館し、非正規の従業員を含むと最大で約4万5000人(英国では約5500人)が当面は職を失うことになるそうです。

これまでを振り返ると、コロナ感染の拡大を防ぐため、英国では3月から外出自粛、都市機能の封鎖(ロックダウン)が行われ、外食産業や映画館、劇場などの興行界は大きな打撃を受けました。その後ロックダウンは次第に解除され、シネワールド系列の映画館も7月末から再オープンしましたが、最近になって再び大きく感染者が増えだしました。スコットランド自治政府は主要都市を含む地域でパブやレストランなどを10月25日まで閉鎖する措置を発表し、英北部を中心に全国的な規制強化の動きが出ています。

9月末、シネワールド・グループは今年上半期16億ドル(約1695億円)の損失を計上したと発表しました。ロックダウン中に映画館の閉鎖を余儀なくされたことが原因です。夏には再開しましたが、大きな収入源となるはずだったスパイ映画「007」シリーズ最新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の11月公開が来年の4月に延びてしまいました。元々、今年4月に公開予定だったので、再延期です。これがシネワールドの経営改善のための「最後の望み」を打ち砕いてしまいました。9月に公開されたSF大作「TENET/ テネット」も期待されたほどには収益が上がっていないと言われています。

映画館運営では世界最大の米AMC社の傘下にあるのが英映画チェーン「オデオン・シネマズ」です。国内の映画館の一部は週に4日開館とし、営業時間も縮小される予定です。同社はその理由を、「新作の多くの公開時期が遅れているため」としています(BBC ニュース、10月5日付)。米ハリウッドの映画製作会社は巨額を投じた大作を映画館に出しても十分な収益が得られないとあって、コロナ危機が落ち着くまでは公開に消極的なようです。

最近、皆さんは映画館に出掛けていますか?筆者自身、ロックダウン以来一度も出掛けていないことに気付きました。当初は感染への警戒感で行かなかったのですが、主要テレビ局による無料の動画サービス、それにオンライン有料サービスのネットフリックスやアマゾン・プライムなどを利用すれば、たくさんの映画やドラマ、ドキュメンタリーを自宅で好きなときに視聴できるので、自然に足が遠のいてしまいました。

「エコノミスト」誌のメディア記者は、今後の映画は、「自宅で鑑賞する、比較的製作費が低い映画」と「大きな劇場でなければ楽しめない、巨額予算の大作」の二手に分かれると予測しています(ポッドキャスト、10月6日配信)。

近年、映画館はネットフリックスなどに対抗するため、リクライニング・シートを取り入れるなど施設への投資を行い、「特別な日のための特別な鑑賞体験」の奨励に力を入れてきました。しかし、閉館すればせっかくの投資を回収できず、開館しても社会的距離を維持する必要性から、定員をはるかに下回る観客数になります。収入増のためにチケット代を上げる手もありますが、観客が納得するほどの「何か」が必要です。シネワールド・グループは閉館を「一時的措置」としていますが、再々オープンの際には開館数や従業員数が大幅に減少している可能性が高いのではないでしょうか。

キーワード

Cineworld Group(シネワールド・グループ)

1995年に発足した、英映画館運営会社。同業種の会社を買収することで規模を拡大させ、2018年に米映画チェーン「リーガル・シネマズ」を買収して世界第2位の画面数(約9500)を持つ企業になった。英国、米国以外にも、チェコ、ハンガリーなどの東欧諸国、イスラエルを含む全10カ国で運営。収入の73%は米市場による。現在の正規従業員数は約3万7000人。

 
  • Facebook

バナー バナー バナー バナー

コロナに負けるな!応援フェア
ロンドン・レストランガイド ブログ