ホスピタリティ事業: 一時的な付加価値税(VAT)の税率変更
英国では、ホスピタリティ事業のために新たに付加価値税(VAT)の税率引き下げが導入されたと聞きました。これはどういったものですか。
新型コロナウイルスの感染防止策として休業やソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を強いられ、最も大きな影響を受けているのが接客業であるホスピタリティ事業や観光事業などです。こうした事業部門の支援を目的に、英国では新たに付加価値税(VAT)税率の一時的な引き下げを導入しています。
新しい税率は2020年7月15日に導入され、21年1月12日まで適用されます。現行のVAT標準税率20%の対象となる供給には、5%に引き下げられた税率が適用されます。
引き下げられた税率は、具体的にはどういったものに適用されますか。
新たな税率の対象となる供給には、レストラン、カフェ、バーなどで消費される食べ物や非アルコール飲料のほか、店舗外での消費のために供給されるテイクアウトの調理した食べ物なども含まれます。また、英国全土のホテルや休暇用の宿泊施設のほか、博物館、劇場、映画館、動物園、テーマ・パークなどの入場料にも適用されます。
企業はVATの節約分を必ず顧客に還元する必要がありますか。
VATの税率引き下げの狙いは、消費者にレストランやバーをもっと利用するよう奨励することのように思えますが、消費者がVAT税率の引き下げの受益者であるべきだという記述はありません。企業が価格を下げてVATの節減分を消費者に還元する必要はありません。価格は同じ水準に維持して、単に歳入関税庁(HMRC)に支払うVATの金額を減らすことを選ぶ企業が多いと予想されています。これは企業が、強制的な休業で被った損失の一部を取り戻すのに役立つはずです。
引き下げられた税率は、消費者向け供給の事業だけに適用されますか。
いいえ、法律では、企業から別の企業への供給(B to Bの供給)が削減税率の恩恵を得ることを止めるような規定は何もありません。
例えば、税率の引き下げは、ホテルの部屋を顧客に販売するために購入する旅行代理店にも適用されます。1月12日以前に購入したホテルの部屋をそれより後に使用する場合もこの削減税率を適用することができます。これは、VATの税率が変更される場合の課税時期の規則に従ったものです。この法律の全体的な狙いは、最終消費者への供給か卸売の供給かに関わらず、新型コロナウイルス流行の影響を受けた企業を支援することにあるようです。
ホスピタリティ事業では、どのような点を考慮する必要がありますか。
税率引き下げの対象となる適格な供給を行うホスピタリティ事業では、以下の点を考慮する必要があります。
• 正しいVATの税率が供給に適用されていることを確認する
• VATの節約分を顧客に還元するために価格を調整するか、単にHMRCへのVAT支払い額を減らすか検討する
シャロン・ギリス
VAT パートナー
HMCE(現HMRC)にてVATアシュランス関連業務、その後多国籍企業や様々な分野の顧客へのVATの助言を専門とする。現在GBAのVAT部門に高い専門性と豊富な知識をもたらしている。