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EUに保護された英国の名産品
生産農家の数が年々減少している英国の野菜「ヨークシャー・フォースド・ルバーブ」に2月、EU保護食品(EU Protected Food)の称号が与えられた。かつて「食べもののまずい国」として広く知られながらも、近年になってその食の質を格段に上げた英国における伝統の食材には、ほかにどのようなものがあるのだろうか。
英国の主な保護食品
- Protected Designation of Origin(PDO) 特定の地域において、生産、加工、調製のすべてが実施された名産品
- Protected Geographical Indication(PGI) 特定の地域において、生産、加工、調製のいずれかが実施された名産品
- Traditional Specialty Guaranteed(TSG) 独特の伝統を受け継いでいると見なされた名産品
各紙の紙面を騒がせた赤い茎状の野菜
2月末、英国の各紙には、暗い倉庫の床に敷き詰められた土からひょろりと伸びる、赤い茎状の野菜の写真が大きく掲載された。日本人にとってはあまり見慣れないその野菜の正体は、「ヨークシャー・フォースド・ルバーブ」である。
かつては200軒もの生産農家があったにもかかわらず、今ではわずか12軒の農家が生産するのみのヨークシャー・フォースド・ルバーブに、欧州食品保護政策の保護食品としての認可が与えられたことを受けての報道であった。この決定により、イングランド北部ヨークシャーのリーズ、ウェイクフィールド、そしてブラッドフォードの3都市を結んだ三角の域内にある農家が生産するルバーブだけが、「ヨークシャー・フォースド・ルバーブ」として販売されることが法的に認められた。
ヒラリー・ベン環境・食糧・農村相が生産者たちに祝辞を送るなど、このニュースを受けた英国は、大騒ぎになった。栽培農家にとっては長い伝統を受け継いできた生産品の意義を広く社会に知ってもらえたことは、大変な喜びとなっただろう。
EUの食品保護政策とは
「保護食品」としての地位を与えることにより、生産者の権利と生産物のブランド名を守ることを目指すEU食品保護政策が始まったのは、1993年。以来、欧州域内にある様々な名産品がこの保護下に置かれることになり、現在のところ、この保護リストには、1300を超える食品がある。恐らく最も広く認知されているのは、フランスの「シャンパン」、イタリアの「パルマ・ハム」などだろう。
保護食品は、異なる3つのカテゴリーに分けられる(上図参照)。ヨークシャー・フォースド・ルバーブのように、限定されたある特定の地域において、生産、加工、調製のすべてが実施された名産品がPDO。ウェールズ・ビーフのように、特定の地域でそれらの行程のうちいずれかが実施された食品がPGIだ。さらに、生産手法などの伝統に特異性があると認められた食品には、TSGという称号が与えられる。
これらの称号を得るためには、長い準備期間を要するのは言うまでもない。生産されてきた歴史的背景、生産地域との関わり、そして当然ながらなぜその食品が保護対象とされなければならないのかを説明する確固とした理由付け。こうした項目におけるいくつもの審査をくぐり抜ける必要があるため、申請してから認可が得られるまでに、2年を要することもあるという。
英国が保護したい食品
これまで保護食品に認められた英国の食品は、ルバーブを含めてやっと41種類。他方、食の先進国とみなされるフランスやイタリアでは、それぞれ既に300を超しているという。
多くのセレブリティー・シェフが活躍し、食の質は格段に向上してきている英国だが、それでも英国の食事はまずいとの認識はいまだに多くの外国人が持っている傾向がある。そのような悪評を覆すためにも、パルマ・ハム、ロックフォール・チーズなど世界的な知名度を誇る食品と同じ称号を持つ食品が増えることは、英国人にとって大きな名誉となるに違いない。
ルバーブ
和名はショクヨウダイオウ。シベリア南部原産のタデ科植物。英国では旬の5月になると、スーパーマーケットなどで束で販売される。クランブル、パイ、ジャムなどの材料として、調理時に多量の砂糖を使う場合が多い。わずかにセンノサイドを含むことから、口腔内に鈍い刺激を感じたり、食後に下痢になる人もいる。「ヨークシャー・フォースド・ルバーブ」は、その栽培過程において摂氏50度ほどに保たれた屋内に置くという手順を踏むことから、その名に「フォースド(Forced)」という単語が含まれるようになったと伝えられている。(守屋光嗣)