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Fri, 19 December 2025

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後世に大きなインパクトを与えた - 英国生まれのSF作品

後世に大きなインパクトを与えた英国生まれのSF作品

SF映画の金字塔、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」(1968年)SF映画の金字塔、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」(1968年)

英国には、今日のサイエンス・フィクション(SF)というジャンルが整う前から、小説におけるSFの先駆者、またSF映画の鬼才が多数活躍し、文化史を彩ってきた。1960年代から続く英国SF協会賞やSF作品のテレビ・シリーズの放映など、同ジャンルの活動は今も変わらず人気が高い。今回は、英国で生まれた主要なSF作品とその影響を振り返りつつ、人々の心を離さないSFの魅力について調べてみた。(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.bbc.co.ukwww.britannica.com ほか

サイエンス・フィクションの定義

発展し続けるSF

オックスフォード辞典では「未来における想像上の科学的発見に基づいた本や映画などの一種を指し、そのテーマとして宇宙旅行や他の惑星での生活が扱われることが多い」、参考図書を出版する米メリアム=ウェブスター社のサイトでは「主に実際の科学、または想像上の科学が社会や個人に与える影響について扱ったフィクション、または科学的要素を重要な方向付けの要素として扱うフィクション」と定義されている。

SFというジャンルの確立は、主に文学的、科学的な成長が著しい世界の先進国で生まれたといっても過言ではない。現在のSFは1920年代にその原型が生まれたといわれているが、そこに明確な年はなく、またSF思想の始まり自体を考えると古代神話まで遡ることができる。時代の潮流に合わせて変化してきたジャンルといえる。

「科学」がキーワード

SF作品はファンタジー作品と混在しがちだが、SFは科学や技術的な進歩をもとに描く世界で、未来のどこかの時点で現実になる可能性が大いにある。一方ファンタジーは、魔法や超自然的な生き物が暮らす世界の話であり、架空の概念を扱うことが多い。本記事では現実に存在しない、近未来や科学的・技術的進歩の結果として仮定されるものをSF作品とし、今日のSFジャンルを確立した作品全てを指すこととする。

ブラックなテーマが盛り込まれた英国のSF作品の潮流

まずは英国出身、また英国で活躍した特に著名な人物の作品を紹介し、「これもSF作品なのか」と思えるような具体例を交えながら、曖昧なSF作品について切り込んでいこう。

SFの形をとった風刺作品

初版の「ガリバー旅行記」初版の「ガリバー旅行記」

ガリバー旅行記(1726年)


Gulliver's Travels ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift)

サイエンス・フィクションの要素が散りばめられ、 SF小説の先駆けの一つと考えられている作品。主人公ガリバーは航海中に難破し、小人の国、大人の国、馬の国などに漂着し、そこでの体験をまとめた物語だ。本作を匿名で発表したジョナサン・スウィフトは、もともとアイルランドからイングランドに来てトーリー党で働いていたが、政権がホイッグ党に変わったため、またアイルランドに戻らざるをえなかった過去がある。

同作は一見児童小説の体裁を取っているが、全編を通して読むと英国人や英国の政治に対する風刺作品であることは有名。作中に「卵の殻の正しい剥き方は、大きな方の端から割るか、それとも小さな方から割るか」というどうでもいい理由で、国同士が戦争に発展した一幕が描かれているが、これは英仏間における馬鹿げた戦争を批判したものだとされている。

神に挑戦した禁断の書

1831年版の挿絵1831年版の挿絵

フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス(1818年)


Frankenstein; or, The Modern Prometheus メアリー・シェリー(Mary Shelley)

ゴシック小説の代表作かつ当時の科学的根拠から考えられたSF作品として広く評価されている。科学者のフランケンシュタインは、生命の謎を解き明かそうとして死体を繋ぎ合わせ、怪物を作り上げる。容姿は醜くとも心を持った怪物はフランケンシュタインに対しある要求をするのだが……。神が人間を作ったと信じられていた時代に、科学者が生命を創造し、神に挑む本作は、従来の宗教観が根強く残っていた当時の読者に大きな衝撃を与えた。

シェリーが同作を匿名で執筆したときの情勢は、英国内外で政治的動乱があり、社会不安が募っていた。当時道徳のない科学技術の拡大に対する警告の書とされていたが、主張を持ったが故に悲しい最後を迎えることになった怪物は、当時抑圧されていた女性の立場を表しているのでは、と近年フェミニズムの視点から再評価されている。

科学の発達が幸福とは限らない

H・G・ウェルズH・G・ウェルズ

タイム・マシン(1895年)


The Time Machine H・G・ウェルズ(Herbert George Wells)

19世紀後半の英国では、蒸気機関車や電話、電気などの急速な科学的進歩があった。この時代に、H・G・ウェルズはタイム・マシンに乗って未来を見に行く「タイム・トラベル」というこれまでにない斬新なアイデアを生み出す。当時の最先端の技術とロマンを大胆に融合させ、大衆受けを狙い商業的成功も収めた作品であったが、行った先の明るく楽しい世界は果たして本当にユートピアだったのかという、人類の終焉をうっすらと予感させる物語だ。

本作でウェルズは、未来が必ずしも現在想像している世界であるとは限らないという急進的な考えを表している。ウェルズはほかにも「透明人間」(1897年)「宇宙戦争」(1898年)「解放された世界」(1914年)など、数多くの名作を残しており、後世のSF作家に多大な影響を与えたことから、SFの巨人、SFの父と呼ばれている。

全体主義に対する警告

ジョージ・オーウェルジョージ・オーウェル

1984(1949年)


1984 ジョージ・オーウェル(George Orwell)

東西の冷戦時代に書かれたこの本は、絶対的な全体主義国家が個人の自由を全て制限する近未来の英国を舞台にしている。1950年代に勃発した核戦争の影響で、三つの大国に分類された世界に住むウィンストン・スミスは、過去の歴史の改ざんを担当する小役人として働いていたが、過去のある新聞記事を見つけたことで、絶対の国家に疑問を抱くようになる。個人の全ての活動が監視しされるこの世界観に、現実の世界があまりにも似てきたとして、現在再び世間から注目を浴びている作品だ。

本作が後の英国社会に与えた影響は大きく、独裁者を意味する「ビッグ・ブラザー」や特定の政治犯を精神的に拷問し、洗脳する「ルーム101」など、作中に登場する単語は現代社会でも使用されている。オーウェルが生涯にわたって訴えた、全体主義に反旗を翻す作品として非常に有名。

逃げられない閉塞感

1962年、スティーヴ・セクリーによって 映画化された「トリフィド時代」1962年、スティーヴ・セクリーによって 映画化された「トリフィド時代」

トリフィド時代(1951年)


The Day of the Triffids: A very British disaster ジョン・ウィンダム(John Wyndham)

破滅がテーマのSF作品。地球の軌道上を緑色の大流星群が通過した翌朝、流星を目撃した世界中の人間が突如視力を失ってしまう。食肉性植物「トリフィド」の管理者であったビル・メイスンは、ちょうど目の治療中でその光を見なかったため失明は免れたが、安心したのも束の間、トリフィドが目の見えない人類を無慈悲に襲い始める。突如として破壊された日常を取り戻すため、主人公の無謀な努力と人々の絶望を描いている。

作者のウィンダムは第二次世界大戦で情報省の検閲官として働き、広島と長崎の原爆投下後に同作を執筆した。人工的に作られた食肉性植物の危険性を知りながら、有用な植物油の摂取に依存する作品上の社会に、核保有の恐怖を知った当時の世相が投影されている。ここまで紹介した作品の中で最もフィクション要素が強く、大衆向けの脚色が多い作品だ。

極端な暴力描写で放映禁止に

スタンリー・キューブリックスタンリー・キューブリック

時計じかけのオレンジ(1971年)


A Clockwork Orange スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)

SF映画界に名を刻んだこの人物を忘れてはならない。英国を拠点に活躍した米映画監督兼脚本家のスタンリー・キューブリックは、英作家アンソニー・バージェスの同名小説を元に後世に語り継がれるディストピア映画を作った。舞台は全体主義国家が君臨し、世界が金持ちと貧乏人に分けられ、少年の非行など理不尽な暴力がはびこる近未来のロンドン。

キューブリックは徹底した作品作りで有名で、納得いくまで撮り続ける姿勢を貫いてできた本作品は、細かなカット割りなど凝った演出が見られるも、目を覆いたくなるような暴力シーンや露骨な性行為シーンが多い。後に作品に影響を受けたと思われる暴力事件が相次いで発生したことから、英国では1973年にキューブリックの要請によって非公開となる。VHSとDVDで同作が見られるようになったのは1999年のこと。

後のカルチャーに影響を与えた「SF作品の描写」

作品が成功した結果、その細かい演出や思想が後のSF作品やカルチャーに大きな影響を与えた。ここでは今でこそ当たり前になった作中の特徴的な描写を紹介する。

エイリアンfrom「エイリアン」

エイリアン

1979年、リドリー・スコット英監督が手がけたSFホラー映画「エイリアン」(Alien)は、米映画「スターウォーズ」など、これまで明るい冒険物語風の作品しかなかったSF映画に「恐怖」というイメージを植え付けた作品。宇宙貨物船内に現れるぬらぬらとした不気味なエイリアンは、SF映画における地球外生命体のイメージを覆した上、エイリアン(Alien)という単語を、従来の外国人という意味から「(攻撃的な)異星人」に変えてしまったほど。

デザインを担当したのはスコット監督自らが説得に赴いたスイス出身のH・R・ギーガー。幼い頃から死という概念に異常に取り憑かれていたギーガーが産んだグロテスクな形態のそれは、1980年に第52回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した。

暴走する人工知能from「2001年宇宙の旅」

暴走する人工知能

映画における初期の人工知能は、人間と友好関係を築くなど科学技術の良い発展の例が多かった。脅威の存在となったのは「2001年宇宙の旅」(1968年)。宇宙船ディスカバリー号に搭載された人工知能HAL9000が乗組員に対し反乱を企て乗組員を排除しようとしたのは、キューブリックと共同で脚本を担当したアーサー・C・クラーク著の小説によると、航行の目的である探査任務については乗組員に秘密にするように組み込まれており、乗組員との協力の間で生まれた矛盾によって引き起こされたとされている。

現在、人工知能と今後どう付き合っていくべきなのかについてしばしば話題に上がるが、本作はそれをはるか前に先取りした映画だ。

ガイ・フォークス・マスクfrom「V フォー・ヴェンデッタ」

ガイ・フォークス・マスク

時の権力者に抗うため、1605年にロンドンの国会議事堂を爆破しようと計画した火薬陰謀事件の実行犯、ガイ・フォークスの顔を模したガイ・フォークス・マスク。もともとは「V フォー・ヴェンデッタ」(V for Vendetta)という英出身の作家アラン・ムーアとイラスト担当のデヴィッド・ロイドによるグラフィック・ノベルから来たものだ。

同作の舞台はファシズム国家に近い体制の英国。アナーキストである謎の人物「V」がガイ・フォークスの仮面をかぶって登場し、その非凡な技能を駆使して、既存の体制を崩壊させようとするという物語。ここから同マスクに反政府主義のイメージが付き、近年ではハッカー集団のアノニマスが使ったことで世界中に知られるようになった。

足が速いゾンビfrom「28日後...」

足が速いゾンビ

従来のゾンビに対するイメージは、足を引きずって歩き動きが遅く、走ればなんとか逃げられて……というものだったろう。しかし、1980年代ごろから動けるゾンビや人間を捕まえるために頭を使うゾンビが登場してきた。「スラムドッグ$ ミリオネア」で知られるダニー・ボイル英監督が2002年にメガホンを取った映画「28日後...」では、陸上選手さながらに全力疾走し、人間たちを追い詰めていくゾンビが描かれている。

もっぱらこの作品におけるゾンビは、人間を凶暴化させるウイルスに感染した「感染者」であり、何日も走り回ると疲れてしまうという演出があるため、果たしてこれはゾンビなのかどうかについては、いまだに意見が割れているところ。

英国の人々はSF好き?身近に浸透するSFの世界

長寿ドラマや書籍で知る

英国には、昔からカルト的な人気を持つ作品が多数あるが、現在進行形で一般家庭に親しまれているSF作品もある。例えばBBCのSFドラマ「ドクター・フー」(Doctor Who)は、1963年から放映されている長寿ドラマ。主人公のドクターが仲間と共に時空を行き来し、外敵からの侵略を防ぐために奔走する物語だ。ドクターは命の危機に瀕すると記憶を引き継いだまま別の容姿や人格に再生ができ、このときにドクターの代替わりを行っている。現在のドクターはシリーズ初の女性となるジョディ・ウィテカーが務めており、2023年からは初の黒人俳優、チュティ・ガトゥが起用される。

続いて2011年から始まった「ブラック・ミラー」(Black Mirror)はディストピア系のSFドラマ。初期はChannel 4で、現在はNetflixで放映されている。テクノロジーが発展しすぎたことで、予期せぬ社会問題が生まれていく様子を描いたダークな風刺ドラマだ。2018年には観客がスクリーン越しにストーリーを選んでいくインタラクティブな映画「Black Mirror:Bandersnatch」が発表され、この独特な世界観を背景にファンを増やし続けている。

映像作品とは別に、SF小説の方も変わらず活気がある。英国SF協会賞(BSFA Award)は、1970年から毎年開催されているSF作品を称えるアワードで、小説のカテゴリからスタートし、現在は短編小説、アートワーク、フィクション作品など、幅広いジャンルの賞を設けている。

視聴者が物語を選択できるインタラクティブ映画「Black Mirror: Bandersnatch」視聴者が物語を選択できるインタラクティブ映画「Black Mirror: Bandersnatch」

英国人はディストピア好きなのか?

英国では小説、映画などジャンルは問わず、ディストピア系の作品が好まれる傾向にある。ディストピアとは反理想郷や暗黒世界のことで、ユートピアとは逆の世界。ちなみにユートピアという言葉は英作家トマス・モアによる造語で、モアが16世紀に書いた「ユートピア」は、理想社会を描くことを通じて当時の社会への批判を展開した。先に紹介した「タイム・マシン」「トリフィド時代」「1984」など、どれも暗く時に気の滅入るような世界観となっており、近未来のロンドンを舞台にしている近年の映画作品では、たいていの場合ロンドンは悲惨な世界として登場する。

このようなディストピア作品が完全なフィクションの世界かというと、そうではない。短編映画「Airship Destroyer」(1909年)と「Aerial Anarchists」(1911年)では、第一次世界大戦前にもかかわらずロンドンへの空襲シーンがあり、「The Day the Earth CaughtFire」(1961年)では核実験の影響で極端な温暖化が進む描写がある。また、サッチャー政権時の1974年に書かれたドリス・レッシング著「The Memoirs of a Survivor」(「生存者の回想」映画化もされた)では、貧富の差が著しく広がった近未来の世界がさらに悪化し、人々は街を出ていくこと願うようになるなど、その内容が当時の現実世界を示唆していたり、現在私たちが暮らす世界の状況に酷似していたりする。

また、音楽の世界でもディストピアの世界は描かれる。英パンク・ロックバンドのキング・ブルース(The King Blues)の2008年の曲「What If Punk Never Happened」は、パンクのない世界は無難すぎて何の面白みもなく、無関心な人であふれているというディストピアの世界について歌っている。この中にIDカードを携帯している人々の描写があるが、これは実際2010年に英国で廃止されたIDカードの携帯についての法律のことを指しており、もしこれが現実に起こったらどうだったのかを歌にしている。ディストピア作品に見えるリアリティーが、英国人を強く惹きつけるのかもしれない。

What If Punk Never Happened(一部抜粋)

….
They moved CCTV cameras in everywhere
But the people were too apathetic to care
They made them carry ID cards to state where they’re from
As if by being born they had done something wrong
….

政府はどこにでもCCTVカメラを設置した
しかし、人々は無関心すぎて気にすることすらなかった
人々は自分がどこから来たかを示すIDカードを携帯していた
まるで生まれながらに何か悪いことをしたかのように (抄訳)

EXHIBITION
SFの世界をもっと知ろう!

ここまで英国のSF作品に特化して書いてきたが、SFはもちろん米国をはじめ世界各地で生まれている。2022年10月からサイエンス・ミュージアムで始まるこのエキシビションは、SFの映画やテレビ、アート作品、写真を展示し、科学者やクリエイターたちがどのように近未来を想像したか、SFの世界について深く知ることができるというもの。またエキシビションに関連したトーク・イベントも多く催されるので、興味のある方はぜひ訪れてみてほしい。

英国人はディストピア好きなのか?

英国人はディストピア好きなのか?

Science Fiction: Voyage to the Edge of Imagination

10月6日(木)〜2023年5月4日(木)
10:00-18:00 £20(予約が必要)
Science Museum
Exhibition Road, South Kensington, London SW7 2DD
Tel: 0330 058 0058
South Kensington/Gloucester Road駅
www.sciencemuseum.org.uk

 

子どもたちの多様な未来を考えた イングランドの初等・中等教育

子どもたちの多様な未来を考えたイングランドの初等・中等教育

個々の主体性が重んじられる学校方針

さまざまな民族が生活する英国の初等・中等教育制度は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドのエリアごとに学校の区分や評価方法が異なり、変化に富んでいる。また、公立校や私立校のほかにも、特定の宗教に特化した宗教学校やホーム・スクーリングといった多くの学びの場が提供され、子どもたちの将来を考えた教育として世界的にも評価されている。今回は、日本とは少し異なるイングランドの初等・中等教育について紹介してみたい。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.gov.ukwww.britishcouncil.jpwww.natre.org.uk ほか

日本とこんなにも違う!イングランドの教育制度

公立校、私立校があるという大まかな体系は日本と似ているものの、その細部は大きく異なる。まずは簡単な違いから見ていこう。

学校の区分

公立校と私立校で学校の区分や名称が異なる。例えば、公立校では初等教育はプライマリー・スクール、中等教育はセカンダリー・スクールで、一方の私立校では、前者がジュニア・スクール(プレパラトリー・スクール)で、後者がシニア・スクールと呼ばれている。日本でも有名なイートン校(Eton College)といった私立校、パブリック・スクールは、このシニア・スクールの一種だ。また 3、4歳から通うプリ・プレップ・スクールもある。私立学校によっては、入学年が必ずしも一様ではない。

さらに、公立の中等教育は無試験で入学できるコンプリヘンシブ・スクールと、選抜試験を経るグラマー・スクールなどに分かれている。義務教育の最終段階となる中等教育終了時(16歳)には、GCSEという全国統一試験を受験するが、この試験結果は、その後の進学や就職に大きな影響を与える。

大学進学を望む者はシックス・フォームと呼ばれる課程に進学し、同課程での学習内容を踏まえたAレベル試験(高校卒業資格試験)を受け、その成績次第で希望の大学に入学することができる。シックス・フォーム・カレッジとして独立しているものと、中等教育機関内に併設されているものがある。

イングランドにおける学校の区分、名称

公立校 私立校
Primary Schoolプライマリー・スクール Junior Schoolジュニア・スクール● Pre-Prep Schoolプリ・プレップ・スクール● Preparatory Schoolプレパラトリー・スクール
Secondary Schoolセカンダリー・スクール● Comprehensive Schoolコンプリヘンシブ・スクール● Grammar Schoolグラマー・スクール Senior Schoolシニア・スクール
GCSE試験(義務教育終了)
Sixth Form Collegeシックス・フォーム・カレッジ Sixth Formシックス・フォーム Sixth Form Collegeシックス・フォーム・カレッジ Sixth Formシックス・フォーム
Aレベル試験
大学

教育年度

プライマリー・スクールはレセプションとYear1~6、セカンダリー・スクールはYear7~11、シックス・フォームまたはカレッジ(Sixth Form/College)はYear12~13。学校に通う年齢は地域ごとに異なり、スコットランドとウェールズが5~16歳、北アイルランドが4~16歳であるのに対し、イングランドは5~18歳と他地域より2年長い。

夏休みが終わる8月までに16歳になる場合、その年の6月の最終金曜日に学校を卒業できるが、16〜18歳の間は下記のいずれかに参加しなければならない。

②の見習い制度と③の研修制度の違いは、前者が最低1年であるのに対し、後者は8週間〜6カ月で完了すること。これらの制度は過去30年でイングランドの教育制度に組み込まれるようになった比較的新しい教育制度だ。

  1. カレッジなどでフルタイムの教育を受ける
  2. 幅広い分野における職業の見習い制度(apprenticeship)への参加。請求書や経費、税金などの会計分野、経営管理や事業開発などのビジネス分野、建物、配管などの建設分野など多岐にわたる
  3. 実務経験を伴い、英語・数学のスキルの伸ばす研修制度(traineeship)への参加
  4. パートタイムの教育または訓練を受けつつ、週20時間以上の実務作業またはボランティア活動

イングランドと日本の教育年度

年齢 イングランド 日本
3〜4 Nursery 幼稚園
4〜5 Reception 幼稚園
5〜6 Year 1 幼稚園
6〜7 Year 2 小学校1年
7〜8 Year 3 小学校2年
8〜9 Year 4 小学校3年
9〜10 Year 5 小学校4年
10〜11 Year 6 小学校5年
11〜12 Year 7 小学校6年
12〜13 Year 8 中学校1年
13〜14 Year 9 中学校2年
14〜15 Year 10 中学校3年
15〜16 Year 11 高校1年
16〜17 Year 12 高校2年
17〜18 Year 13 高校3年
*学校年度:9月〜翌8月(イングランド)4月〜翌3月(日本)

社会に出る前の大切な準備期間初等・中等教育の大きな特徴

一定の年齢を迎えると「学科試験によって評価される」という日本と同じ制度のほかに、学びの方向性や多様な考え方に対応した教育制度が存在する。

授業であらゆる人間関係について学ぶ

公立校のカリキュラムには、日本と同じようにプライマリー、セカンダリー・スクールで学ぶ、政府制定の学習プログラムを含む「ナショナル・カリキュラム」があり、科目は英語、数学、理科、歴史、アートとデザイン、音楽、体育、市民権、コンピューティングなど多岐にわたる。それに加え、人間関係についての教育(Relationships education)、性と健康の教育(Sex and Health education)宗教教育(Religious education、RE)が含まれるのが特徴だ。

人間関係の教育は、まずプライマリー・スクールで友情や家族関係など、人間関係を築くための根幹部分を学び、続くセカンダリー・スクールで人間関係と性教育( Relationships and SexEducation、RSE)という踏み込んだ内容に変化する。

友人や未来の同僚との関係から、結婚生活を送るために必要な献身的な関係について学び、健全な人間関係が精神的な健康をもたらすことを理解した上で、安全な性交渉に関する科学的な知識、またセクシュアリティーに関する事実やそれに対して定められた法律など、自分がなんらかの形で不利益を被ったときに、どこへ助けを求めたらいいのかを具体的に教えることを目的としている。

宗教教育(RE)は、子どもたちが新しい世界を作っていくだけでなく、宗教と世界観についてついての基礎知識を取得し、またその理解を深めるために設定されているカリキュラムの一つ。

多様な人種が交わる英国社会において、自身の信念や価値観に自信を持たせつつ、他者の宗教的および文化的な違いを尊重できるような、思いやりのある社会づくりに貢献するための教育とされている。これらのルールは、学校によっては一定の年齢になれば生徒自身で学びを継続するかどうかの選択をすることができる。

授業であらゆる人間関係について学ぶ

大学に行く前に将来を決める生徒たち

日本の学生の中には、とりあえず良い大学に入学してから将来何になりたいかを考える人も一定数いるのではないだろうか。一方、イングランドの学校では、日本の高校生にあたる年齢から進路を見据えたプログラムに専念するための環境が整えられている。代表的なものはカレッジというシステム。米国では大学(University)をカレッジとも呼ぶが、イングランドでは、大学入試の準備期間に、16歳で義務教育を修了した後2年間通う場所のことを指す。

セカンダリー・スクール内に、シックス・フォームの体制が整っていれば、義務教育後もAレベルを引き続きそこで学ぶことができ、校内にシックス・フォームがない場合は、独立したカレッジに行くことになる。カレッジでは、調理やアート、ファッション関係などアカデミック分野とは異なる、より専門的なファンデーション・コースを受講することができる。アカデミックの道に進むか、それとも専門的な職業訓練を始めるかを16歳の時点でもう決めるのだ。

また、生徒のなかには大学入学までの1年を使って、学生生活では得られない経験や学びを獲得するためのギャップ・イヤーを利用する場合も。自分が何を目指したいのか、20代を迎える前に理解できている生徒が多いようだ。

大学に行く前に将来を決める生徒たち

ドロップアウトしたらどうなる?

セカンダリー・スクールの生徒は、16歳になれば学校を卒業することができるが、18歳の誕生日までは何らかの形で教育または職業訓練を受けなければならない。また、カレッジの過程で中退したとしても、18歳まではフルタイムの職業に就くことは法律で禁止されている。ただし、学習障害がある、いじめにあった、などの大きな理由でどうしても学習の継続が難しい場合は、学校のキャリア・アドバイザーに相談したり、場合によっては転校という形も認められているので、一概に悪いことだとはされていない。

Early Years Foundation Stageとは

生まれてから5歳までの幼児の発達を助けるアーリー・イヤーズ・ファウンデーション・ステージ(EYFS)という枠組みがある。これは、主に遊びを通じて、コミュニケーションと言語スキルの発達、身体の発達、個人として、また人間関係のなかの感情の発達、読み書き能力の修練、算数や事物への理解、芸術とデザインの表現の発達を促し、後の教育へのスムーズな移行を助けるためのもの。

2021年9月に内容が変更され、より言語や読み書き能力の向上が重要視されるようになった。無料のナーサリーは3歳から、特定の収入に満たない家庭などは2歳から開始できる場合も。両親が共働きの場合、プライベートのナーサリーなら生後3カ月から預けることが可能。

Early Years Foundation Stageとは

子どもたちがストレスなく学ぶために選択肢の多い学校選び

多種多様な民族が混在して暮らすなか、子どもたちに居心地の良い学習環境を与えるのは大切なこと。イングランドでは各家庭や子どもたちのニーズに合わせた学校が選べる。

さまざまな学校の種類

公立校といっても、運営団体や方針の違いなど、さまざまなタイプの学校が存在する。代表的なものは以下のような学校だ。

Community Schoolコミュニティー・スクール

地方自治体が運営する学校で、企業や宗教団体の影響を受けず、政府制定のカリキュラム「ナショナル・カリキュラム」に従う、いわゆる一般的な公立校のこと

Foundation School / Voluntary Schoolファウンデーション・スクール、ボランタリー・スクール

地方自治体から資金提供を受けているが、教育方法を変更するといった自由度が高く、また宗教団体の代表者の支援を受けている場合もある

Academyアカデミー

非営利のアカデミー・トラストによって運営されており、地方自治体から独立して運営。運営方法を自由に変更できる裁量があり、独自のカリキュラムがある。コミュニティー・スクールより、自由度が高い

Grammar Schoolグラマー・スクール

地方自治体、財団法人、またはアカデミー・トラストが運営する。学力に基づいて生徒を選択し、入学するための試験(11プラス)がある

Faith Schoolフェイス・スクール(宗教学校)

「ナショナル・カリキュラム」に従うが、入学条件や職員のポリシーは特定の宗教に従う。イングランドでは英国国教会、カトリック教会系の学校が多い

Faith Academy宗教アカデミー

「ナショナル・カリキュラム」を教える必要はなく、独自の入学条件を持つ

Free Schoolフリー・スクール

地方自治体による運営ではなく、政府からの資金提供を受けている。全ての生徒に開かれている学校なので、グラマー・スクールのような学問的な選考プロセスはない。また、スタッフの給与と条件を独自に設定、学期と登校日の変更、「ナショナル・カリキュラム」に従う必要はない。非営利目的で運営されており、慈善団体や大学、私立校、コミュニティーや信仰グループ、企業のほか教師や両親が設立することができる

個々の主体性が重んじられる学校方針

早いうちから自分の将来を考え、そのために必要な教育を学んでいく生徒たちは、皆明確な意見を持ち、学校側もそれらが実現できるようサポートしている。例えば給食。近年英国では肉料理だけでなく、ベジタリアン・フードを好む子どもが増えているが、英中部オックスフォードのスワン・スクール(The Swan School)では、ランチを完全にベジタリアン向けに変更した。これは、教師陣による「環境と持続可能性」を学ぶための教育の一環だそう。

また、英南西部デヴォンにあるティヴァートン・ハイ・スクール(Tiverton High School)では、2022年9月の授業に備え、全ての生徒がズボンを着用するジェンダー・ニュートラルなポリシーを導入した。こうした動きには賛否両論があるものの、その取り組みは頻繁にメディアに取り上げられている。

公立校の学区「キャッチメント・エリア」と優先制度

一般的なプライマリー、セカンダリー・スクールにおいては、公立校への入学条件の一つとして、日本の学区に相当する「キャッチメント・エリア」が定められている。イングランドの義務教育における各公立校のレベルにはかなりの差があることから、イングランドで子育てを行う家庭はこのキャッチメント・エリアを重視する傾向にあるが、各学校ではあらかじめ定員数が決められているため、人気校への入学は非常に厳しいものになる。

また、申請する子どもたちが学校の定員数より多ければ、キャッチメント・エリアをさらに狭い範囲に限定する「カットオフ・ディスタンス」の適用も珍しくない。入学にはハンディキャップの有無、さらには兄弟姉妹がすでに通学しているか否かも加味される。また学校によっては、学力や信仰を優先の入学条件としていることがある。

特殊なプライベート校とホーム・スクーリング

上記のような公立校以外にもさらに幅広い学びのスタイルが子どもたちに用意されていることを最後に紹介したい。まず、私立校の「シアター・スクール」。通常の学校より芸術活動に力を入れており、ダンスや演技を専門的に学びつつ中等教育も受けられるという学校だ。

また、ホーム・スクーリング(家庭教育)も政府から認められている教育法の一つ。新型コロナウイルスの影響で、2021年の調査では家庭教育に登録された子どもの割合が過去2年に比べ92パーセントも増加した。どんなタイプの子どもたちも、居心地よく学ぶ権利が均等に与えられている。

個々の主体性が重んじられる学校方針

 

英国式ハーブ療法の歴史

気軽に楽しめるガイド付き!英国式ハーブ療法の歴史

古代から治療や保存料などさまざまな用途に使われてきたハーブ。現在では医療分野や食用としての利用はもちろん、エッセンシャル・オイルなどのスキンケアや、実用的かつリラックス効果のあるガーデニング用の植物としても幅広く利用されている。今回は、改めて英国における人々のハーブとの関わり方を振り返りつつ、夏バテや美容に効くハーブなど、自然の恵を気軽に楽しめるハーブの使い方を紹介しよう。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考:「 The Herb Almanac: A seasonal guide to medicinal plants」Chelsea Physic Garden 著 Aster、www.nhs.ukwww.bhta.org.ukwww.woodlandherbs.co.ukhttps://sophiatheherbalist.com ほか

ハーブの基本情報

英国におけるハーブ(薬草)とは?

料理の香りづけから、薬品、医療分野まで広く応用される有用植物。英国の植物相は1600種ほどしかないが、その約4分の1が薬用といわれている。食用ハーブとしては1960年代ごろから広く一般家庭にも浸透した。アジア料理やギリシャ料理など食の国際化が進んだことで、近年は英国原産ではないコリアンダーやバジルなども売上が上がってきている。

写真左:バジル、写真右:コリアンダー写真左:バジル、写真右:コリアンダー

漢方薬とは何が違う?

ハーブ療法には、抽出した精油や塗り薬、錠剤やシロップなど、内服薬と外用薬があり、2種以上を組み合わせるのではなく、単独で使用することが一般的。一方、中国で誕生した漢方薬は、植物の葉や茎、根、また鉱物や動物から薬効があるとされる部分をそのまま使用、または砕く・乾燥させる・熱するといった加工作業を加えた生薬を用い、これらを適切な配合に基づいて調合する。

西洋医学とハーブの関係

ハーブ療法は「ハーブを日常生活に取り入れることで、体の免疫力を高めつつ心と体のバランスを整え、それをもって病気に抵抗する」という考え方を下に、軽度の症状に対しての治療が主。国民医療制度(NHS)のウェブサイトでも言及されているように、副作用が出る可能性も大いにあるので正しい使用方法を守ることが何よりも大切だ。

古代から体のバランスを整え、病気を治す方法として発達してきたハーブ療法は、現在病院で受けられる投薬や手術といった体の異常に直接アプローチしていく西洋医学にも多大な貢献してきた。1970年代に柳の樹皮から抽出した成分を使ったアスピリンの合成などがその例で、ハーブの研究により西洋医学が発達してきたといっても過言ではないだろう。

ハーブが英国社会に根付くまで

今でこそさまざまな分野に応用されるハーブの効能。まずは英国でハーブがどのような経緯をたどって、現在の地位に行き着いたかを簡単に紹介しよう。

古代ローマ人によってもたらされた知識英国とのハーブの歴史

ローマ時代に限らず、古代からさまざまな地域で使われてきたハーブ。健康状態を元に戻す目的で使用されてきた、人類史における最も古い薬だ。これまでハーブを意識的に口にしたり、香りを嗅いだことがないという人でも、スパイスの強い料理に含まれているハーブが実は消化を助けていた、とあれば案外身近な存在なのだと理解できるのではないだろうか。

人間がハーブと関わるようになったのは新石器時代。医学分野でハーブを含む植物について言及されたのは紀元前3000年前で、以降古代ギリシャ、古代ローマでハーブに関する情報が積極的に書物に残された。英国へハーブ療法の知識がもたらされたのは紀元50年ごろ。ブリテン島を侵略した古代ローマ人の兵士たちが、病気やけがの治療のためにハーブを持ち込み、その知識はキリスト教の修道院僧によって受け継がれた。しかし、英国では栽培されていないハーブがほとんどだったため、施術を行うヒーラーたちはもともと自生していた植物を研究し利用していたという。

現在も見られる長方形や正方形のシンプルな区画にまとまったガーデン。ハーブが採取しやすいこの効率的なデザインは中世に誕生した現在も見られる長方形や正方形のシンプルな区画にまとまったガーデン。ハーブが採取しやすいこの効率的なデザインは中世に誕生した

2003年にロンドン南部のサザック地区で行なわれたある考古学調査の最中、約2000年前の金属製の容器が発掘された。中は硫黄臭のあるラノリンとでんぷんが含まれた白いクリームまたは軟膏のようなもので、分析によりおそらく現代のファンデーションのような役割を果たしたものだと判明した。同クリームはハーブとは直接関係のないものだが、人類が早くも植物に含まれるでんぷんが美容に良いと理解していたことは特筆に値する。このように、医療と美容は二人三脚で、長い時間をかけて今日まで成長してきたようだ。

生き残りに紆余曲折あった英国のハーブ事情

英国のハーブ史において、二つの大きな出来事があった。一つ目はヘンリー8世(1491〜1547年)の時代。けがをしたときのためにハーブの治療セット一式を持ち、その効能を十分に理解していたヘンリー8世は、ハーブで独自の医薬品を作るほどハーブ医療に傾倒しており、その作り方は今も大英博物館に保管されているほど。同王が1518年に制定した「ハーバリストの憲章」(Herbalist's Charter、Charter of King HenryVIII)は、ハーブの使用に熟練し、知識がある人(ハーバリスト)は誰でもその療法を人々に提供できることを法的に認めた。この憲章は、今日のハーバリストを守る権利の礎になった。

その一方、二つ目の出来事はスコットランドのジェームズ1世(1566〜1625年)の時代。呪術で人に危害を加えると誤解されていた人々を排除する魔女狩りが流行したことによって、治療にハーブを使用している者は誰でも魔女の疑いがかかり捕まえられ、拷問された。このときにハーブの使用法を記した貴重な書物は燃やされてしまい、古代から蓄積されていた膨大な知識も一瞬で失われてしまった。英国のハーブ史は権力者の一時の思惑によって大きく翻弄されたが、民衆の間でハーブは密かに使われ続けていた。

ジェームズ1世の前でひざまづく魔女とされる1597年の版画ジェームズ1世の前でひざまづく魔女とされる1597年の版画

ハーブ療法を専門に行うメディカル・ハーバリストとは?

民間療法として今日まで生き残ってきたハーブ療法だが、英国では国民医療制度(NHS)を通じて薬としてハーブが支給されることはほとんどない。国内の治療で使われている薬が記された「英国国民医薬品集」(BNF)にもハーブについてはわずかに言及されているのみ。それでもなおハーバリストが活躍できるのは、メディカル・ハーバリストとして特定の組織から承認されているからだ。

資格を取得するには、国立医療ハーバリスト研究所または欧州ハーブ伝統医学実践者協会が組織する団体に承認されたハーブ医学の学位レベルのコースを完了する必要があり、それらは大学や臨床トレーニングもあるオンライン・コースで学ぶことができる。資格取得後は病気の原因を調べ、治療するためのアプローチを取り、ほかの治療法や薬と一緒に使用できるハーブ療法を処方する。

気軽に購入できる生活にあふれるハーブ製品

メディカル・ハーバリストでの受診のほかにも、英国にはハーブと気軽に付き合える製品が存在する。医学な監督を必要としない、風邪などの軽度の健康状態に使用できるハーブ製品は、THR(Traditional Herbal Registration)のスキームに申請し、品質や安全性など、使用に必要な基準を満たしていることが証明できれば、店頭で販売が許可される。

また、治療以外の用途でも、保湿効果の高いハーブを使ったスキンケア商品や、口当たりの良いジンなども気軽にハーブが楽しめる製品だ。

THR承認の商品に付くマークTHR承認の商品に付くマーク

日焼けや夏バテ対策に夏に試したいハーブの楽しみ方

夏の暑さが増してきた英国だが、気付けば夏バテの症状であるだるさに悩まされている人が多いのでは。ここでは夏バテの基本的な症状に適した身近なハーブと、生活に取り入れやすい処方を見てみよう。
※効き方には個人差があります。また、妊娠中の方や疾患を持つ方は使用できないハーブがありますのでご注意ください

症状と効果的なハーブ

疲れやすい

精油(エッセンシャル・オイル)
ローズマリー、ペパーミント:元気ややる気を回復する
ローズ:イライラを解消し、ゆったりした気持ちになる

ハーブ・ティー
レモングラス:疲労回復の効果があり、集中力が落ちたときや眠気を感じるときに飲むとリフレッシュできる

その他
ローズマリー、ペパーミント、ローズ:精油を直接嗅ぐ、あるいはアロマ・ポットで芳香浴し、気分転換を

肌の調子が悪い

精油(エッセンシャル・オイル)
ラベンダー:緊張をほぐし、心身をリラックスさせる香りの代表がラベンダー。催眠作用もあり、ストレスが引き起こす肌のトラブルを内面から解消できる
ローズ:リラックス効果と幸福感を高める作用があるため、気分が沈みがちなときに

ハーブ・ティー
ローズマリー:ビタミンたっぷりで、アンチ・エイジング効果も。たくさん日差しを浴びた日は多めに摂取
ローズヒップ:ビタミンの宝庫で美肌効果が期待できるほか、利尿作用があるためむくみに効き、便秘の改善も
ゼラニウム:むくみを解消し、ホルモン・バランスを整える

その他
ゼラニウム:収れん作用があるので、リンパの流れに沿ってマッサージすればむくみが解消される
ゼラニウム、ローズ、ラベンダー:細胞を活性化させ、肌の再生力を高める三つの精油をミックスし、フェイシャル・サウナやアロマ・マッサージを
ティートリー、ミント、ラベンダー:アロマ・バスに活用すると、にきびや日焼けによる炎症を沈める効果がある

疲れているのに眠れない・リラックスしたい

精油(エッセンシャル・オイル)
ラベンダー、カモミール、ローズ:神経の鎮静とリラックス効果により眠りを誘う
セント・ジョーンズ・ワート:抗ストレス効果に優れ、怒りやイライラを静める癒やし効果がある

セント・ジョーンズ・ワートセント・ジョーンズ・ワート

ハーブ・ティー
カモミール、ラベンダー:リラックス効果と導眠効果が高く、なかなか寝付けない人にお勧め
パッション・フラワー、ローズ、リンデン:イライラや過敏になった神経をなだめるため、眠りが浅い人やストレスで眠れなくなる人に

その他
ラベンダー、カモミール、ローズ、セント・ジョーンズ・ワート、ベルガモット:血行を促進して体内の老廃物を効率的に排出し、心も体もリラックスすることで質の良い睡眠が訪れる

手軽にハーブを楽しむセルフ・キュアの方法

アロマテラピー

ハーブの芳香成分を用いて心身をリラックスさせ、健康や美容を促進する療法。また、ハーブの芳香物質を凝縮した精油(エッセンシャル・オイル)を嗅ぐことも有効で、蒸気の吸入で肺から、マッサージで塗れば皮膚から成分が血管に入り全身を巡るため、薬効成分を効率的に活用できる。精油数滴とホホバ・オイルなどのキャリア・オイルを混ぜてバスタブに入れたり、ディフューザーからの蒸気を室内に満たすことでリフレッシュできる。

ハーブ・ティー

植物が持つ有効成分を存分に吸収でき、体の内側から美しくなれるのがハーブ・ティーの良いところ。夏場にお勧めなのはローズヒップとハイビスカスのミックス・ハーブ・ティー。ビタミンCの効果で肌荒れを抑えてくれるほか、利尿作用があるのでむくみの解消にも役立つ。

夏にぴったりのエルダーフラワーとレディース・マントル

写真上:エルダーフラワー、写真下:レディース・マントル写真上:エルダーフラワー、写真下:レディース・マントル

エルダーフラワーとレディース・マントルは、夏を代表するハーブだ。エルダーフラワーはコーディアル・シロップとしてスーパーで売られているが、花はゼリーに風味を加えるために、葉は食べられないが水に浸して窓枠に噴射することで虫除けに。またニキビ予防の美容液としても使えてとにかく万能。レディース・マントルはハーブ・ティーとして飲むことで月経不順やホルモンバランスの乱れを改善してくれる(妊娠または便秘中は飲まないでください)。

ハーブ商品を買うときに使える用語集

Adaptogen:ハーブに広く認められている効能で免疫力、抵抗力を上げる
Anti-inflammatory:体内の炎症や腫れを軽減させる
Antioxidant:抗酸化作用のある
Carminative:胃腸のガスを排出し、お腹のハリを和らげる
Decoction:根・樹皮を煮出して飲む煎じ薬
Diuretic:利尿効果がある
Sedative:睡眠を誘発する

世界のハーブが集まるロンドンで最も古い植物園チェルシー薬草園

チェルシー薬草園の園内。夏期は緑でいっぱいにチェルシー薬草園の園内。夏期は緑でいっぱいに

ロンドン中心部の地下鉄スローン・スクエア駅から徒歩15分の静かな場所にチェルシー薬草園がある。俗世を遮断するかのように高い壁が周囲を囲み、小さな入り口から中入って初めて花が咲き乱れた美しい庭が広がっていることが分かる。この薬草園には、ハーブをはじめとする世界から集められた5000種を超える植物が栽培されており、直接見て、触って、ハーブの世界を体感できるようになっている。

同薬草園は、薬剤師が所属するロンドンの薬局協会、ザ・ワーシップフル・ソサエティ・オブ・アポシカリーズ(The Worshipful Society of Apothecaries)によって1673年に設立された。今でこそ多くの人で行き交う街並みが広がっているチェルシーだが、当時は人口3000人程度のテムズ川沿いの村に過ぎなかった。同薬草園がテムズ川に近いのは偶然ではない。設立当初から、植物を遠方で探し持って帰ってくるプラント・ハンターや、異国の研究者たちと植物・種子交換し、目録を作るインデックス・セミナム(Index Seminum)を行なってきたため、世界中を旅した船が楽に係留できるよう、移動に便利な川のそばに立地を決めたのだ。

甘い香りのするセイヨウナツユキソウ甘い香りのするセイヨウナツユキソウ

ここは長年にわたり、ハーブなど薬用に使える植物を栽培し、その使い方を研究するため、ハーブや薬用、食用の木々、また有毒な植物など、あらゆる植物の可能性や危険性を探る役割を果たしてきた。実際に園内には、葉や実など植物全体に毒を含むブルーベリーによく似た果実が実るベラドンナや、葉に毒を持つルバーブなどが手の届くところに植えられているが、「POISONOUS DO NOT TOUCH」とドクロの絵が描かれた小さな案内板があるだけで特に厳重な囲いもない。まるで自生しているかのような展示の仕方は、なんの変哲もない植物が用法を一つ間違えると我々を苦しめる存在に変わり、最悪の場合死に至らしめるものであることを容易に想像させてくれる。

設立後の長い年月の中で、数年にわたって経営難に陥った時期もあった。それを救ったのは大英博物館の設立に尽力したハンス・スローン卿。1712年、スローン卿がチェルシーの邸宅を購入し、同薬局協会に年間わずか5ポンド(現在の1180ポンド)で庭園を貸し、閉業を免れた経緯がある。現在も、賃貸料はスローン卿の子孫に支払われているそうだ。

夏まっさかりの現在、ボランティアによる無料のガイド・ツアーも行われている。園内にはカフェもあるので、1日のんびり滞在するのがお勧めだ。

Chelsea Physic Garden

66 Royal Hospital Road, London SW3 4HS
Sloane Square駅
Tel: 020 7352 5646 日〜金 11:00-17:00
£12(事前予約必須)
www.chelseaphysicgarden.co.uk
※温室は2023年の夏までクローズ

 

「A NIGHT AT THE KABUKI」を上演 野田秀樹 インタビュー

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サドラーズ・ウェルズ劇場で「A NIGHT AT THE KABUKI」を上演野田秀樹 インタビュー

A NIGHT AT THE KABUKI

夏の始まりを思わせる良く晴れた6月のある日、弊社とのインタビュー取材のため、劇作家の野田秀樹さんがロンドン北部のカフェに、「すみません遅れて!」と単身で走り込んできた。さっとカプチーノを頼み着席。まるでここが地元とでもいうような自然な様子に、野田さんが30年前に留学生として、1年ロンドンに暮らしていたことを思い出した。留学終了後も、英語劇を作るため何度となくロンドンに戻ってきた野田さんだが、今年の秋には、歌舞伎の心意気をまとい、クイーンの名曲を散りばめたロミオとジュリエットの物語「A NIGHT AT THE KABUKI」のロンドン公演が待つ。英国での日本語上演はほぼ30年振りとなるが、今回はその準備でロンドンを訪れた野田さんにお話を伺った。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

HIDEKI NODA 演出家・劇作家・役者

HIDEKI NODA

1955年生まれ、長崎県出身。東京芸術劇場芸術監督。東京大学在学時に「劇団 夢の遊眠社」を結成。92年、劇団解散後に文化庁の芸術家在外研修制度(現・新進芸術家海外研修制度)で1年間、ロンドンに留学。翌年に帰国後、「NODA・MAP」を設立。歌舞伎の脚本・演出、英語劇の創作などを含む幅広い活動を展開。2009年に名誉大英勲章OBEを受勲。09年度朝日賞受賞。11年紫綬褒章受章。

ロンドン公演に至るまで

ロンドンは2018年の公演「One Green Bottle」(ソーホー・シアター)以来かと思います。久しぶりのロンドンの街はいかがですか。

実はホリデーで今年の5月に家族と一度来たので、4年振りという訳ではないんですよ。ロンドンはお店が前と変わっていたりと、やはりコロナのダメージが来ているのかなとも思いましたが、劇場も再開していますし、日本に比べたら街に活気がありますね。ロンドンは建物が低いので空の広さも感じられるし、近くの公園でゴロンと芝生に寝そべって、あぁいいな、ロンドンだなと。今一番良い季節でもありますしね。

大きなプロダクション

2018年の「One Green Bottle」時の弊誌インタビューで、「いつかロンドンの大きな舞台に日本のプロダクションを持って行きたい」とおっしゃっていました。その頃にはもう、「A NIGHT AT THE KABUKI」をロンドンでと考えていらしたのですか。

そんなこと言ってましたか。いえ、クイーン・サイドの方々からこのお話をいただいたときは、「ANIGHT AT THE KABUKI」を作っている最中だったので、2018年の時点ではまだ、これを持っていこうという気持ちはなかったですね。

ただ、ロンドンへは何かの作品で「いつか」という気持ちはありました。というのも、昔から僕のお芝居を観てくれている英国の演劇プロデューサー、セルマ・ホルトが、2010年くらいに日本で初めて僕の大きな芝居を観て、あなたの大きなプロダクションはこんなにも違うのかと驚いていたことがあるのです。英国で観るヒデキの小さい作品もいいけれど、大きいのを持って来なさいよと勧められました。そして英国では、これだけの大人数が繊細に動くアンサンブルの芝居はもう作っていないから、すごいことなんだと言ってくれたのです。人数も多いし大変だからというと、「何とかなるわよ、行くって言えばいいのよ」って(笑)。そのときはそれで終わったんですが、次に来日したときも勧められた上、ロンドンで一緒に仕事した役者たちにも「ヒデキは小さいプロダクションの人だと英国で思われてるけど、大きいのをやればいいのに」と言われていました。ですから、今までずっとロンドンで大きな芝居を、という気持ちを持ち続けていたのは間違いないです。

これまで英国では、キャサリン・ハンターさんなど現地の俳優やスタッフとゼロから小さめの作品を作ってきたのが、今回は念願かなって日本の大規模なプロダクションを持ってくるわけですが、アプローチの違いにどんなものがありますか。

まず最初、小さなプロダクションを作ろうと思ったきっかけは、1980年代、蜷川幸雄さんが大きい日本のカンパニーを英国に持ってくるということをしていたので、同じ方法で英国に来なくてもいいなと思ったことでした。蜷川さんは尊敬していますが、私はあまのじゃくなんです。あと、1980年代後半から90年初めに、エディンバラ国際芸術祭に2回招待されたのですが、そこで日本語でお芝居をしたときに、現地の人にどれだけ通じてるのかなと疑問に思ったのです。「良かった」と言ってくれるけど、どれくらい理解できているのだろうと。その後に英国留学を控えていたということもあって、英語でお芝居を作ろうと思い立ちました。それで何作か作り、一区切りついたかなというところまで来た気がしました。

そうしたら今度は、日本にもこういうダイナミックな演劇がある、というのを英国人に見せたいと思い始めたんです。英国人は自分の国の劇場が世界一と思っているので、「そうでない世界」もあるよ、と教えたい。例えば、日本人は「ロミオとジュリエット」といったら誰でも聞いたことがありますけど、逆に英国人に源氏物語とか歌舞伎とか能とか言っても、普通の人は知らないですからね。

若き日の愁里愛を演じるのは広瀬すず(写真中央左)。本作で第54回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。松たか子(同左)、上川隆也(同右)、志尊淳(同中央右)らと2組のロミオとジュリエットを演じる若き日の愁里愛を演じるのは広瀬すず(写真中央左)。本作で第54回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。松たか子(同左)、上川隆也(同右)、志尊淳(同中央右)らと2組のロミオとジュリエットを演じる

クイーンと歌舞伎

ちょうど野田さんが「ロミオとジュリエット」の後日譚を考えていらしたときに、クイーンのアルバム「オペラ座の夜」を使って日本を舞台にしたお芝居が作れないかと打診を受けたということですが、どのような経緯だったのでしょうか。

クイーンの「オペラ座の夜」の版権を持っているソニーの英国法人の方が、「このアルバム曲を使って、日本を舞台にしたお芝居を、日本の演出家に作って欲しい」と来日していて、私に白羽の矢が立ったんです。しかし、ちょうど「ロミオとジュリエット」の後日譚を考えていたので、スケジュール的にもすぐ取り掛かることは難しい。でも、「ロミオとジュリエット」とうまく結びつけることができたら、やれなくはないかな?という感じで進んでいきました。そのうち、「ラブ・オブ・マイライフ」の曲はロミオとジュリエットの場面に使えるし、「ボヘミアン・ラプソディー」の不思議な歌詞をよくよく聴くと、殺人を犯したマザコンの青年を主人公にした、芝居のような作りになっている。これはロミオにあてはめられるなと。あともう一つ要素が加われば成立すると考えていたときに、源氏と平家の争いが「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家とキャピュレット家の関係に繋がると気が付きました。プロデューサーに作品の説明をするときに、英国のソニーの方にも来てもらって話したところ、これはいいんじゃないかと。なので次に詳細なシノプシスをクイーンのマネージャーのジム・ビーチに送り、メンバーのブライアン・メイにも見てもらいました。メイはインテリな天文学者ですから、2カ月くらいまじめに読み込んでくれて、すごく面白いということで、この話にGoサインが出ました。

今回公演のあるサドラーズ・ウェルズ劇場は収容人数が約1500人と、日本公演時に比べてだいぶ大きいですね。劇場に合わせて演出を変えることはありますか。

変えることはないのですが、今回3階席からはちょっと違う見え方になるだろうなと思います。でもこれはしょうがない。そこを意識すると、役者の顔が上を向かなきゃならない。そうすると芝居の印象が変わってしまうし、ほかのフロアのお客さんへの見え方も変わってしまうでしょう。なので、そこは歌舞伎座の一番上の大向こうみたいな感じだと思ってもらえばいいかな。歌舞伎座の上の方の席が僕は非常に好きなんですが、それに似ています。この芝居はたくさんの人が動くので、全体が俯瞰して見えるのもいいと思います。

そういえば、「A NIGHT AT THE KABUKI」っていうタイトルから、歌舞伎だと思っている人もいるみたいだけど、まあ、時代設定が昔だし、演技の誇張もあるし、新しい歌舞伎だと思ってもらってもいいかもしれませんね。また、クイーンの曲を使うというので、誰かがライブで歌うのではないかと思う人もいるかもしれませんが、それもありません(笑)。ただ、歌舞伎のスピリットを持った全く別の楽しみが待っていますよ、ということです。

竹中直人(写真左)は野田作品への出演は本作が初めて竹中直人(写真左)は野田作品への出演は本作が初めて

サドラーズ・ウェルズ劇場との縁

コロナ禍で当初の予定が変更になった、ということはありませんでしたか。

オリジナル・キャストからは早い段階でOKが出ていたのですが、コロナがいつ終息するか分からなかったから、「いつ行くか」が問題でした。2019年が日本初演で、本当は翌年すぐにでもやりたかったんです。最初は2021年とも考えましたが、今思えば止めておいてよかった。去年英国に来るのはちょっと厳しかったかもしれない。なので、英国で予定していた公演が延期になったというのは特にないです。それはラッキーでした。だいたい英国の劇場もみんな閉まっていましたしね。そんななか、サドラーズ・ウェルズ劇場がいち早く受け入れを名乗り出てくれたのです。この劇場は演劇をやっている人間からしたら非常に素晴らしい場所です。ピナ・バウシュをはじめとしたコンテンポラリー・ダンス系など、フィジカルな演劇に強い。

実は留学中、一番最初にワークショップに行ったのがサドラーズ・ウェルズ劇場のスタジオでした。当時は劇場の隣のスタジオ入口が階段になっていたのですが、その前で非常に躊躇(ちゅうちょ)したのを覚えています。その頃は英語もできませんでしたし、自信もなかった。英語を話せない人間がついていけるかなと。36歳くらいでしたね。

そして、その最初のワークショップが僕のロンドン・キャリアを作る上で非常に重要なもので、テアトル・ド・コンプリシテというサイモン・マクバーニーのワークショップだったわけです。そこで、その後一緒に仕事をする俳優たちに出会ったのです。キャサリン・ハンターをはじめ、皆このときの先生なんですよ。

英国に留学しなければあり得なかったことですね。

もちろんです。結局、そのときサイモンの新作「ルーシー・キャブロルの三つの人生」のワークショップに参加したんですが、英語が大変だろうからとサイモンからあらかじめ本を渡されました。それがまた幻想小説で難しくて……。家庭教師を付けて、ワークショップから帰ってきた後、夜9時ごろから一緒に読む、ということをしていました。でも、もう疲れてるから眠くて、11時には船を漕ぎ出すという具合でしたけど。まぁ、毎日朝から晩まで演劇のことだけ。濃密な1年でしたね。このときにだいたい200本は芝居を観ました。ウエスト・エンドやフリンジはもちろん、オペラも。イングリッシュ・ナショナル・オペラのステージは歌がどうというよりビジュアル的にステージがおもしろいので足を運んでいました。「タイム・アウト」誌で調べて、朝から夜まで1日で3本のお芝居を観たこともあります。夢のような暮らしでしたね。それが今、自分の財産になっています。

野田さんも源の乳母役で参加(写真左)野田さんも源の乳母役で参加(写真左)

演劇は観客が対戦相手

英国ではロックダウンを経て舞台映像の配信が大幅に増えたのですが、お芝居を配信することについてどう思われますか。

配信というのは一つの在り方だと思うし、地方に住んでいて簡単に見に来られない人には良い、という話を聞いて、なるほどなとは思います。しかし、演劇という仕事は、やはり観客の目の前でやることの面白さですから、無観客なんて絶対にありえない。観客はスポーツでいうところの敵、対戦相手です。観客のリアクションで芝居は出来上がるものだから、観客のいないところで演劇を作ることはできないんですよ。配信を演劇の新しい形とかいう人もいるけど、ふざけるな、と。僕は以前、作品のビデオ録画にも反対していました。演劇は目の前から消え去る芸術で、「その人の中に入って一生残るもの」であるべきだと思っていましたから。そのため、若いときの作品もほとんど残っていない。ただあるとき、地方に住む高校生からビデオで作品を観て大変に感激したと手紙をもらいました。それで、演劇を知る取っ掛かりとしてはありなのかと思い、ビデオを残しておくべきだったなと思うこともあります。意外に地方でビデオを観てた子が、今、立派な演出家になっていたりもするので、そういう意味では、配信も演劇を広めるきっかけにはなるのかもしれない。それは否定しません。ただし、配信は「演劇」ではない。配信のクオリティーを高めていくと映画に行きついてしまうでしょう。だったら最初から映画を撮ればいいわけです。

私たち観客も芝居を盛り上げる一端を担っていることを認識させられたインタビューだった。NODA・MAP9月の公演「A NIGHT AT THE KABUKI」は、野田演出のだいご味ともいえる「生の迫力」を体感する貴重なチャンスだ。「英国人と一緒に来て」、と言う野田さんの対戦相手を務めるべく、この秋はサドラーズ・ウェルズ劇場へ。

繊細で華やかなアンサンブル・キャストの動きは野田作品ならでは繊細で華やかなアンサンブル・キャストの動きは野田作品ならでは

公演情報

A NIGHT AT THE KABUKI
12世紀の日本、激しく対立する源氏と平家。その戦禍のなか源の愁里愛(じゅりえ)と平の瑯壬生(ろうみお)は禁断の恋に身を焦がす。だがその恋路を阻まれ、すれ違って死を迎えるはずの2人が、もしも生きていたら……。英国が誇る世界的ロックバンド、クイーンが1975年に発表した傑作アルバム「オペラ座の夜」を物語の随所に組み込みんだ画期的な作風で、2019年に第27回読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。作・演出を務める野田秀樹のほか、松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳など総勢10名の豪華人気俳優陣と16名のアンサンブル・キャストが出演。

2022年9月22日(木)~ 24日(土)
スケジュールの詳細はサイトを参照
£15~100
Sadler's Wells Theatre
Rosebery Avenue,
London EC1R 4TN
Tel: 020 7863 8000
Angel駅
www.sadlerswells.com

 

KANPAI SAKE トム・ウィルソンさん インタビュー

KANPAI LONDON SAKE Brewery & Taproomトム・ウィルソンさん インタビュー

2016年にトム&ルーシー・ウィルソン夫妻によってロンドン南部のペッカムで創業された、日本酒の醸造所兼タップルーム「KANPAI LONDONSAKE Brewery & Taproom」。伝統的な製法で作られる同社の日本酒は、私たちが知っているスタンダードなものから、英国らしい材料を加えたオリジナリティーあふれるものまで、実に多様な味が楽しめる。トムさんにお話を伺い、日本酒の新しい楽しみ方について教えていただいた。

Tom Wilson トム・ウィルソン

クラウドファンディングを通じ2016年にKANPAI LONDON SAKE Brewery & Taproomを創業。グレート・テイスト・アウォーズを数多く受賞するなど、その味は英国に広く認められている。

Tom Wilson

日本酒の醸造所を始めたきっかけを教えてください。

幼少期、米ニューヨークで多くの時間を過ごしました。私の両親は現地で日本食をとても好んでいたこともあり、すでに日本酒も身近な存在でした。ロンドンに戻ってきてから、妻のルーシーと一緒に日本で醸造所を巡る旅をしました。そこで日本酒を作る工程がビールの醸造に似ていると分かり、帰国後に実験的にお米を発酵させてみたりしました。次第に情熱が高まっていき、その結果、2016年に英国でライセンスを持った初の日本酒醸造所となるKanpaiを立ち上げるに至りました。

醸造するにあたって何かこだわりはありますか。

米、麹菌、酵母は日本から輸入し、全てこの醸造所で作っています。また、最後までベストな状態で楽しめるよう、商品ごとに重要な情報をラベルに記載しています。

伝統的な酒とモダンな酒を同時に作るところに一種の難しさがありますが、ここを選んでくださった方には、伝統的な酒をベースにした上で、日本酒のさらなる可能性や新しい面を発見してもらえたらいいなと思っています。伝統的な醸造法を守りつつ、アレンジを加えてブリティッシュ・スタイルのモダンな日本酒を作っていきたいですね。

お勧めの酒はどれでしょうか。

特別純米のSumiは飲みやすく、肉料理やチーズ、貝類などにも合いますね。熱燗もよく、オールマイティーに楽しめます。Sumiは初めてKanpaiに来てくださった方へまずは1杯、というときに勧めています。また、少しココナッツの味に似たKumoもお勧めです。通常にごり酒は甘めの口当たりのものが多いのですが、Kumoはもっと軽い感じで、風味のある料理に合いますね。立ち上げ当初はこれら2種と、ビール酵母を使ったニュータイプのスパークリングのFizuの3種を作り、酒作りの基本を学びました。その後、新しいフレーバー作りに挑戦していきました。そのような意味で、作った酒をすぐにお客さまに飲んでいただき、その反応が見られるタップルームの存在はかなり重要です。今後どのような酒をどれだけ作ったらいいのかがよく分かります。

「セッション・サケ」と呼んでいる手軽な缶シリーズの酒もあります。こちらはアルコール度数が控えめで、もっとカジュアルに楽しむ酒として考案しました。日本と英国の味をミックスさせたイメージで、ユズ&キューカンバー、ミソ& ハニー、ワサビ&アップルです。38種のフレーバーを組み合わせ、ベストな結果がこの3種でした。こちらは先の日本酒と比べると、もっと「fun」な体験を追求したアロマティックな飲み物という位置付けですね。

左から後味すっきりのSumi(£16)、にごり酒のKUMO(£16)、ドライな口当たりのSORA(£16)、 柚子味の日本酒HANA(£20)ウイスキーのように濃厚な熟成の日本酒 KURA(現在オンライン販売はなし)、 セッション・サケのユズ&キューカンバー、ワサビ&アップル、ミソ&ハニー(各£4)。季節限定商品もあるので、最新情報はウェブサイトからチェック!左から後味すっきりのSumi(£16)、にごり酒のKUMO(£16)、ドライな口当たりのSORA(£16)、 柚子味の日本酒HANA(£20)ウイスキーのように濃厚な熟成の日本酒 KURA(現在オンライン販売はなし)、 セッション・サケのユズ&キューカンバー、ワサビ&アップル、ミソ&ハニー(各£4)

読者へ向けてメッセージをお願いします。

日本の日本酒を知る人にとっては驚く味があるかもしれませんが、タップから飲めるフレッシュな生酒はまた格別だと思います。まずはリラックスして、気軽に遊びに来てくださいね。

KANPAI LONDONSAKE Brewery & Taproomに行った動画はこちら!

KANPAI LONDON SAKE Brewery & Taproom

48 Druid Street, London SE1 2EZ
水・木 17:00-22:00 金 17:00-22:30
土 12:00-22:30 日 12:00-19:00
https://kanpai.london

 

英国のスーパーマーケット事情

物価高のなかでしのぎを削る英国のスーパーマーケット事情

英国のスーパーマーケット事情

欧州の中でもひと際スーパーマーケット数が多い英国。王室御用達のスーパーから、海外からやって来た格安チェーン店まで、さまざまな住民のニーズに合わせた店舗がしのぎを削る。近年はEU離脱やコロナ禍に加えウクライナ情勢が影響し、日用食料品の価格が上昇。財布のヒモを引き締めている消費者が多いなかでの、スーパーマーケットの動きを見てみよう。お勧め商品もご紹介する。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

代表的なスーパーマーケット

英国の街かどを彩るおなじみのスーパーマーケット8つを紹介する

国内では最大規模Tesco

Tesco

スーパーマーケットの国内市場シェアが23.4パーセントと、2位のセインズベリーズ(15パーセント)を引き離して断トツ1位のテスコ。1919年にユダヤ系ポーランド人の仕立屋の息子、ジャック・コーエン氏がロンドン東部の屋台で始めた食品販売が成功し、その10年後に同北部エッジウェアに「テスコ」をオープンさせた。90年代に店舗数を増やし業界1位の座に就いて以来、ロイヤリティー・カードやオンライン・フード・ショッピングなど、数々の業界初のサービスを導入し先手必勝でやってきた。どこにでもあり手軽で安定感ある英最大手のスーパーマーケット。

「Tesco Finest シリーズ」は良い材料を使った自社ブランド商品
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「Tesco Finest シリーズ」は良い材料を使った自社ブランド商品

創業150年以上の老舗Sainsbury’s

Sainsbury’s

創業者のジョン・ジェームズ・セインズベリーが、1869年にロンドン中心部のドルーリー・レーンに乳製品を扱う小さな店をオープンさせたのが始まり。20世紀の英国スーパー業界をリードするも、安さと品質でテスコに追い抜かれた。元ブーツの最高責任者だった新CEOサイモン・ロバーツ氏の下、2021年5月に「食品第一」(food first strategy)のスローガンを掲げた。これにより、サプライヤーとの関係を重視した、よりヘルシーで地球温暖化の防止にも役立つサステナブルな食材に重点を置く方向へと向かっている。プラント・ベースの自社ブランド商品なども展開している。

ベジタリアン商品のライス・コロッケ
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ベジタリアン商品のライス・コロッケ

郊外の大型スーパーASDA

ASDA

現在の国内市場シェアが14.5パーセントと、2位のセインズベリーズに迫るアズダは、英北部リーズで1965年に創業。米国式のディスカウント・ストアを真似て大型駐車場を設置したり、ガソリン・スタンドを併設するなど、ロンドン都市部のスーパーとは異なる戦略で成功した。1999年に米ウォルマートの傘下になったが、2021年には英国のEGグループと投資会社TDRキャピタルに売却。ロンドンには東部・南部を中心に10店舗しかなく、現在も郊外の低価格大型店という位置付けだ。近隣住民の食文化を踏まえ、そのニーズに応えた品ぞろえでエスニックな食材も豊富。

タジンなどモロッコ料理に欠かせないレモンの塩漬け
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タジンなどモロッコ料理に欠かせないレモンの塩漬け

女王陛下の御用達Waitrose

Waitrose

上・中流階級の客層をターゲットに、高品質の食品を良心的な価格で提供するスーパーマーケット。ジョン・ルイス・デパートの傘下グループであり、エリザベス女王とチャールズ皇太子のロイヤル・ワラントを持つ王室御用達のスーパーだ。従業員は皆シェアホルダーであり、売り上げは従業員の給与に直接反映されるというユニークな経営方針を採る。1983年に初めてオーガニック食品を販売したスーパーマーケットでもあり、経営不振に陥ったチャールズ皇太子のブランド「ダッチー・オリジナルズ」を救い、「ウェイトローズ・ダッチー・オーガニック」として再出発させた。

おいしさで評判の自社ブランドの高級ライン「No.1シリーズ」
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おいしさで評判の自社ブランドの高級ライン「No.1シリーズ」

高品質な製品が手軽に手に入るM&S Food

M&S Food

一部他社製品も置くようになったものの、取り扱うほぼ全ての商品が自社ブランドという特徴のある高級スーパーマーケット。温めるだけ、もしくはそのまま食べられる惣菜が多い。食品に限らず、質の良い衣料品や靴、ギフト商品、家庭用雑貨なども販売する。国内だけで1000店以上、世界各地に470店以上の支店を持ち、「マークス」と呼ばれ英国民に親しまれている。もともとロシア生まれのユダヤ系ポーランド人の移民、マイケル・マークスがトム・スペンサーと創業。2000年代前半に一時経営難に陥ったが、コンビニ的なミニ・ストアをオープンすることで売り上げを回復した。

「ラグジュアリー・チョコレート・シリーズ」
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「ラグジュアリー・チョコレート・シリーズ」

エスニックにも強いMorrisons

Morrisons

1899年に英北西部ブラッドフォードで、ウィリアム・モリソンが卵やバターを扱う屋台を創業したのが始まり。2000年代初期までイングランド北部を中心に店舗を広げていたが、04年に米系スーパーの子会社セーフウェイ(Safeway)を買収したことで、イングランド南部やスコットランド、ウェールズにも一気に店舗を増やした。アズダ同様、エスニックな食材を進んで取り扱っているほか、21年に英南西部コーンウォールの魚介卸売業者フォルフィッシュ(Falfish Ltd.)を買収したこともあり、魚介類の種類がほかのスーパーマーケットに比べて多く、価格も抑えめ。

モリソンズ・ブランドの商品もある
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モリソンズ・ブランドの商品もある

冷凍食品といえばIceland

Iceland

ウェールズ北部に本社を置くアイスランドは、名前の通り冷凍食品を専門にしたスーパーマーケットで、雑貨チェーン店ウールワース(Woolworths)の元社員2人によって1970年に誕生した。大型冷凍冷蔵庫の普及と共に野菜や惣菜の冷凍食品の需要が拡大し、その手軽さが受けたものの、現在では通常の非冷凍食品も手掛ける。冷凍食品の難点は持ち運びの重さということもあり、デリバリーに力を入れており、オンラインだけでなく実店舗でも25ポンド以上購入すれば翌日配送するサービスを導入。また、2021年の4月にはコンビニ・スタイルのスウィフト(Swift)もオープンした。

人気商品の「ストーンベイクド・ピザ・シリーズ」
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人気商品の「ストーンベイクド・ピザ・シリーズ」

消費者協同組合から始まったThe Co-operative

The Co-operative

コープは英国の消費者協同組合(TheCo-operative Group)の食品小売事業が運営するスーパーマーケットで、2023年に創業75周年を迎える。 2009年にスーパー・チェーンの「サマーフィールド」を買収したことから各地に店舗数を増やし、より商業的になり、ほかのスーパーマーケット・チェーンと変わらない品ぞろえとなった。現在コープが試験的に実施しているのはトラックやバンなどを使わない地球に優しいエコなデリバリー。店舗から徒歩15分圏内にある家庭に、デリバリー・ロボットが当日配送する。今のところは都市部ではないエリアの顧客に向けたサービスとのこと。

自社ブランドの人気クリスプス
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自社ブランドの人気クリスプス

英国の人気スーパーBest12

性別や年代にかかわらず、人気のある英国のスーパーは以下の通り。長年1位を誇っていたはずのテスコが、いつのまにかドイツの格安チェーン、アルディに取って代わられている。ちなみに、25位にホール・フーズ・マーケット(Whole Foods Market)、29位にプラネット・オーガニック(Planet Organic)がランクインし、健康や環境に気を遣う層も一定数存在することが分かる。

1 Aldi
2 M&S Food
3 Lidl
4 Tesco Express
5 Iceland
6 Morrisons
7 Tesco
8 ASDA
9 Sainsbury's
10 The Co-operative Food
11 Waitrose
12 The Co-operative
(2022 年YouGov調べ)

黒船到来?Amazonがスーパーマーケット事業に参戦

Amazonがスーパーマーケット事業に参戦

2021年3月にロンドン西部に誕生した、オンライン通販最大手アマゾンの初の実店舗アマゾン・フレッシュは着実に店舗数を増やしており、現在はロンドンに19店。アマゾン・フレッシュの品ぞろえはファミリーというよりも都市で働く個人のニーズに合わせてある。スーパーで売られているような商品が今すぐ欲しい、一刻の無駄もストレスもなく欲しいのだ、というせっかちな人にお勧めだ。

買い物はアマゾンのアカウントを持っていればOKで、アマゾンのサイトを開くかアプリをダウンロードしたら、改札のような入口でQRコードをスキャン。あとは商品を選んで自分のバッグに直入れして帰るだけなので、貴重なランチタイムをレジの行列で潰さなくて済む。カゴやカートなどの余計なものもない。商品は調理済み食品から野菜や肉などの生鮮食品、アルコールなど。意外にも3分の1近くがアマゾンの自社商品で、オーガニック食材やヴィーガンの選択肢もある。

価格帯としてはセインズベリーズかM&Sに近いが、ランチタイムにはメイン+スナック+ドリンクのお得なミール・ディールも。店の奥にはアマゾンのハブがあるので、オンラインで購入したものをここで受け取ることもできる。

Amazonがスーパーマーケット事業に参戦

ひしひしと押し寄せる物価高の波に対抗知っていると得する節約術

いつものスーパーで今までと同じように買い物をして、明らかに合計金額が以前より高くなっていることに驚いた人も多いだろう。このページでは、買うか買わないかの二択ではなく、スーパーを変える、買うものを少し変えるなど、ゆるやかな節約方法を紹介する。

1回で20ポンドは差が付く!1. ディスカウント・スーパーを活用

リドル(Lidl)やアルディ(Aldi)といったドイツ系のディスカウント・スーパーが初めて英国に上陸したのは1990年代だが、次第に店舗を増やし今ではテスコやセインズベリーズなどと並ぶ競合になった。倉庫や陳列棚を持たず商品の入った段ボール箱を店内にそのまま積み上げる徹底的なコスト削減を実現。商品はよく購入される基本商品に絞り、自社製品を大量生産している。聞いたことのないブランド名ばかりだが、実はこれらはほぼ自社ブランドの商品だ。

LIDLLIDL

ALDIALDI

下の表は食料小売業の業界誌「ザ・グローサー」が6月に実施した、各スーパーマーケットで売られている基本33品目の価格調査だが、これによると目下はリドルが最も合計金額が安く消費者のお財布に優しいスーパーで、僅差でアルディが追う。両スーパーともに、最も高いウェイトローズと比べるとその差は20ポンド以上。英国で人気スーパーの1位と3位をアルディとリドルで分け合っているのも仕方のない状況だ。ただし安いだけで商品が良くなければ人気はでないはず。ディスカウント・スーパーで新たなお気に入りを探してみては。

基本33品目の価格調査
SupermarketJune 2022
Lidl £45.64
Aldi £45.88
Tesco £52.21
Asda £51.69
Morrisons £51.74
Sainsbury's £52.82
Waitrose £66.05
Amazon N/A
Iceland N/A
M&S/Ocado N/A
Data provided by Assosia(6月17日付)

半額以下になる商品も!2. 価格を抑えた自社商品シリーズを購入

tomato

英国では、スーパーなどの小売業者が価格競争に勝つため独自の格安ラインを持つ。こうした自社シリーズには、エッセンシャル、ベーシックといった名称が付くことが多く、不況で食品価格が上昇するなか、買い物客から熱い支持を受けている。

Tesco
かつてはEveryday Valueという格安シリーズを持っていたが、2018年からは段階的に廃止を始め、Exclusively at Tesco rangeとしてMs Molly'sやHearty Food Co.などのブランド名を使っている。ただしこれは全てテスコ製品で、ブランド名はイメージ戦略に過ぎない。自社名を冠したパスタ「Tesco Penne PastaQuills 500G」が80ペンスなのに比べ、「Hearty Food Co. Penne Pasta500G」は32ペンス。

Sainsbury's
約500品目のSainsbury's Basicsがある。白地にオレンジの文字で商品名が記されているだけのシンプルなデザイン。ただし最近ではテスコ同様にStamford Street FoodCompanyやHubbard's Foodstoreといったブランド名も使い始めた。しかしながら、価格は、テスコ、アズダ、モリソンズの格安シリーズよりは若干高い印象。

Waitrose
Essential Waitrose は2009年に始動し、その数約1500品目。低価格で高品質の商品シリーズとして定着している。しかし今年になってアズダが自社ブランドの格安シリーズにJust Essentialと名付けたことから、ウェイトローズは名前を似せ過ぎだと怒りモードに。

M&S
Re-Marks-able Value シリーズを2019年に発表。ミルク、卵、パスタ、サーモンなど500品目がある。今年4月にはこのシリーズをさらに値下げし、セミスキムド・ミルクが4パイントで1.15ポンド、バナナが1キロで78ペンスなど。

エア・マイルにも交換可能!3. バウチャーやアプリで賢い節約

多くのスーパーがポイント・カードのシステムを採っているので、一番よく利用するスーパーのものを持てば、さまざまな特典が得られる。現在どのスーパーもカード式からアプリへと移行中なので、お財布がカードだらけになる心配もない。いずれも登録は無料だ。

TescoClubcard
1ポンドで1ポイント。150ポイント(1.50ポンド相当)からバウチャーとして利用できる。会員価格の格安商品もあるうえ、ホテルやレストラン、ガソリン・スタンドなどで使えるところもある。

Sainsbury'sNectar Card
500ポイント(2.50ポンド相当)からバウチャーとして利用できる。ArgosやeBay、asosにJust Eatなどでもポイントが付くほか、British Airwaysのマイルに交換も可能。

WaitrosemyWaitrose
ポイント方式ではなく、購入履歴から毎週お勧め商品が会員価格としてアプリの画面に出るので、欲しい商品をクリック。アクティベイトしてからレジでスキャンすれば割引に。ほかにも、会員は生鮮食品のカウンターで週1回20パーセント・オフ。

M&SSparks Card
1ポンドで10ポイント。貯まったポイント額と購入履歴に応じた期間限定オファーがもらえる。登録時に貢献したい慈善団体にチェックを入れると、M&Sがポイント分を寄付。

フード・ロスも削減!10ポンド相当の食材が3ポンドに

10ポンド相当の食材が3ポンドに写真はイメージです

モリソンズはコロナ禍にフード・ボックスというデリバリー・スキームをいち早く導入し、4人家族の5食分に相当する、14キロの商品を30ポンドで配送していた。これは新型コロナウイルスに感染して外出できない人々や、スーパーの行列に並びたくない人を中心に需要が広がったが、現在行われているの新たな試みはインフレと食品ロスに対処するためのスキームだ。

売れ残ってしまうと処分しなければならない食品を、必要な人に格安で販売することで、食品ロスの削減を目指す「TooGood To Go」という人気アプリを使うと、チェーン系のカフェやレストランから安価で商品が買える。モリソンズは英国のスーパーとしては初めて、同アプリを介して賞味期限の近い食材の販売を開始した。モリソンズのボックスには売れ残った果物や野菜のほか、ベーカリーやデリのアイテムが入る場合もある。10ポンド相当の食材が1箱3.09ポンド。気になる中身は毎回違うものの、パン、ペストリー、リンゴ1袋、ポテト1袋、玉ねぎ1袋、マッシュルーム、ニンジンとなかなかの量。商品が傷む前に使う必要はあるが、食費を節約できることは間違いない。

英国在住者の視点で選んだスーパーのおススメ「和風」食材

英国、特にロンドンではアジア系の食材店が増え、また一般のスーパーマーケットでも日本の米、しょうゆ、豆腐などを置く店が増えてきた。とはいうものの、お気に入りの日本の味はもっと開拓したいもの。ここではロンドン在住者たちが「これなら使える」と感じた現地スーパーの代用品を紹介する。

「もっとほかにも知っている」という方はTwitterでお知らせください。
Twitter: @newsdigest

M&S Baby Cucumbers(200g/£1.05)

M&S Baby Cucumbers

通常のキューカンバーより小さくて歯ごたえがあるので、日本のキュウリが恋しいときに代用できる。マヨネーズを付けて生でボリボリ食べるのはもちろん、水分が少なめなのでキムチやぬか漬けも作れる。(購入場所:M&S)

Sainsbury’s Mackerel Fillets in Sweets Teriyaki Dressing(125g/£0.80)

Sainsbury’s Mackerel Fillets in Sweets Teriyaki Dressing

セインズベリーズのサバ缶シリーズのうちの一つで、甘めのテリヤキ・ソースの中に入っている。日本のさんまの蒲焼き缶詰にヒントを得たのではないかと思われ、似たような使い方ができる。(購入場所:Sainsbury's)

Snaktastic Japanese Style Mix(175g/£1.39)

Snaktastic Japanese Style Mix

日本のおかきに限りなく近いスナック。濃い味付けが多い英国では珍しい、薄いしょうゆ風味が特徴だ。甘味があったり食感が軽かったりと、バラエティー豊かな味わいが1袋に集約されている。(購入場所:Lidl)

Cooks' Ingredients Frozen Asian Mixed Vegetables(400g/£1.80)

Cooks' Ingredients Frozen Asian Mixed Vegetables

レンコンやクワイ、タケノコなど和風な野菜ばかりをスライスした冷凍食材。「炒め物やヌードルに」と袋に記されているが、鶏肉を加えた簡単な煮物などにも使える。大容量ではないところも使いやすい。(購入場所:Waitrose)

little moons VEGAN PASSIONFRUIT & MANGO MOCHI ICE CREAM(150g/£1.75)

little moons VEGAN PASSIONFRUIT & MANGO MOCHI ICE CREAM

もちもちの皮に包まれたアイスクリーム。雪見だい○くに似た食感が楽しめる。パッション・フルーツ&マンゴー味のほか、ココナッツ味、塩キャラメル味など10種以上のフレーバーがある。

Frozen 10 Tempura King Prawns(120g/£2.50)

Frozen 10 Tempura King Prawns

新鮮なエビが手に入りにくい英国で、自宅で天ぷらそばや天丼が食べたいときに重宝する冷凍のエビの天ぷら。お勧めは指定時間より少し長めにオーブンで焼くこと。よりサクサクとした食感が楽しめる。 (購入場所:Waitrose)

Island Sun Farina Potato Starch(500g/£0.75)

Island Sun Farina Potato Starch

英国でよく使われるコーンではなくポテトが原料なので、色も性質も日本の片栗粉に最も似ている。この片栗粉を愛用しているのはカリブ系の人々。伝統的なカリビアン・スープやシチューに利用するのだとか。(購入場所:ASDA)

Merchant Gourmet Whole Chestnuts(180g/£2.40)

Merchant Gourmet Whole Chestnuts

プラント・ベースの食事の促進に努めるマーチャント・グルメ社の栗。皮をむかれた状態の栗は甘栗の代用になるほか、シチューやスープ、パイに混ぜたりとさまざまな楽しみ方ができる。(購入場所:Ocado, Waitrose, Sainsbury's, Tesco)

M&S Percy Pig Fruity Chews(150g/£1.75)

M&S Percy Pig Fruity Chews

豚をかたどった、かわいらしいフルーツ味のチューイング・ソフトキャンディー。ハ○チュウのような食感とフルーティーな味わいで、ついつい手が伸びてしまうお菓子だ。ベジタリアン向け。(購入場所:M&S)

英国の食に貢献おいしさの証しGreat Taste Awardsとは

おいしさの証しGreat Taste Awardsとは

英国でときどき見かける食料品の片隅に付いた黒と金のグレート・テイストのロゴ。これは高級食品組合のザ・ギルド・オブ・ファイン・フード(The Guild of Fine Food)が主催する食品の国際大会、グレート・テイスト・アウォーズで賞を獲得した証しだ。 英国の優れた農産物や加工品を評価し、食品産業の質を上げるために1994年に始まった同大会は、現在では1万点以上がエントリーする権威のあるアウォーズに成長した。審査方法は一流シェフや料理研究家、フード・ライターなどその道のプロたちによるブラインド・テイスティング。

アウォーズには1~3つ星の3種類の評価があるが、食感、見た目、香り、そして原材料の品質などが厳しくチェックされ、最高の3つ星を得られるのは全体の2パーセントの商品に過ぎないという。3つ星はお店でもなかなかお目にかかれないので、もし見付けたら迷わず購入してみてはいかがだろうか。チーズやハム、調味料からお菓子まで幅広い商品が審査の対象になっている。昨年はお茶のブランド「ティーホリック」社の日本茶が3つ星に輝いた。ちなみに、2022年の審査はすでに終了。8月1日に結果が発表される。また新たなおいしさに出合えるチャンスだ。

 

FIA F2選手権はなぜ面白いのか

2022年7月1日(金)〜7月3日(日)
シルバーストーン・サーキットで開催!
FIA F2選手権はなぜ面白いのか

2022年3月25〜27日、サウジアラビアのジェッダで開催されたラウンド2。先頭を走るのはフィーチャー・レースを制したフェリペ・ドラゴヴィッチ2022年3月25〜27日、サウジアラビアのジェッダで開催されたラウンド2。先頭を走るのはフィーチャー・レースを制したフェリペ・ドラゴヴィッチ

モータースポーツに詳しくない方でも、国際自動車連盟(FIA) が主催する自動車レースの最高峰「F1世界選手権」(FIA Formula One World Championship)、日本ではエフワンと呼ばれるこのレースの名を一度は聞いたことがあるだろう。

昨年はレッドブル所属のマックス・フェルスタッペン選手とメルセデスのルイス・ハミルトン選手の優勝争いが話題になった。メディア露出の多いF1に比べ、FIA F2選手権(以下F2)の世界は普段なかなか見る機会が少なく、馴染みのない人も多いかもしれない。

F1への登竜門となっているF2は、未来のF1ドライバーがひしめく勝負の世界。F1とはまた一味違う魅力をもつF2について、簡単なルール説明から、F2所属チームで働く現役メカニックによる現場の声、さらに英国の会場となるシルバーストーン・サーキットについても紹介し、F2独自の面白さを解説する。 (文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.fia.comhttps://jp.motorsport.comwww.as-web.jp ほか 取材協力: 新木崇弘さん

これを読めばF2の基本が分かる!F2初心者のための観戦術

F2の魅力は、F1で戦う未来のドライバーの成長過程が見られること。初めて観戦する人へ向けて、F1との違いやF2独特の見どころなどをまとめてみた。

まずは簡単な違いからF1〜4のレギュレーション

フォーミュラ・カーを用いたレースはF1、2だけでなく、3、4まである。数字の並びから、一見すると力量のあるドライバーとチームから順に振り分けられているように感じるが、そうとも言い切れない。もちろん最も速いドライバーが勝つという大前提はあるものの、F1~F4ではそれぞれ異なるテクニカル・レギュレーション(技術規定)が設けられているので、カテゴリごとにレースの主な勝因も微妙に異なるのだ。これにより、F1ならマシンの性能がより良いもの、F2ならチーム全体の結束力が強い者がレースを制する。

カテゴリごとのテクニカル・レギュレーション
 F1F2F3F4
重量 798kg 755kg 698kg 各国での国内選手権のことを指すので、各主催国により異なるレギュレーションが定められている
エンジン
使用
1.6L V6 3.4L V6 3.4L V6
馬力 1000 620 380
最高速度
(時速)
372km 335km 300km
ラウンド数 23* 14 9
時期 3月20日〜
11月20日
3月18日〜
11月20日
3月18日〜
9月11日
※ロシアによるウクライナ侵攻のため、ロシア・グランプリはキャンセル。22ラウンドに変更された

F1の下に位置付けられているF2における昨年と今シーズンの大きな違いは、これまでの1ラウンドのレース数が、3レースから2レースへと変更されたこと。各ラウンドは金曜に45分間のフリー走行1回、30分の予選1回、土曜は120キロメートルまたは45分間の早い方でスプリント・レース1回、日曜は170キロメートルまたは60分のいずれか早い方で構成されるフィーチャー・レース1回となった。予選タイムの速い車がレース・スタート時に後方の位置(グリッド)に配置される「リバースグリッド方式」は今年も採用され、土曜のレース1(スプリント・レース)に適用される。スタート位置が速い順でなくなることで、ライバルを追い越し追い越されるオーバーテイクが起きやすい環境が作られ、よりレースが面白くなる。F1でも戦える力を養う登竜門として、F2はますます機能していく。

また、F2もF1と同様にドライバーとコンストラクターズのシリーズ・チャンピオンがある。ドライバーズ・チャンピオンは、勝てばポイントが入り、シーズン通して加算されて、最終戦が終わった段階でどのぐらいポイントを獲得したかでシリーズ・チャンピオンが決まる。

昨年のモンテカルロ(モナコ)でのレース。高い走行テクニックが要求される有名な市街地コースだ昨年のモンテカルロ(モナコ)でのレース。高い走行テクニックが要求される有名な市街地コースだ

F1レベルのドライバーがたくさん!F2がハイレベルな理由

F2の各レースで上位に入賞し続け、その年のシリーズ・ランキングで上位にいることができれば、スーパー・ライセンスを取得するためのポイントが獲得できる。F2のドライバーたちはそのポイントを貯め、F1に戦いの場を移したいと考えているが、F1はトップ・ドライバーの飽和状態にあるのが現状だ。F1は10チーム、計20名のドライバーしか選ばれず、最高峰のF1トップ・ドライバーは、戦える限りそこにい続ける。また、この上限が増える予定は今のところない。つまり、F1に上がれる条件がそろっているF1待ちのドライバーでF2はあふれて返っているため、現在のF2はそのカテゴリ以上のドライバーがひしめきあい、F1に見劣りしないレース展開が繰り広げられるのだ。

ちなみにF3では同じことは起こりにくい。ドライバーのレベル的にはまだまだ育成の枠であり、若くて勢いのあるドライバーや、これから経験を増やしていこうとするドライバーでいっぱい。固定ドライバーが比較的そろうF1やF2と異なり、F3はその才能がただのビギナーズラックだったのか否かを見定めるために存在しており、毎年ようにドライバーが頻繁に入れ替わる。

予算があっても勝てるわけではないF2マシンの作り方の違い

F1とF2ではドライバーが乗るマシーンの作り方に大きな違いがある。F1では予算が許される限り、できるだけ速く走る車を各チームがそれぞれ作り、そのスピードを競う。一方F2はイタリアのダラーラ社(Dallara Automobili S.p.A)のレーシング・カーを使用しなければならないというルールがある。どこのチームも同じ部品を購入し、大きさ5.224×1.90メートルの車を組み立てていくのだ。

他チームとの違いを決定するのは、組み立て方によって耐久性が変わる部品を整備するメカニックの腕や、スピードをチェックし、どうしたらより速く走れるかを戦術するエンジニアである。さらに、ドライバーの力量も結果を大きく左右する。もちろんF1もドライバーによって差は出るが、ドライバーと全体的なチーム力がより重要視されるのがF2の世界であり、F1よりその特徴が顕著に表れている。

しのぎを削るドライバーたちF2の構成チーム

今年はF2デビューの日本人ドライバー、岩佐歩夢(あゆむ)とトライデントからヴィルトゥオーシ・レーシングに移籍した佐藤万璃音(まりの)が参加。また、F3のチャンピオンでF2初出場のデニス・ハウガー、F3で2位に入賞経験のあるジャック・ドゥーハン、2021年のモナコでポール・トゥー・ウィンを飾ったテオ・プルシェールなど注目の選手が多数出場する。

ここに挙げたドライバー以外にも、未来のF1候補がいる可能性は十分あるので、どのレースを見ても新しい才能を発見する楽しみを味わえるはずだ。

F2レーシング・チーム&ドライバー
レーシング・チームドライバー1ドライバー2
PREMA Racing
(イタリア)
Dennis Hauger
(ノルウェー)
Jehan Daruvala
(インド)
Virtuosi Racing
(英国)
Jack Doohan
(オーストラリア)
Marino Sato
(日本)
Carlin
(英国)
Liam Lawson
(ニュージーランド)
Logan Sargeant
(米国)
Hitech Grand Prix
(英国)
Marcus Armstrong
(ニュージーランド)
Jüri Vips
(エストニア)
ART Grand Prix
(フランス)
Frederik Vesti
(デンマーク)
Théo Pourchaire
(フランス)
MP Motorsport
(オランダ)
Felipe Drugovich
(ブラジル)
Clément Novalak
(フランス)
Campos Racing
(スペイン)
Olli Caldwell
(英国)
Ralph Boschung
(スイス)
DAMS
(フランス)
Roy Nissany
(イスラエル)
Ayumu Iwasa
(日本)
Trident
(イタリア)
Richard Verschoor
(オランダ)
Calan Williams
(オーストラリア)
Charouz Racing System
(チェコ)
Enzo Fittipaldi
(ブラジル)
Cem Bölükbasi
(トルコ)
Van Amersfoort Racing
(オランダ)
Jake Hughes
(英国)
Amaury Cordeel
(ベルギー)

現地で?自宅で?F2の観戦方法

現地で観戦
F2はF1のサポート・レースとして行われるため、F1のチケットを購入することでF2も現地で観戦できる。7月1〜3日に英国のシルバーストーン・サーキットで行われるチケットはほとんど売れてしまっているが、座席のないジェネラル・アドミッションなら115〜239ポンド、3日間の座席チケットは1250ポンドで販売中。残り少なくなっているので、観戦を希望の場合はこちらから。
www.silverstone.co.uk/events/formula-1-british-grand-prix

自宅で観戦
英国ではSky Sportsで、日本からは配信サイトDAZNから鑑賞できる(有料)。
www.skysports.com/watch
www.dazn.com

例年より過密なレースに開催スケジュール

今年はF2史上最多となる14ラウンド28レースが開催。限られた時間のなかでいかにベストを尽くせるかが勝因を分ける。最終ラウンドに向け、ますます熱を帯びている。

F2の開催スケジュール
ラウンド日程開催地
第1戦 3月18日〜3月20日 バーレーン
第2戦 3月25日〜3月27日 サウジアラビア
第3戦 4月22日〜4月24日 イタリア
第4戦 5月20日〜5月22日 スペイン
第5戦 5月26日〜5月29日 モナコ
第6戦 6月10日〜6月12日 アゼルバイジャン
第7戦 7月1日〜7月3日 英国
第8戦 7月8日〜7月10日 オーストリア
第9戦 7月22日~7月24日 フランス
第10戦 7月29日~7月31日 ハンガリー
第11戦 8月26日~8月28日 ベルギー
第12戦 9月2日~9月4日 オランダ
第13戦 9月9日~9月11日 イタリア
第14戦 11月18日~11月20日 アラブ首長国連邦
※今年は基本的にF1、2、3 は同時開催。レースはF3、F2、F1 の順番でスタートする

2022年、英国F2選手権の舞台は歴史あるシルバーストーン・サーキット

英国という土地柄、天候が勝敗を決める要因ともなるシルバーストーン・サーキット英国という土地柄、天候が勝敗を決める要因ともなるシルバーストーン・サーキット

英中部トースター(Towcester)にあるシルバーストーン・サーキット(Silverstone Circuit)は、フォーミュラのレースのほかにバイクの選手権などが行われるモータースポーツの聖地だ。 第二次世界大戦後、英国には英空軍の飛行場が多数残っていたが、ここも漏れなくかつてはRAFシルバーストーンとして使用されていた場所。王立自動車クラブ(RAC)主催により、 1948年10月2日に初めて英国でレースが行われたが、当初は長い滑走路がストレート・コースとして使われていたという。1950年にF1世界選手権が行われ、1990〜91年にかけて高速サーキットにするための大規模な改修工事を行い、その後も大小の変化を遂げながら今日に至る。

18のコーナーで構成される全長5.8キロメートルのサーキットは、流れるようなコースが特徴。街中を走るモナコのモンテカルロ市街地コースのような難易度ではないものの、この伝統の地で勝利を挙げるということは多くのドライバーにとっての一つの夢である。

2020年12月、ブリティッシュ・ドライバーズ・レーシング・クラブ(British Drivers' Racing Club)は、7度の世界チャンピオンに輝いた英F1ドライバー、ルイス・ハミルトンに敬意を表し、インターナショナル・サーキットのピット・ストレートの名称を「ハミルトン・ストレート」と名付けた。

女性ドライバーのみのレース、WシリーズもF1に帯同

男性が多いモータースポーツの世界だが、もちろん女性のレーシング・ドライバーもいる。女性のF1選手を輩出することを目標とするフォーミュラ・カーのシリーズ「Wシリーズ」は、2019年にドイツなど欧州各国で初めて開催され、話題を呼んだ。今年もF1のサポート・レースとして世界各地を回っている。参加ドライバーは、最終テストで選出された18名のみ。

日本からは元F1ドライバーの野田英樹を父親に持つ、野田樹潤(じゅじゅ)が初出場。英国の注目選手は、数々の国際大会に出場し、2019、21年(20年は新型コロナのため開催なし)と優勝しているジェイミー・チャドウィックだ。

Interview

マシン整備のプロ、新木崇弘さんに聞くチームの勝利を支えるメカニックの仕事

お話を聞いた方

新木崇弘

新木崇弘 Takahiro Araki 1991年生まれ。日本のレーシング・チームでメカニックとして経験を積んだ後、2016年末にモータースポーツの本場、英国に拠点を移す。現在はF2のメカニックとして忙しい日々を過ごしている。

ここまで観戦者側の立場からF2の特徴に触れてみたが、実際にF2レースに携わっている人はどのような毎日を送っているのだろうか。今回、F2に所属するチームの日本人メカニックとして活躍する新木崇弘さんに、普段のお仕事の様子やその裏側について伺ってみた。

この世界にどのようなきっかけで入ったのでしょうか。

父親の影響で幼いころから車が好きで、高校生になってからも車の仕事に就きたいと一貫して考えていました。ドライバーのオーディションを受けたこともありましたが、思ったような結果が出ず、それでもレースへの想いは強かったので、メカニックの世界で1番を目指そうと思いました。

大きな転機となったのは、自動車専門学校時代に当時からF1のレーシング・チームで働いていた白幡勝広さんが、F1の日本グランプリ(鈴鹿)の時に所属チームのピットに僕を招待してくれたことです。世界のトップ・レースを間近で見たことで、目指すのはこの舞台しかないと確信し、5年少し日本のレーシング・チームで働いた後、拠点を英国に移しました。

現在シリーズ真っ只中だと思いますが、シーズン中はどのようなサイクルで過ごしていますか。

2022年は3月からシーズンがスタートしましたが、本格的な準備は12月から徐々に始まり、シーズン開始後はレースをフォローしながら移動する日々が続いています。サーキットにいる間は、大変慌ただしく、常に何をするかを念頭に入れて作業します。

ラウンド間が詰まっているときは、できる限りのメンテナンスを行い、時間に余裕があるときは英国の工場に車を持ち帰ってチェックします。タイヤを支えているサスペンションやギアチェンジをするためのギアボックスなどの仕組みも一旦全部バラします。

ラウンド後はいつもバラすのですか。

ラウンド期間によります。例えばラウンド期間が3日しかない場合はその日程でできる範囲のことを行います。時間に余裕があるときは、全部バラして細かくチェックし、なるべく定時で終わるようにしていますね。

先月5月のスペイン後は、英国には帰らず直接モナコへ。車をサーキットでメンテナンスして、次はアゼルバイジャンへ。それから英国に戻ってメンテナンスし、7月1〜3日のシルバーストーンに備えます。例年シーズンは12月までなのですが、今年は最終戦が11月末と早いため、日程がかなり詰まっており、なおかつレース数が例年より多いのでとても忙しいです。

工場でのお仕事について教えてください。

僕が所属するチームは2人で1台の車を見ています。メカニックはナンバー1、2といて、1が責任者で2が僕です。僕が担当しているのは主に車の前の部分。コックピットの周り、いろいろな信号を送るための電気の配線、アクセル・ブレーキのペダルやステアリング、スプリングやダンパーなど、ドライバーのシートまわりですね。走ると傷が付くのでそれをきれいにしてしっかり掃除をします。変な傷が入ってないかもチェックしますね。サスペンションは結構力が入るから曲がっちゃったりするんです。

また、目視だけでは分からない部分も当然あるので、非破壊検査(NDT=Non DestructionTest)という超音波や特殊な液体を使う検査を行って傷を浮かび上がらせ、異常を確認します。バラし、きれいに洗浄し、目視で確認、目視できない部分は非破壊検査でチェックして、問題がなければ必要な工程を踏んで組み立てていきます。ちなみに服はいつもあまり汚さないようにしています。服や作業場は汚さないように作業することがメカニックにとってとても大事なことだと思っています。

多忙な毎日ですが、オフ・シーズンはどのように過ごすのですか。

メカニック全体を見ているチーフ・メカニックやチーム・マネージャーが、僕たちメカニックから必要な情報を吸い上げ、新しい部品の注文を行います。今年は11月にレースが終わり、アブダビから12月に車が戻ってくる予定です。来年2、3月までにフル・メンテナンスをしなくてはならないので、12月にすぐ作業に取り掛かれるよう、10月などオフ・シーズンの前から動いて、必要なものが届くようにしています。次のシーズンから車が全部変わる=全くの新車になる場合、新しい車を作らなくてはいけないのにシーズンが始まる直前までパーツが届かないなんてことも……。どう組むのがベストなのだろうとか、そういう思考期間も含めるとオフ・シーズンも結構忙しいですね。同じ車を使うならバラした上で、これは来年使える、これは使えないと分けます。

僕らの世界ではマイレージと呼んでますが、何千キロ走ったかをパーツごとに管理しています。モノコックという車の骨格部分は基本的に変えませんが、使い込むにつれ、よれてきたり、ダメージを受けてしまいます。シーズン中でできないメンテナンスをオフ・シーズンで隅々までチェックし、ゼロから組み直す。組みの違い一つで大事故につながるので、常に細心の注意を払って行っています。

 

「プライド」パレードから50年 英国におけるLGBT+

「プライド」パレードから50年英国におけるLGBT+

ロンドン中心部で交通を遮断し、大々的に開催されるプライド・パレードロンドン中心部で交通を遮断し、大々的に開催されるプライド・パレード

世界各地でLGBT+(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアなど)コミュニティーのためのフェスティバル「プライド・パレード」が毎年開催されているが、英国でのフェスティバルは2022年でちょうど50年を迎える。昔に比べLGBT+に対する人々の理解は深まったように思えるが、今なおLGBT+がマイノリティーであることには変わりがない。この特集では、この50年でLGBT+に対する英国人の意識がどう変化したのかを検証してみたい。(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.stonewall.org.ukwww.pinknews.co.uk、BBC ほか

「プライド・パレード」の始まり

「プライド・イン・ロンドン」(かつては「プライド・ロンドン」)は、毎年推定150万人が訪れるロンドンの人気イベント。ロンドン中心部のオックスフォード・ストリートを開放し、性別、民族、セクシュアリティーを問わずさまざまな人びとが参加する大規模なパレードは、人間の多様性をアピールする、祝祭的雰囲気にあふれたイベントだ。だが今でこそ万人に開かれているが、50年前に開始されたときは「同性愛者の権利を求めるデモ」の一つだった。

初めてパレードが開催されたのは1972年7月1日。当時は「UK ゲイ・プライド・ラリー」と呼ばれ、700人余りが参加したといわれる。1969年6月に米ニューヨークで起きたストーンウォール反乱に影響を受けて開催された。この反乱事件は、NYのゲイ・バー、ストーンウォール・インへの警官による踏み込み捜査にLGBT+当事者たちが立ち向かい、5日間にわたる暴動へと発展したもの。同性愛者の権利を求める運動の象徴的出来事として各国に知られるようになり、これをきっかけに米国でゲイ解放戦線(Gay Liberation Front)が設立。翌年には英国にもロンドン・ゲイ解放戦線(London Gay Liberation Front)が立ち上げられ、「UK ゲイ・プライド・ラリー」もそうした運動の高まりから生まれた。

1972年ロンドンで開催された「UK ゲイ・プライド・ラリー」1972年ロンドンで開催された「UK ゲイ・プライド・ラリー」

英国のLGBT+に今起きていること

LGBT+は、個々の違いを受け入れ、認め合い、生かしていくダイバーシティー&インクルージョンの動きとセットで語られることが多い。だが、その理想を語ることに重きが置かれ、実現のための地道な試行錯誤が見落とされがちだ。人々の意識を変えるには一朝一夕にはいかず、時間もかかる。

ここ数年は政府などの行政機関もダイバーシティー&インクルージョンに努めているといえるが、現在英国で起きているLGBT+をめぐる動きをピックアップして紹介する。

LGBT+とは一言ではくくれない複雑多様なアイデンティティー

LGBT+ コミュニティーといってもさまざまな種類があり、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィアのほかに、次のようなものがある。

・クエスチョニング
自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていない

・インターセックス
身体的性が一般的に定められた男性・女性の中間もしくはどちらとも一致しない

・ノン・バイナリー
自身の性自認と性表現を「男性・女性」という二つの枠組みに当てはめない

・アセクシャル
他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かない

・ポリセクシャル
男性・女性だけでなく複数のジェンダーに恋愛感情を抱く

・ジェンダークィア
ジェンダーが性別二元制を超越し、男性でも女性でもない

・ジェンダー・ヴァリアント・ピープル
既存の性別に属さない

このほかに、アイデンティティー的にはマジョリティーに属していることをシスジェンダー(出生時に判断された身体的性別と、自分の性自認や性表現が一致している)といい、LGBT+に理解があり支援する人々のことをアライ(ally=同盟)と呼ぶなどしている。

サッカーと同性愛
遅れがちなLGBT+の共存

英サッカーのブラックプールFCに所属するジェイク・ ダニエル選手(17)が2022年5月、自らがゲイであることをカミング・アウトし大きな話題を集めた。

LGBT+の共存が進んでいるように見える世の中だが、スポーツ、特にサッカーはPKを失敗した選手に対し、観客から人種差別的中傷が飛んだり、選手も相手チームに対する中傷に同性愛者を指す言葉を使うなど、マイノリティーに対する差別が残る世界として知られる。

その中でのダニエル選手のカミング・アウトがいかに勇気を伴うものだったかは、現役中にカミング・アウトした英サッカー選手がダニエル選手で2人目に過ぎず、1990年に公表したリーズFC ジャスティン・ファシャヌ選手についでほぼ30年ぶりであることからも分かる。

ダニエル選手は、今回のカミング・アウトでクラブやチームメートから多大なサポートを受けたそうで、同性愛のサッカー選手にとっての前向きな先例になりそうだ。

カミング・アウトしたジェイク・ダニエル選手(写真右)カミング・アウトしたジェイク・ダニエル選手(写真右)

同じくクィアを公表している飛び込み競技の英代表でオリンピック・ゴールドメダリストのトム・デイリー選手は、米ニュースサイト「デーリー・ビースト」のインタビューで、「本当に素晴らしいこと」と称え、「LGBT+の子どもたちはこれを聞いて、自分たちもやれるんだ、仲間に入れてもらえるんだ、と勇気付けられるはず」と語っている。

ジャスティン・ファシャヌ選手

1980年代から98年に自死するまで、イングランドの複数のクラブでプレーしたサッカー選手。黒人初の移籍金100万ポンド(当時約5億円)の選手として知られた。現役だった90年に、自分が同性愛者であることや保守党議員と関係を持ったことを告白。

まだ同性愛に対して開放的ではないその時代、風当たりが強まるなか、98年3月に米国で、未成年者への性的暴行の容疑で起訴される。同年5月にロンドンで無実を訴える遺書を残し、37歳で自らで命を絶った。近年のLGBT+容認の風潮からファシャヌ選手に再び注目が集まり、2020年には英北部マンチェスターの国立フットボール博物館への殿堂入りを果たした。

トランス女性の競技参加

女子スポーツにおけるLGBT+の共存は、男子スポーツとはまた違った難しさを持っている。男性の体を持つトランスジェンダーの女性(以下トランス女性)が、女子スポーツの種目でほかの選手と競い合う際、トランス女性の体力の優位性やほかの競争相手への怪我の脅威なしに、女子競技で競争できるのか、という問題だ。

ボリス・ジョンソン首相をはじめとする多くの人は、トランス女性には体力や体格的に利点があるため、女子競技に参加すべきではないという立場をとる。現に、自転車競技のエミリー・ブリッジ選手(21)は、国際自転車競技連合(UCI)から女子部門での出場を認められなかった。

一方でスポーツはもっと包括的であるべきだと主張する人もいる。LGBT+の慈善団体ストーンウォールはジョンソン首相の発言について、「トランス女子は、ほかの人々と同様にスポーツの利益を享受する機会を持つべきだ。トランスジェンダーの人々を一括で除外するのは根本的に不公平だ」と述べている。

BBCによると、国際オリンピック委員会(IOC)が昨年11月に改訂した最新のガイダンスでは、トランスジェンダーの選手が女子競技で不公平な優位性を持つと「自動的に推測」するべきではないとしている。

また、陸上競技や重量挙げ、体操、水泳といったオリンピック競技については、それぞれがトランスジェンダー選手についてのルールを定めるよう推奨している。

陸上競技の国際団体「ワールドアスレティックス」は、テストステロン(男性ホルモン)の血中濃度を1リットル当たり5ナノモールに設定している。イングランドのラグビー・フットボール連盟も、一定のテストステロン値であることを条件に、トランス女性の出場を認めている。先の東京オリンピックでは、陸上女子の一部種目でテストステロン値を基準に参加資格を制限し、オーバーした場合はトランスに限らず女子選手として出場できないという新ルールを導入した。

しかし2022年1月、38人の医療専門家がテストステロン値抑制をめぐる方針に疑問を投げかけた。トランスジェンダーの選手に関しては、急速に展開している新しい問題のため、引き続き議論が続くとみられる。

トランスジェンダーとシスジェンダー

2021年、生まれつきの身体的な性別よりも心理的な性自認の方が「社会的に重要」であるという考え方にかねてから疑問を投げかけていた、サセックス大学で哲学を教えるキャサリン・ストック教授が辞職を余儀なくされる事件があった。トランスジェンダー支持の活動家の学生たちから「トランスフォビア」と非難され、同教授の解任を求める運動が展開。教授は一時、殺人予告すらも受けていたという。

ストック教授は、トランス女性が更衣室などの女性専用施設を利用したり、女性専用のスポーツ・チームに参加したりすることを認めるべきという考えにも疑問を呈していた。これに同意見の「ハリー・ポッター」シリーズの作者、J・K・ローリング氏は同教授を支持するツイートをし、同氏もまた批判された。

トランスジェンダーは、出生時の身体的性別と性自認が同じであるシスジェンダーと同じ権利が欲しいと訴えているが、トランスジェンダーで女性を自認する人の権利行使が、生まれつき女性の人の権利を侵食する場合もあると懸念する人たちもいる。こうしたトランス女性をめぐる発言がこれまで何度も議論の的になっており、問題はフェミニズムの領域にも達している。

だがこうした問題は、トランス男性には起きていないのはどうしてだろうか。体が女性であるトランスジェンダーの男性は、生まれつき男性であるシスジェンダーから性的暴力の被害を受けることが多いと聞く。トランス男性が更衣室などの男性専用施設を利用したり、男性専用のスポーツ・チームに参加したりすることは可能なのかということは、話題にされていないようだ。

こうしてみるとトランスジェンダーの問題は、そのまま男女、シスジェンダーの問題でもある。男女の性差を抜きに、トランスジェンダー問題だけを解決することは難しいだろう。英国では2004年に、法的に性を変更できる「性認識法」が制定された。数年前には医療診断なしに個人が性別を変更できるよう改正の動きがあったものの、政府は20年に改正案を却下している。

EVENT

Pride in London
セクシャル・マイノリティーであるLGBT+の社会的地位向上を目指す毎年恒例の大規模なパレード。ハイド・パーク・コーナーを12:00に出発後、グリーン・パーク、ピカデリー・サーカス、トラファルガー広場などを経由し、ホワイトホールへ進む。有料席のグランドスタンド・シートも用意されるほか、トラファルガー広場やレスター広場などには特設ステージやストールが設置される。

2023年7月1日(土)
Grandstand Seat £60
ロンドン中心部、Oxford Circus / Piccadilly Circus駅など
www.prideinlondon.org

20世紀後半から現在に至るまでの同性愛者をめぐる時代の変遷

Source: The Guardian, etc

1957年 ウォルフェンデン委員会が軍人以外の21歳以上で合意ある成人同士の同性愛行為を非犯罪化するよう提言
1967年 第三者がいると思われる場所を除き、同性愛行為が非犯罪化。性的同意年齢は21歳(異性愛及びレズビアンは16歳)
1969年6月 米NYでストーンウォール反乱。ゲイ解放戦線(GLF)がニューヨークで設立
1970年 ロンドン・ゲイ解放戦線(ロンドンGLF)が設立
1972年7月 プライド・パレードの第1回がロンドンで開催
1980年 スコットランドで同性愛行為が非犯罪化(条件は1967年と同様)
1982年 欧州人権裁判所の判断に基づき、北アイルランドでも同性愛行為が非犯罪化
1994年 同性愛の男性の性的同意年齢が18歳に
2000年1月 同性愛者の軍隊勤務を禁じる規則が廃止
2001年1月 上院における3回にわたる否決ののち、労働党政権が同性愛の男性の性的同意年齢を16歳に引き下げ
2004年 性認識法が制定され、性同一性に違和感を持つ人は法的な性を変更可能に
2005年12月5日 同性愛カップルに結婚とほぼ同等の権利を与える2004年シビル・パートナーシップ法が施行
2005年12月30日 同性愛カップルが養子を迎え、共同親権を持つことが可能に
2009年9月10日 ブラウン首相(当時)が同性愛者だった数学者のアラン・チューリングに対して、刑務所への収監と引き換えにホルモン療法を施したことを正式に謝罪
2013年12月 エリザベス女王がアラン・チューリングに死後恩赦を与える
2014年3月29日 イングランドおよびウェールズで同性間の結婚が可能になる2013年結婚(同性カップル)法が施行
2014年12月16日 スコットランドで同性間の結婚が可能になる2014年結婚およびシビル・パートナーシップ(スコットランド)法が施行
2017年1月31日 イングランドおよびウェールズにおいて、過去に同性愛行為で有罪になり亡くなった人々が放免に。また、有罪となり生存している人たちは、内務省に届け出ることで記録が抹消されるされる通称「アラン・チューリング法」が制定

パレード当日の様子

公共施設や企業も参加しイベントを盛り上げる

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

パレード当日の様子

 

宮崎百合子さんインタビュー

プロ・テニス選手

宮崎百合子さんインタビュー次の目標は世界のトップ100入り

2020年にコラム「人生の三角波」に登場したとき、テニス・プレーヤーの宮崎百合子(リリー)さんはその前年プロに転向したばかりだった。当時ウィンブルドン選手権出場を目標としていたリリーさんに、2022年のウィンブルドン予選出場権を勝ち取るまでや、次に目指すことなどについて語っていただいた。

英国選手として出場する宮崎百合子選手英国選手として出場する宮崎百合子選手

Yuriko Lily Miyazaki

プロ・テニス選手。1995年東京生まれ。身長168センチ。右利き。幼い時にスイスに移住、そこでテニスに目覚める。東京、ロンドンなどに滞在後、テニス奨学金プログラムにて米オクラホマ大学へ留学。2019年に同大学の大学院を卒業後プロに転向。今年2月WTA リヨンにてシングルス予選を突破し本戦デビュー。WTAシングルス最高199位(2022年3月7日付)、ダブルス最高227位(2022年5月9日付)。趣味は読書、音楽鑑賞、ピアノ、ゴルフ。

2020年の時点で、リリーさんは「ウィンブルドン予選は世界ランキング200位以内じゃないと出られないので、2年以内にこの目標にたどり着きたい」と目標を設定されていました。このたびその宣言通り初出場が決定しました。おめでとうございます。コロナ禍もあり大変だったと思いますが、この2年間の活動について教えていただけますか。

ロックダウン中は3カ月間コートでの練習ができず、Zoomでトレーナーの指導を受けながら、自宅でフィットネスだけ続けていました。その後も試合数が限られていた上、英国からの入国を規制していた国が多かったため、各国のルールに従っての遠征でとても気を使いました。例えば、英国からの入国を認めなかったフランスの試合に出るために、エジプトで2週間試合をこなしてからフランスに向かうなど、あの手この手でルートを模索しました。

ワクチンは遠征先の米国で接種し、PCR検査も数え切れないほど受けました。今年1月の全豪オープン予選が初めてのグランドスラム*でしたが、出国前検査で陽性反応が出てしまい、出発が遅れて練習できないまま試合にのぞみ、力を発揮できなかったという苦い経験もしました。コロナ禍により、世の中の全ての状況を受け入れてベストな対応をすることは、試合中の精神力にも通じると学びました。

日本国籍のまま英国の選手として出場されると聞きました。そのことについてお話いただけますか。

LTA(英国テニス協会)からは、ジュニアのころから英国籍になることを勧められていましたが、日本では重国籍を認められないことからちゅうちょしていました。今回LTAは日本の法律を考慮し、国籍は変えずにテニスに限り英国所属にするという特例をITF(世界テニス協会)に申請し、それが認可されたというわけです。これにより、英国選手としてLTAからのサポートを受け、プロフェッショナルな環境でのトレーニングが可能となったので、とても感謝しています。英国人コーチやプレーヤー仲間も温かく迎えてくれて、うれしく思っています。

ウィンブルドン予選への意気込みを教えてください。

ウィンブルドン出場は子どものころからの夢なので、本戦に近付けるように頑張ります。

ウィンブルドン出場の夢は叶えましたが、次の目標は何でしょうか。

グランドスラム本戦入りを目標に、世界のトップ100を目指します。

最後に、英国在住の日本人読者に向けてメッセージをお願いいたします。

英国所属としてプレーする道を選択しましたが、このチャンスを最大限に生かしてさらに努力を続けることが、日本の皆さまへの誠意であると思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

The Championships, Wimbledon(ウィンブルドン選手権)

2024年7月1日(月)~7月14日(日)
£20~275 チケットはオンラインで販売中
The All England Lawn Tennis Club
Church Road, Wimbledon, London SW19 5AE
Tel: 020 8971 2473
Southfields駅
www.wimbledon.com

 

英国オカルトの系譜

ヴィクトリア時代に開花した英国オカルトの系譜

死の訪れ。ディケンズの処女作「ボズのスケッチ集」から死の訪れ。ディケンズの処女作「ボズのスケッチ集」から

ヴィクトリア時代は産業や科学が発達し合理性が重んじられた一方で、庶民は依然として民間伝承や迷信を信じ、また文化人たちも超自然主義に心惹かれ、降霊会や睡眠術といったものに真剣に向き合った。5月26日はアイルランド人作家ブラム・ストーカーの怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」が刊行され125年にあたる。これを機に、今回は当時英国で流行していたオカルト思想と、その根底に流れるゴシックの系譜を紹介していこう。 (文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: The Hellbore Guide to Occult Britain and Northern Ireland、https://time.com、「英語世界の俗信・迷信」大修館書店、www.bramstoker.org ほか

ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」

Abraham ‘Bram’ Stoker(1845~1912年)Abraham ‘Bram’ Stoker(1845~1912年)

ストーカーの怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」(原題:The Dracula)は、1897年に発表され大ヒットしたが、出版社のアーチボルド・コンスタブル& カンパニー(Archibald Constable&Company)はストーカーが当初執筆したものから、前半部分を中心に101ページも削除して出版した。この理由としては、ストーカーが物語の中に実在の人物を入れ込み、フィクションとノンフィクションの境を曖昧にしたことから、読者が「吸血鬼ドラキュラ」を実際にあった話だと思い込むのを避けるためだったという。

ヴィクトリア時代の後期には国外から都市部に移民が流れ込み、移民街の拡大が犯罪率の増加原因だと考えられていた。1888~91年にロンドン東部で起きた切り裂きジャックによる連続通り魔殺人事件では、犯人捜しの際に真っ先にユダヤ人コミュニティーが疑われ、メディアや市民たちはヒステリックに反応。こうした例から、東欧からの移民増加が社会問題として扱われている時期に、ルーマニアからやってきた吸血鬼が英国で夜な夜な人々の血を吸うような物語はよろしくないと判断され、当時を思わせるリアルな箇所が削除されたといわれている。

「吸血鬼ドラキュラ」の初版本「吸血鬼ドラキュラ」の初版本

いろいろあるオカルトのジャンル

「オカルト」とはラテン語で「隠されたもの」を意味するoccultaから来る。転じて、目では見えないものを指すが、英国で初めてこの言葉が使われたのは1881年。思えば、心霊学、魔術、妖精、民間信仰など、英国にはこの国が本場だったのかと気付かされるオカルトのジャンルが数多くある。中世から綿々と地下の水脈のように続いてきたそうしたオカルトが、一気に花開いたのがヴィクトリア時代だ。ここではその代表的なものを挙げてみよう。

Horror1. 定着した吸血鬼のイメージ

観光客も訪れる廃墟、ウィットビー修道院観光客も訪れる廃墟、ウィットビー修道院

吸血鬼=ドラキュラのイメージを定着させたのはブラム・ストーカーだが、吸血鬼の伝説は欧州各地で昔から見られた。吸血鬼は生命の源でもある血を養分とすることで、永遠の命を持つ。だがその姿は女性や老人、動物などであったりとさまざまだった。ドラキュラ誕生において最もよく知られているのは、ストーカーが1890年に英北部の港町ウィットビー(Whitby)に長期滞在中、町の図書館で偶然「ドラキュラ」(Dracula)という名前に出会った逸話だろう。ストーカーはある本から、15世紀のルーマニア南部に実在したドラキュラ(ドラゴンの息子)と呼ばれる君主ヴラド3世の存在を知る。残虐な振る舞いから「串刺し王」の異名もあったというこの君主をモデルに、ストーカーは吸血鬼ドラキュラの構想を練ったといわれている。

聖メアリー教会の敷地内に並ぶ墓石群聖メアリー教会の敷地内に並ぶ墓石群

またストーカーは、聖メアリー教会、廃墟となっていたウィットビー修道院など、北海や切り立つ壁に囲まれた寒々しいウィットビーの風景にもインスピレーションを得た。なお、ウィットビーではドラキュラの誕生地であることを祝い、1994年から毎年2回、ウィットビー修道院でウィットビー・ゴス・ウィークエンドという音楽フェスティバルが開催されている。

Spirit and Ghost2. コナン・ドイルとスピリチュアリズム

「シャーロック・ホームズ」シリーズで知られるアーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle 1859~1930年)は、心霊術を信じ、降霊会に参加したり英国スピリチュアリスト協会(SAGB)に入会したりと、スピリチュアリズム(心霊主義)とは深い関係があった。ドイルと心霊主義の最初の出会いは1880年。英中部バーミンガムで行われた「死は全ての終わりか」という、心霊主義に関する講演を聞いたことに始まる。当時20歳だったドイルは講演内容に不信感をもったものの、しかしやがて一定数の科学者が心霊術を認めていることを知り、自らテレパシーの実験を開始するに至った。ヴィクトリア時代は、科学者や文化人が、心霊現象は科学的に説明できることなのかを真摯に研究した時代でもあったのだ。

霊が写り込んだコナン・ドイルの肖像写真霊が写り込んだコナン・ドイルの肖像写真

この時代英国では霊媒師やヒーラーが続々と出現し始め、スピリチュアリスト・チャーチが数多く建てられ、霊媒師のデモンストレーションなどが定期的に行われるようになっていた。やがて霊的な活動を行うグループや組織が各地で結成されていき、降霊会などを通してスピリチュアリズムを普及させていった。なかでも1872年に創設されたSAGBは、現在もロンドン中心部メイフェアで活動しており、霊視をはじめ、ヒーリング、瞑想、前世療法、催眠療法などさまざまなセッションが実施されている。

Secret Society and Tarot3. 秘密結社「黄金の夜明け団」

ウェイト版タロットの「運命の輪」ウェイト版タロットの「運命の輪」

黄金の夜明け団(Hermetic Order of the Golden Dawn)は1887年にウィリアム・ウィン・ウェストコット、マグレガー・メイザース、ウィリアム・ロバート・ウッドマンの3人のフリーメイソン・メンバーによって創設されたオカルト的秘密結社。ユダヤ教の神秘主義思想カバラを中心とする西洋秘儀を重視し、近代西洋魔術の思想、教義、儀式、実践作法の源流になった。「黄金の暁教団」や「ゴールデン・ドーン」などとも呼ばれる。詩人のW・B・イェーツをはじめ、小説家のアーサー・マッケンやアルジャノン・ブラックウッド、詩人ウィリアム・シャープ、物理学者ウィリアム・クルックス、オスカー・ワイルド夫人のコンスタンスなど著名な知識人たちが参加した。メンバーのアーサー・エドワード・ウェイトは、黄金の夜明け団の教義に基づいたタロット・カードを作成したが、これはウェイト版タロットの名で、現在最も普及しているタロット・カードだ。

教団の衣装を着たアレイスター・クローリー教団の衣装を着たアレイスター・クローリー

また、1898年にはケンブリッジ大学に在学中だった若きオカルティスト、アレイスター・クローリーも入団。1900年に黄金の夜明け団が分裂した後は、自身の魔術結社「銀の星」(A∴A∴)や「東方聖堂騎士団」(OTO)の英国支部を開設した。クローリーはスキャンダラスな異端の人として名を残したが、トート・タロットの作成者としても知られている。ウェイト版とは若干解釈が異なるものの、現在でもタロット愛好者からの評価は高い。

Fairly4. コティングリー妖精事件

ジョン・アトキンソン・グリムショーによる妖精ジョン・アトキンソン・グリムショーによる妖精

妖精とは欧州、特に英国の伝承に登場する自然の精霊のこと。人間の形だけでなく、動物や昆虫の形をしているものがおり、いたずら好きで人間に害を与えることもある。一方で、キリスト教において妖精は天使の一種であるともされており、人間と神の中間的な存在といわれている。19世紀にはジョン・アトキンソン・グリムショーなど多くの妖精画を描く画家が輩出した。

フランシス・グリフィスと遊ぶ妖精たちの偽写真フランシス・グリフィスと遊ぶ妖精たちの偽写真

1920年、エルシー・ライト(16)といとこのフランシス・グリフィス(9)という二人の少女が妖精の姿をカメラに収めたというニュースで、英国では妖精の実在にまつわる大論争が巻き起こった。エルシーが撮影した写真には、踊る妖精や楽しそうに遊ぶ妖精の姿が映っていた。心霊主義を信じるコナン・ドイルは専門家とその写真を調べ、偽物の可能性はないと太鼓判を押し雑誌に発表。新聞や雑誌などのメディアが注目し、写真が撮られた英北部ヨークシャーの村、コティングリー(Cottingley)に多くの人々が押し寄せた。しかし半世紀近く経った1966年に、「デーリー・エクスプレス」紙上でエルシーがそれらが偽造写真であることを告白。妖精の絵を描き、それを切り抜いて写真に撮ったものだったと語った。しかし後年、5枚のうちの1枚は本物だとするなど、長い妖精論争はいまだに決着が付いていない。

Science Fiction5. 透明人間の誕生

「透明人間」初版本「透明人間」初版本

近代SF小説の始まりはフランスのジュール・ヴェルヌによる「月世界旅行」といわれているが、英国ではその30年後にあたる1895年にH・G・ウェルズが「タイムマシン」を発表した。ヴェルヌ作品が当時の最新科学を礼賛したもので、科学小説の趣を呈していたのに比べ、ウェルズは将来の世界を冒険ファンタジーとして捉え、現代SFの特徴ともいえるユートピアやアンチ・ユートピアを描き出したと評価されている。

そのウェルズがストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」と同じ1897年に発表したのが「透明人間」(The Invisible Man)だ。物質が透明になる薬を発明し有頂天になった科学者が、その薬を飲むことで自らの体を透明にする。さまざまないたずらや悪事を働き楽しんでいたものの元に戻る方法が見つからないというストーリーで、科学は魔術を超えると思い込み、科学こそが全てにおいて万能だと信じていた人間の末路を描いたダークな作品だ。その後ウェルズは、科学というおもちゃをもて遊んだことで人類が滅亡へと向かう「宇宙戦争」(The War of the Worlds)や原爆を予見した「解放された世界」(The World Set Free)などを発表し、空想の世界を描きながら文明批評をするという道を選んだ。

Neo-Paganism6. 民間信仰で残る古代宗教

今も行われる春を祝う植物神「グリーンマン」の祭典今も行われる春を祝う植物神「グリーンマン」の祭典

ヴィクトリア時代の後期は、昔ならオカルト現象としか考えられなかったことがらが、電信、写真、映画の発明で次々と具現化し、科学と魔術の境が不確かになった時期。科学と魔術が肩を並べ、その影響で古代ケルト族が信仰したドルイド教などから派生した民間信仰にも改めて光が当たった。ドルイド教では木に精霊が宿っていると考え、いけにえを捧げ占いを行うなどしていたが、これが行き過ぎた科学を嫌う自然崇拝者たちに再発見された。やがて自然を基盤に精神世界を取り戻そうというネオ・ペイガニズムや、欧州古代の多神教的信仰、特に女神崇拝を復活させた新宗教ウィッカ(Wicca)などにも発展した。

木でできた巨大な人型の檻の中に、生贄に捧げる家畜や人間を閉じ込めて焼き殺す「ウィッカーマン」の儀式の図木でできた巨大な人型の檻の中に、生贄に捧げる家畜や人間を閉じ込めて焼き殺す「ウィッカーマン」の儀式の図

 
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