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Tue, 03 December 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 94

シムネル・ケーキ
Simnel Cake

Simnel Cake

日本の母の日は5月の第2日曜と決まっていますが、今年の英国の母の日は3月31日でした。というのも、この国で「マザーリング・サンデー」とも呼ばれる母の日は、イースターの3週間前の日曜がその日にあたるからです。イースターは春分の日の後、満月になった次の日曜日とされているので、毎年その日が変わります。そのため、母の日も毎年日にちが違うのです。

「シムネル・ケーキ」はそのマザーリング・サンデーに深く関係しているという説が有力です。というのも、かつて、上流階級のお屋敷に奉公に出ていた娘たちが、イースター前に家族そろって教会へ礼拝に出かける日(マザーリング・サンデー)に休暇を許され、実家へ帰る際にこのケーキを焼いて持って帰ったというのです。それをお母さんたちは大切にとっておき、イースターの期間に食べたのだそうです。それが「シムネル・ケーキ=イースターのお菓子」というイメージにつながって、イースターの近いこの時期、スーパーでも売られているのです。

このケーキでまず目を引くのが、上にぽこぽこと乗った小さな玉ではないでしょうか。ケーキの表面を覆っているのと同じマジパンで作られたこの飾りは、普通11個あります。これはキリストの12人の使徒から裏切者のユダを除いたため、この数になったと言われています。スポンジ部分はドライ・フルーツがどっさりと入った英国お得意のどっしり系。スポンジの間にも薄いマジパンの層を挟んで焼いてあります。

私がこのケーキを手作りしたのは今回が初めてでした。キッチンでマジパンを麺棒で伸ばし、ケーキの上にかぶせていたとき、それを見た夫が「シムネル・ケーキ? 懐かしいなぁ。おばあちゃんが作ってくれたのには、上にいつもチョコレート・エッグが載っていて、それを食べるのがうれしかったんだ」と、幼い頃の思い出をうれしそうに話してくれました。確かに子供にはマジパンで作ったボールより、卵型をした小さなチョコレートの方が喜ばれそうです。

でも、マジパン・ボールをつまんで口に入れると、アーモンドの爽やかな香りが鼻に抜け、食べ心地はまるで練り切りのよう。春にふさわしい黄色に着色されたマジパンの風味が、このケーキのおいしさを引き立てていることは間違いありません。あまりにおいしいので、2度目に作ったときにはわざとこのボールを大きめに作ってしまいました。

そうそう、名前の「シムネル」についてですが、ラテン語の「simila」から来ていると言われ、小麦粉という意味だそうです。

日本の母の日にはまだ1カ月ありますが、私はいつもカードは英国の母の日に合わせて買っておき、1週間前になったら投函します。今年はカードとは別に、手作りのシムネル・ケーキも送ろうかと考えています。

シムネル・ケーキの作り方(直径20センチの丸型1個分)

材料

  • 小麦粉 ... 225g
  • バター(室温に戻したもの) ... 225g
  • ブラウン・シュガー ... 200g
  • 卵 ... 4個
  • ミックス・ドライ・フルーツ ... 350g
  • ドレーン・チェリー ... 50g
  • レモンの皮のすりおろし ... 2個分
  • 製菓用ミックス・スパイス ... 小さじ2
  • マジパン(市販のもの/黄色) ... 500g
  • アプリコット・ジャム ... 大さじ2
  • 水 ... 適量

作り方

  1. ボウルにバターとブラウン・シュガーを入れて、ハンド・ミキサーで軟らかくなるまでかき混ぜ、溶き卵を加えてよく混ぜる。
  2. ❶に小麦粉、レモンの皮のすりおろし、ミックス・スパイスを入れ、よく混ぜる。
  3. ❷にドライ・フルーツと刻んだドレーン・チェリーを混ぜる。
  4. ❸の半分をベーキング・シートを敷いた型に入れる。
  5. マジパン130グラム分を麺棒を使ってケーキ型の大きさに伸ばし、❹の上にかぶせる。
  6. ❺の上に❸の残りを入れ、150℃に予熱したオーブンで2時間ほど焼く(途中、上面がよく焼けていたら、焦げないようにアルミホイルをかぶせる)。
  7. 焼き上がったら網の上で冷ます。
  8. アプリコット・ジャムを少量の水で溶き、電子レンジで温めたものを❼の上面に塗り、マジパン150グラム分を伸ばしたものを載せる。
  9. 残りのマジパンで11個の玉を作り、アプリコット・ジャムをつけてケーキ上面に並べる。
  10. ❾をグリルで5分程度焼いて出来上がり。
 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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