ナショナル・ローフ
National Loaf
11月11日は「リメンバランス・デー」でした。戦没者を追悼する日として、英国では毎年式典が開催されます。今年は第一次大戦終戦から100年ということで、例年にも増して、各地で盛大に記念行事が行われました。(リメンバランス・デーについては、以前「ニュース・ダイジェスト1324号」にて詳しく紹介されています)。
戦没者追悼の象徴である赤いポピーが街中に飾られていたその時期、「近所のカフェで『戦時中の料理』というイベントがあるから行ってみない?」と友人に誘われ、出掛けてみることにしました。
コーヒーの香りが充満する店内に入ると、70~80代と思われる方々の集まっているテーブルがありました。「もしかしてこの人たちも、今日のイベントにやって来たのかしら?」と思いながら、店員さんに「戦時中の食べ物というのはどれですか?」と尋ねました。ところが、店の黒板に「今日のイベント」として「Wartime Cookery」と書かれているのにもかかわらず、彼女はそんなイベントについては知らない、と言います。そこで、午後から店にやって来るはずの店長に電話で聞いてくれたところ、分かったのは、店長が「ナショナル・ローフ」というパンを焼いてくること。そして、それを試食させてもらえる、ということでした。
ナショナル・ローフとは、第二次大戦中の1942年、政府によって製造を強制されたパンのこと。それまでの白い食パンに代わり、小麦の外皮さえも含めた全粒粉で作られた茶色いパンで、栄養価を考えて生地にはビタミンやカルシウムが加えられていました。ベーカリーではナショナル・ローフ以外のパンを作ることが禁止され、人々は、この茶色でキメが粗くてぼそぼそするパンしか食べることができなくなったのです。
開戦当時、英国は70%の穀物を船で輸入していましたが、戦争が進むに従い、当然のことながら外国からの食糧の供給は難しくなりました。英国は第二次大戦の戦勝国ですが、実は1940年から食料の配給制度が始まっています。最後の品目だった肉の配給制が解かれたのは1954年7月。なんと戦争が終わった後、約9年間も配給制度が続いていたのです。
食パンは、英国民の主食ともいえるもの。小麦を余すことなく使い切るナショナル・ローフによって、政府はできる限りパンの供給を確保しようとしましたが、結局、戦後1946年の7月に配給制になったといいます。
さて、件のカフェでは、店長さんが焼き立てのナショナル・ローフをトーストしてテーブルに持って来てくれました。一口食べてみると……「おいしい」。それもそのはず、レシピを聞けば、全粒粉の食パンそのもので、違いは砂糖の代わりにハチミツを使っていることくらい。
もちろん当時はもっと雑味のあるものだったのでしょうが、ヘルシー志向から全粒粉のパンを好む人も多い現代では、毎日これでも良い、という人もいるかもしれません。
ナショナル・ローフの作り方
(1.5リットルサイズのローフ型2個分)
材料
- 全粒粉ブレッド・フラワー(強力粉) ... 680g
- ドライ・イースト ... 大さじ1.5
- 塩 ... 大さじ1.5
- ハチミツ ... 大さじ1
- ぬるま湯 ... 450ml
- オリーブ・オイル ... 少々
作り方
- オリーブ・オイル以外のすべての材料をボウルに入れて、生地が柔らかくなめらかになるまで10分ほど手でこねる(フード・プロセッサー使用可能)。
- オリーブ・オイルを塗ったボウルに、丸めた生地を入れて、上から濡れたティー・タオルをかぶせて、温かいところに置き、1~2時間ほど発酵させる。
- ❷が倍程度の大きさに膨らんだら、生地を押してガス抜きをし、2等分して丸め、2つのローフ型にそれぞれ入れる。
- ❸を再び温かいところに置いて1~2時間ほど二次発酵させる。
- 200℃に予熱したオーブンで30~40分焼く。食パンの表面が濃いキツネ色になったら焼き上がり。
memo
第一次大戦時では、英国は1918年1月に配給制度を開始しましたが、食パンは配給制にはならなかったそうです。ただし、米やジャガイモ、ライ麦などをパンに混ぜて小麦不足を補っていました。