クランペット
Crumpets
「え、トランペット?」「違うわよ、クランペットっていうの(笑)。『メアリー・ポピンズ』にもでてきたでしょう?」
英国生活にもようやく慣れてきたころ、色々な食べ物を試してみたくて、スーパーの売り場で自分にとって珍しいものを買ってくるのが日々の楽しみになっていました。
その日はベーカリー・コーナーで見つけた穴ぼこだらけの丸い「パンらしき」ものを買って帰り、さっそく下宿先で口にしたら……「% ?×*!?」。ぐちゃぐちゃとした食感でほとんど味がなく、そのおいしくなさに「捨てようかどうしようか」とキッチンで立ち尽くしていました。そんなところにちょうどランドレディーのルースがやって来て、件の会話となったわけです。
「これ、あんまり好きじゃないかも」と遠慮がちに言う私に、ルースは笑いながら「生のままではなくて、トーストして食べるのよ」と教えてくれました。言われるままにデュアリット社の4枚焼き用トースターの一番右端のスリットにクランペットを入れ、3分ほど待ちました。
焼き上がったクランペットにたっぷりバターを塗って口に入れると……さきほどの「ぐちゃぐちゃ」の歯触りから一転。外はかりっと香ばしく、中はもちもちとして、その上、穴ぼこ部分にバターがしっかりしみ込んでいて、おいしい! 以来、クランペットは私のお気に入りとなりました。
クランペットの名前については、ウェールズ語でパンケーキを意味する「crempog」またはブルトン語でそば粉のパンケーキを意味する「krampoch」からきているという説があるそうです。英国の料理書では、1769年に発行されたエリザベス・ラフォルドの「The Experienced English Housekeeper」でレシピが紹介されたのが初めてだと言われています。
名前が「パンケーキ」からきているとはいえ、イーストが使われているのが普通のパンケーキと大きく違うところ。また、表面にあるたくさんの穴ぼこも、このスナックの特徴です。20世紀に活躍した著名なフード・ライターで料理研究家でもあったエリザベス・デービッドの著書「Bread and Yeast Cookery」の中には、この穴ぼこを「蜂の巣か迷路のような」と表現した料理書のことが紹介されています。
ところでここで告白すると、私がクランペットを手作りしたのは今回が初めてでした。材料はシンプルで、パン作りに比べてこねる必要がない分、生地作りは簡単なのです。ただ、実際に作ってみると、思ったより手間がかかります。というのも、片面がきつね色に焼けた後、ひっくり返す前にクランペット用の型から外す、という作業があるため。4回目に作ったときの最後には、型を使わずにフリー・スタイルで焼く「パイクレット」風にしてしまいました。紙幅が尽きたのでパイクレットの説明についてはいつかまた改めて。
クランペット(約20個分)
材料
- 小麦粉 ... 450g
- インスタント(ドライ)・イースト ... 14g
- 砂糖 ... 小さじ1
- 塩 ... 少々
- 重曹 ... 小さじ1/2
- 牛乳(ぬるめに温める) ... 350ml
- 水 ... 350ml
- サラダ油(またはバター) ... 適量
作り方
- ボウルに小麦粉、砂糖、イーストを入れる。
- 牛乳と水を混ぜたものを❶に加えてよくかき混ぜる。
- ❷のボウルにラップをして室温で2時間発酵させる(約2倍に膨らむ程度)。
- 塩と重曹を❸に混ぜ、20分くらい休ませる。
- クランペット用の丸い型に油を塗り、薄く油をひいたフライパンに載せる。
- 型の半分くらいまで生地を入れ、弱火で6〜8分程度焼く。
- 表面に穴がたくさん空いて、下面が焼けたようなら型から外す。
- ひっくり返してさらに2〜3分焼いて出来上がり。バター以外にもジャムやハチミツなど、好みのものを合わせて召し上がれ。
memo
クランペットは、セクシーな女性(性的対象の女性)といった意味のスラングで使われることもあるのですが、最近では女性のみならず男性に対しても用いられるそうです。