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大きなお世話! 患者をドン引きさせる質問の意図
皆さんが患者としてへんとうの摘出手術を受けることになり、NHS病院に行ったとしましょう。手術前の問診の最中に「Are you sexually active?」(性生活はありますか?)と聞かれたら、どのように返答しますか。NHSの病院には「余計なお世話だ、放っておいてくれ」と思いたくなるような質問が問診に含まれています。なぜNHS病院の問診では患者をドン引きさせるような質問をするのでしょう。今回はそんな疑問について書いていきます。
NHSの病院で手術を受ける場合は、ほとんどのケースで患者さんは「術前検査」(Pre-op Assessment)と呼ばれる検査クリニックで、安全に手術を受けるための問診や検査を受けます。ここでは医療的な問題はもちろん、患者さんの身体的、精神的、社会的、さらには文化や宗教のニーズをあらかじめ把握して、可能な限りそれに応えるためのコーディネーター的な役割も果たしています。
手術後に退院して安全に療養ができる家庭環境が整っているのか、例えば肩の手術を受ける高齢患者さんが一人暮らしで、術後しばらくは食事の支度や身の回りの世話が難しくなる場合などに対し、適切なサポートを手配し、患者さんが自宅で今まで通りの生活ができるための支援をしていきます。
手術によっては外見が著しく変化し、社会生活を営む上で患者さんの精神的な問題も出てきます。がんの治療で髪の毛が抜け落ちてしまう患者さんにウィッグを手配する例はよく知られているかと思いますが、このような患者さんの総合的な側面をサポートすることがNHSの根本的な考えなのです。
ただし患者さんのニーズを理解するためには、根掘り葉掘りプライベートに至るまで細かい質問をすることになります。例えば家が一軒家かテラスか、1階建てか2階建て以上か、持ち家か公営住宅かは多くの病院で聞かれる質問かと思います。下半身の整形手術を受けた患者さんや歩行機能が衰えている高齢の患者さんにとって、寝室が1階か2階かは大きな問題となります。NHSの公的資金でお風呂場や階段に手すりを付けることもあるのですが、そのために持ち家か公営住宅かを把握しておく必要があるのです。
また手術後の身体的な変化に関しての項目では冒頭に挙げられた性生活の面も当てはまります。人間の日常生活の一部として必要な質問として考えられているからです。ただ、帝王切開をした患者さんなど、手術の種類によっては本当に必要な質問でしょうが、手術の部位を問わずに患者全員に「性生活はありますか」を必須質問とする病院も意外とあります。
私は高齢者ホームでの実習経験がありますが、 宿泊施設では性生活の有無はほぼ聞かれる質問です。でも一泊二日で退院する耳鼻科や歯科、眼科の患者さんにこの質問をして快く返答をしてもらった記憶は私にはありません。大抵は「自分で対処できる、放っておいてくれ」と不快な反応をされますが、私が患者でも同じような反応をするでしょう。もし皆さんがNHS病院でこのような問診を受けた時には一言「I'm fine」といえばPre-op Assessmentの看護師もOKと言ってその話題を終えてくれます。ありがた迷惑な点もありますが、うまく対応できれば特に問題はないかもしれません。