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歴史的な英看護師によるストライキの行方
英国中の病院から看護師が消える――そんな日が皆さんは想像できますか? 英国では現在、史上初となる公式の大規模な看護師のストライキ決行に向けて着々と手続きが進められています。今回はついに立ち上がった看護師たちがストライキを呼び掛けたその背景について書いてみたいと思います。
高いインフレ率と物価上昇が続き、賃金改善を求める労働者の声は日増しに大きくなっています。夏から鉄道、郵便局による大規模なストライキがいくつも起こりました。
英看護師の低賃金が問題化し始めたのは2011年のリーマンショックの不況が残るころでした。当時NHS看護師の賃上げは2年間凍結、さらにその後も賃上げは2017年まで毎年1パーセントにとどまりました。これは英国の物価上昇率に全く追いついていない割合で、年数が経つほど看護師の低賃金化が浮き彫りになりました。同時に看護師不足が加速していき、配置基準以下の人数での勤務が多数の病院で横行するようになりました。この間、何度も待遇改善を求めてストライキの呼び掛けが行われましたが、組合側や有識者たちは国との対話を続けてきました。
このような状態で過酷なコロナ医療が始まります。懸命に働いてきた看護師たちに対して国からの回答は「コロナ危険手当はイングランドは支給なし、2022年度は3パーセントの賃上げ」でした。もともと低賃金に3パーセントを賃上げされても、約10パーセントといわれるインフレ率を考えれば生活は苦しくなる一方です。ガソリン代が高騰しても訪問看護師や保健師など、車で患者宅を訪問する地域医療者のガソリン代は改善されず、スタッフが自腹を切って患者訪問をしています。
その後も看護師不足はさらに加速していきます。英国で看護師として仕事をする場合には看護助産審議会(NMC)への登録が義務付けられているのですが、昨年NMCから自ら登録を解除して看護師を退職した人のうち、60パーセントが45歳以下でした。これまで登録を解除する大多数は、高齢による引退が主な理由でしたが、今では若い世代が看護免許を返納し始めているのです。それでも国は看護師の待遇を改善することはなく、代わりに外国人看護師の雇用に力を入れ始めました。その政策の一つが英語試験の緩和です。「今の看護師の待遇でも、自ら希望してやってくる外国人看護師は大勢いる。これ以上の看護師の待遇改善は必要ない」。これが国の回答です。この現状に見切りをつけて看護業界から去る人がいる一方、患者と看護師双方の未来を思い、立ち上がる看護師もいるのです。
ここで簡単に英公共部門のストライキについて説明してみましょう。労働組合は組合員にストライキの是非を問う投票を行うことが義務付けられています。鉄道も郵便局も組合員の投票による多数決で、ストライキ決行となりました。では看護師は? この原稿の締め切りギリギリに「ストライキ決行」の正式発表のニュースが飛び込んできました! まずは私たち看護師の要望を伝える最初の関門を突破です。看護発祥の地である英国で、看護師の歴史が今後どのように変わっていくのか、現場からその様子を見つめていきたいと思います。