第3回 「ロミオとジュリエット」の脳内イメージ(1)
15 July 2010 vol.1258
少し前、ロイヤル・バレエ団では「ロミオとジュリエット」を上演した。今シーズンは、ロミオの友人、マキューシオ役を初めて演じた。この役をざっと説明すると、彼はロミオの遠縁であり、一番の親友。何でも器用に物事をこなす、地元ではカリスマ的な存在だ。
今回、この役を指導してくれたのは、芸術監督のモニカ・メイスン。彼女は振付家ケネス・マクミランが存命のときから共にこの作品の指導をしてきている。長年自分が踊ってきたもう一人の友人役、ベンヴォーリオとステップが似ているので、彼女とのリハーサルでは主にベンヴォーリオにはない1幕のソロと2幕のデス・シーン(死ぬシーン)に時間を費やした。
初日のリハーサルで彼女から、「踊りのステップ、場所取りは教えるから、細かい演技は好きにしていい」と言われた。入団以来、「好きに演じていい」と言われたことはほぼ無く、びっくりしたのだが、自分にしかできないマキューシオをやってやろうと意思が固まった。
そこで、自分には中学、高校時代から今でも連絡を取り合っている仲間がいるのだが、その中の親友2人をロミオとベンヴォーリオに見立て、自分が過ごした10代の記憶と気持ちを大事に使わせてもらうことに。
まずロミオのイメージには、普段は大人しいが、一度何かを始めると猪突猛進の情熱家、「草間」。彼の持つ優しさと頑固さは、ロミオのイメージにぴったり。そしてベンヴォーリオには、決して自分から前へ出ることはしないが、外からやいのやいの言うのが得意で何をするにも首を突っ込んでくるエネルギッシュな男、「健」。一人では行動することを好まず、3人の中で一番子供っぽい性格というベンヴォーリオの設定も、当時の彼にそっくりなのだ。
舞台の幕開きは、モンタギュー家広場でマキューシオとベンヴォーリオがロミオを待つところから始まる。自分の中のイメージは、場所は北海道の田舎町、夜明けまで遊んでいた自分と健がいつも遅刻してくる草間を公園で面倒くさそうに待っている。
日本風なイメージで始まった自分の「ロミオ」はその後、最後まで日本の仲間と過ごすストーリーで進む。監督に稽古をつけてもらった場面でも、そのイメージが役に立った。
一幕の舞踏会でのソロ。3人がキャピレット家のパーティーに忍び込み、そこでロミオはジュリエットに恋をするのだが、キャピレット家に見付かり、他の2人がロミオを助け出す。
ステップは細かなフットワークに加え、常に体のバランスを考えながら体重移動しなければならず、スピード感を出すことに気を付けなければならない。回転技も多く含まれるので、練習中に目が回ってしまうこともよくあった。ソロの途中に入るステップは、フィギュア・スケートのそれに似ている感じがあり、ちょっとだけ気分は高橋大輔だ。
この場面のイメージは、仲間3人で他校の学園祭に忍び込み、ナンパに明け暮れた草間が他校の生徒にからまれ、自分が助けに行く。健は相手の数の多さにびびってしまい動けないので、ケンカ好きの自分が「もうしょうがないな」という感じで乗り込んで行って草間を逃がした後、ちょっと暴れていこうときっかけを作る。自分が動くことにより健が後からついてきて、散々2人で暴れた後、さっさと逃げるというものだ。
高度なソロなので、本番は緊張するかなと思っていたが、仲間がそばにいると思ったら、とても踊りやすかった。昔から世話になってきた2人だが、まさかこんなところでも助けられるとは思わなかった。国は離れていても仲間を思う気持ちを、この役を通して新たに確かめることができたのが最大の収穫だ。