第13回 幸運の鍵イエローページ
2 June 2011 vol.1303
私の人生を変えるきっかけとなった
イエローページ
一家に一冊はある(あった?)と言ってもいい、電話帳。近年、インターネットの普及で影が薄くなってしまったその本は、日本では「タウンページ」、英国や、オランダやスイスなど、私が滞在したことのある国々では「イエローページ」と呼ばれ、世界中にある、ただの電話番号をまとめたものにすぎませんが、それは昔、私にとって自分の道を切り開く一つの鍵でした。
15歳のとき、私はフランスへバレエ留学をしたいと思っていました。それも入学することが大変難しいとされる、パリ・オペラ座バレエ学校への留学を、夢見ていたのです。
ですがパリ・オペラ座のバレエ学校ではそれまで日本人を受け入れた前例がなかったため、情報はほぼ皆無。年に1回開催されるローザンヌ国際コンクール (15歳から18歳までを対象とし、入賞者には奨学金と世界の著名バレエ学校への1年間の留学資格が与えられるコンクール)で入賞しても、入学は確実ではないと言われていたので、当時のバレエの先生方からも翌年のローザンヌ国際コンクールに参加して可能性にかけてみるか、ほかのバレエ学校を選んだ方が良いのではないかというご意見をいただいていました。
ですが留学するのに1年も待てないと思った私が、どうしたら良いかと母にしつこく迫 ると、諦めがつかずにいる私に母は冗談半分で、「そんなに行きたいのなら、自分でフランス大使館にでも電話をして聞きなさい」と言ったのです。その次の瞬間、私はイエローページを開いていました。
大使館の電話番号を見つけ、早速電話をしてパリ・オペラ座バレエ学校に関する情報は何かないかと尋ねましたが、返ってきた答えは、「前例がないので、直接学校に聞いてみて下さい」というもの。どうにかして住所だけは手に入ったものの、「さて、どうやってフランス語で手紙を書こうか」と考えていたところ、以前から少し勉強をしていたNHK フランス語講座のテキストに載っていた翻訳会社の広告を思い出しました。その会社に頼んで手紙を翻訳していただき、バレエ学校へ送りますと、「6月に外国人が受けられるオーディションがあります。それに参加する資格があるかを審査するので、普段の練習風景のビデオを送ってください」との返事が戻ってきたのです。そこで叔母に踊っている様子をホーム・ビデオで撮ってもらい、それを20分程に短縮したものを急いで送りました。すると、「6月の試験には来なくていいです。9月からの入学を許可します」との返事が! もう信じられませんでした。ゼロと言うより、マイナスの可能性だったものが、いきなり可能になったことが。
それからというもの、私にとってイエローページは特別な存在。今でもバレエ団のツアーの際や旅行のときには、必ずと言って良いほど、ホテルの部屋に置いてあるその本を開かずにはいられません。開いてみるたびにこんな職業が存在しているのか、とか、こんな場所にこんな店がある、とか、色々な発見があり、私のお気に入りの本の一つです。
結構、単純な物や出来事が、幸運をもたらす秘訣だったりするのですね。