第2回 NHSで出産
「NHSで出産することにした」と言うと、何人かの在英日本人に「おお、チャレンジャーだね」と驚かれた。それほど、NHSにまつわる恐怖話が巷にあふれているのだろう。テレビや新聞でも、週に1度はNHSの資金・体制問題がヘッドラインに並ぶ。在英経験の浅い私でさえ、数多くの恐怖話を耳にし、NHSのドアを叩く前から不信感でいっぱいだった。
そもそも、初めからNHSでの出産を決めていた訳ではない。とりあえずNHSでことを進め(どうせタダだし)、どうしても心配だったらプライベートを考慮するということにしていた。結局、これまで決定的な問題が起こらなかったので、NHSでの続行に至っている。
プライベート・ケアの難点は、言うまでもなく費用(£7500~£1万!(約100〜150万円))と、病院の選択肢が極端に少ないこと。バース・センターというプライベートの助産院のような選択肢もあるが、これも費用は病院と同じくらい高い。タダか1万ポンドか……。つくづく極端な選択肢だと思う。質も平均的によく、コストも無理のない日本の3割負担医療が、実はとても居心地のよいものだったということを痛感する。
日本で出産した妹の話と比べると、やはり、NHSでの妊娠ケアは非常にアッサリしたもののよう。胎児の姿を確認できるエコーは2回のみ(日本ではほぼ毎回)、内診も体重チェックも基本的になし。診察担当者も毎回違う(妊婦自身がカルテ代わりの記録帳を持ち歩かねばならない)。出産後も、通常分娩の場合は1、2日で退院させられる(日本では1週間ほど入院)などなど。
ただ、不満があれば割り当てられた病院を替えることができるし、疑問や問題があればそれなりの対応をしてくれる。つまり、面倒臭がらずに自分からアクションをとれば、ある程度は病院との関係をコントロールできる余地は残されている。海外生活の心得としてよく耳にする、主張することの大切さがここにも当てはまるということだろう。
NHS出産が正しい選択であったかどうかの結論は、出産を迎えるまでのお楽しみ。今は運に身を任せる気分だ。