第19回 病院を変えた訳
妊娠中期に入る頃、私は通う病院を替えることにした。NHSではまず、住まいから最も近い病院に割り当てられるのだが、私が割り当てられたのはA病院。この病院は建物が古く、辛気くさい雰囲気が漂う上に、受付などのアドミン・スタッフの顔が一様に曇っている。まあ、英国らしいと言えば英国らしいかも、とあまり気にしないようにし、何度かあった病院側の些細なミスも「英国だから」と我慢した。
そんなある日、急な胸の痛みでA病院の緊急外来に駆け込むことになったのだが、何と、他に誰もいない受付で30分以上待たされた。受付係に何度か声をかけるものの、何らかのペーパーワークに没頭しているらしく、「ちょっと待って!」と返事が返ってくるのみ。これでは緊急の意味がないし、もし出血多量の患者だったら待っている間にこと尽きてしまうぞ、とそれまで抱えていた漠然とした不満が爆発し、病院を移ることを決意した。
GPで渡された近郊の病院リストから、産婦人科の充実していそうなB病院に目星を付け、電話でアポをとってB病院のコンサルタント・ミッドワイフ(助産婦)に会うことに。夫にも判断してほしいので、彼と2人で出掛けた。B病院に足を踏み入れると、まず明るい病院内に感じの良いカフェ、にこやかに挨拶してくれるスタッフたち。ふむふむ、好印象。コンサルタント・ミッドワイフも非常に親切に接してくれ、夫とその場で意見が一致し、B病院にケアを移すことにした。
ただ、救急車は住まい最寄りの病院にしか搬送してくれないので、緊急の際はもとのA病院でケアを受けることになる。リスクと言えばリスクだけど、しょうがない。GPにB病院宛ての委任状を書いてもらい、無事手続き完了。
少々遠いB病院への通院が難儀だったのと、A病院からB病院へのデータ移行がうまくいかず、何度も同じ注射を打つ羽目になってしまったが、出産を終えた今、この決断をして本当によかったと思っている。