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Fri, 29 March 2024

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

ヒースロー空港ターミナル5

英国への21世紀の玄関口として3月27日、ヒースロー空港ターミナル5がオープンした。旅客数では欧州有数の規模を誇るヒースロー空港だが、空港施設の社会的老朽化は否めず、新ターミナルが熱望されていた。トラブル続出の船出となったが、建築デザイン的には注目すべき魅力に溢れている。

ヒースロー空港ターミナル5の内部と外観
壮大な外観はロンドンの新しい「顔」となることが期待されている

空の玄関口

ロンドン近郊には、5つの国際空港がある。シティに勤めるビジネスマン御用達のシティ空港はドックランズにあって便利だが、規模が小さい。格安チケットの航空機が離発着するスタンステッド空港やルートン空港は、ロンドンからの距離が離れ過ぎている。第2空港となるガトウィック空港は、周辺の交通機関の充実度でヒースロー空港に劣っている。国際的な知名度で言えば、やはりヒースロー空港が群を抜いているだろう。

しかし「ヒースロー空港って、どんな建物?」と問われると、その形をイメージ出来る人は少ないはずだ。ロンドンを代表する空の玄関口の「顔」としては、お粗末な限りである。そこで英国としては2012年のロンドン・オリンピックも間近に控えて新ターミナルを完成させ、ようやく体裁を整えた格好になった。

英国最大級の構造物

ヒースロー空港ターミナル5の内部と外観
開放感溢れる無柱の大空間

総工費43億ポンド(約9900億円)を投じて建設されたターミナル5は、ロンドン・ヒースロー空港の西の端に位置する、英国最大級の大きさを誇る建築物となった。ハイド・パークの3分の1に相当するというのだから大したものだ。

この巨大ターミナル・ビルを設計したのは、英国が誇るハイテク建築家、リチャード・ロジャース卿。既存の各ターミナルに点在するブリティッシュ・エアウェイズの発着便を1カ所にまとめて乗り換えの効率化を図るなどの狙いもあり、大きな一つ屋根の下に全機能を集約させた。

大空間とジョイント

ヒースロー空港ターミナル5の内部と外観
剥き出しになった継ぎ目部分

ヒースロー空港ターミナル5の内部と外観
リチャード・ロジャース特有の
ハイテク建築が見事

建築の世界では通常、柱と柱の距離(スパン)が広くなり過ぎないように構造制限が設けられている。両柱の間に屋根を架ける際に、技術上の問題が出てくるからだ。しかし1日に何千人もの人が通過する空港ターミナルや駅舎では、建築技術を結集した大スパン構造が採用されている。ターミナル5でも柱間は長さ100メートルを優に超える。中央に出来た無柱の広々とした空間は、有人のチケット・カウンターを縮小し、コンピューターによる無人チェックイン・カウンターを多用することで、その広さがさらに強調されている。セキュリティー上も、隠れる場所の少ない大空間は都合が良いのだ。

またリチャード・ロジャース卿といえば、関西国際空港ターミナルで知られるイタリアの建築家レンゾ・ピアノとの合作である、パリのポンピドゥー・センターが出世作として知られる。鉄を多用したインダストリアルな構造表現は、当初からハイテク建築の到来と建築界を賑わした。

とりわけロジャース卿のこだわりは、建築部材の繋ぎ目部分に顕著に見られる。これは人体で言えば骨格における関節に相当する。華麗にて強固なジョイントは建設費用も膨大になるが、彫刻のような存在感が出る。通常は表面の仕上げ材で覆い隠す部分を表に出したのが、ロジャース特有の表現方法と言えるだろう。

Photo: Morley Von Sternberg

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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