図書館の利用者の少なさに悩むタワー・ハムレッツ区が、実験的な改革に乗り出した。3000万ポンド(約60億円)を投入し12カ所に点在する公共図書館を7カ所にする削減案、そして戦略的な場所選びなど、既成概念を打ち破る発想は柔軟性のあるリーダーシップを発揮する英国政治の表れとも言えるだろう。
まるでカフェのよう!
アイデア・ストアとは、その名の通り新しいアイデアが盛り沢山の商店のような図書館だ。何とか市民の利用率を上げたい当局が住人へのアンケート調査を分析・研究をした結果、画期的な考えに辿り着いた。確かに、わざわざ本を読むために図書館を訪れる人は減少している。しかし気軽に立ち寄れるカフェのような情報センターとしての機能があって、土日や平日の遅くまで開館しているなら利用客も増えるに違いない。しかもスーパーマーケットでの買い物のついでに立ち寄れるような立地ならなお便利だろう、というわけだ。
従来の図書館にはない斬新な発想は、建物の外観にも現れている。青と緑の縞模様の色ガラスは、タワー・ハムレッツの路上でよく見かける、行商人の簡易テントの屋根をイメージしているのだという。
戦略的な立地
現在、同区には4つのアイデア・ストアがオープンしている。その代表格でロンドン東部ホワイトチャペルにあるものは、スーパーマーケットのセンズベリーズに隣接している。勘の良い人ならもう分かるだろう。図書館建設資金の一部をセンズベリーズから引き出しているのだ。
この建物は、コンセプチュアルなアート感覚で建築物を作ることで定評のあるデイビット・アジャイによるもの。メディアからの注目を浴びた結果、より多くの人々をこの地域に集めることに成功したので、センズベリーズにとっても効果的な投資だったと言える。アイデア・ストアは今後、さらに3店舗がロンドン東部に建設予定となっている。
情報センターから生涯教育まで
もはや本だけが情報源ではない。ここでは有料だがDVDやCD、そして人までもが情報や知識を伝達する媒体として扱われている。もちろん、インターネットにアクセスできるコンピューターも立派な情報源で、通信料無料の端末が多数設置されている。しかも待ち合わせ場所や、住人同士の憩いの場にもなる気楽さがある。地域住民の教育・教養レベルを向上させるための各種コースも実施され、生涯教育の場としても機能している。実際にお茶や軽食を販売するカフェもあるのだから、市民にとっては至れり尽くせりの嬉しい建物だ。
実際、オープン当初は利用率が4倍にまで跳ね上がった。これに刺激を受けた英政府では、国内にある他の図書館までをもアイデア・ストアに変身させようという声まで挙がっていると言う。時代の変化、ニーズをいち早く読み取り、実行に移す。しかも、税金だけに頼らない英国人の知恵。だからこそ、今もなお英国は世界の注目を浴び続けることが出来るのだろう。
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