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Fri, 21 November 2025
今回のテーマ

相続税と対策について

所得税を納めた後の収入で築いた貯蓄や購入した不動産は、本人死亡時には相続税の対象資産になってしまいます。相続税をなるべく回避し資産を子どもに残したいご意向の方も多いでしょう。今回は相続税の仕組みを理解し、主な対策を検討してみましょう。

英国の相続税について教えて下さい。

英国では死亡時の総資産(Estate)の内、非課税枠(Nil Rate Band =NRB)の32万5000ポンドを超えた金額に対して、一律40パーセントの相続税がかかります。例えば、Estateが50万ポンドの方の場合、(£500,000-£325,000)x40%=£70,000の相続税となります。なお、日本では相続人が相続税を支払うのに対し、英国では被相続人(死亡した方)のEstateに課税されます。実際の納税手続きは、遺言執行人や法的責任者がEstateの資産から相続税を納め、その残りが遺言や無遺言法に基づいて相続人へ分配されます。

シングル・マザーで、自宅を含むEstateが約100万ポンドです。相続税はいくらになりますか。

自宅を直系の子孫(子供、孫、義理の子どもなど)に残す場合は、前述のNRBに加え住宅用非課税枠(Residence Nil Rate Band = RNRB)が適用されます。現在のRNRBは1人17万5000ポンドです。従って、相続税は(£1,000,000-£325,000-£175,000)x40%=£200,000となります。なおRNRBはEstateが200万ポンドを超えると、超えた金額の半分がRNRBから差し引かれます。夫婦の場合は非課税枠が2人分となるため、合計で100万ポンドまで非課税となります。

40パーセントの所得税を払ってきたのに、さらに相続税が40パーセントもかかるのですね。何か対策はありますか。

簡単な対策の一つは、生前に譲渡することです。英国では譲渡税はなく(トラストの場合例外あり)、譲渡後7年間生存すれば相続税はかかりません。7年以内に死亡した場合でも、3年後から20パーセントずつ相続税金額が下がります。また、1税年度につき1人3000ポンドまでの譲渡や、チャリティーへの寄付は相続税対象外です。さらに、生命保険金を相続税の支払いに充てる方法を利用する方も多いです。

生命保険を利用した対策について詳しく教えてください。

推定される相続税額と同額の死亡保険金を設定した、終身型生命保険に加入する方法があります。保険金は契約者本人の資産と見なされますが、保険契約をトラストに入れておくことで、本人のEstateには含まれず、相続税の対象外となります。万が一の際は保険金を使い相続税を支払います。例えば、推定相続税が20万ポンドの場合、20万ポンドに設定した死亡保険金で相続税を支払えますので、相続財産を全てお子さんが受け取ることが可能になります。

生命保険料はいくらくらいでしょうか。

次の表がおおよその見積もりです。通常加齢により保険料は上昇しますが、生涯にわたって保険料が変わらない終身保障型もあります。このタイプを選ぶと加入時の保険料が高くなるため、定期的に保険料を再設定する見直しタイプにする方も多いですが、見直し時に大幅に保険料が上がるので、慎重に検討することが重要です。なお、保険金・保険料をインフレに連動させる設定も可能です。

終身保険料(月)例

加入時の年齢60歳65歳70歳
一生涯保証 £303 £380 £513
初期10年後、その後5年ごとに見直し £85 £136 £215

Data:IRESS 6/11/2025健康な事務職の男性の場合

余命が予想できないので資産譲渡に踏み切れません。ほかに方法はありますか。

生前贈与を行いつつ、一定の生活費を確保できるDiscounted Gift Trustと、投資型生命保険(ボンド)を組み合わせた投資商品を検討できるかもしれません。簡単にいうと、資産をトラストに譲渡しボンドで運用し、生涯にわたって定期的なインカム(収入)を受け取る仕組みです。もう一つの利点は、譲渡後すぐに譲渡した資産の一部が、相続税の対象外となる点です。

例えば、30万ポンドを譲渡し、月1000ポンド(年4%)のインカムを生涯受け取る場合、譲渡時点で12万ポンドが相続税の対象外となり、残りの18万ポンドは7年後に対象外となります。ただし、インカム以外の資産には一切アクセスできない点や、投資リスク、投資収益に関する課税などの注意点があります。検討される際は、専門家にご相談されることを強くお勧めします。

Discounted Gift Trustのイメージ

Discounted Gift Trustのイメージ

トラストとは何ですか。

お子さんに資産を譲渡すると、その資産は当然お子さんのものとなるため、すぐに使い切られてしまったり、お子さんが離婚した際に前配偶者に半分が渡ってしまったりする可能性があります。この場合、譲渡した本人は資産の使い方に影響を与えることができません。これに対し、資産をトラスト(Discretionary =任意信託)へ譲渡し、ご自分がトラスティー(信託人)となることで、譲渡資産の金額や使用目的、使用時期などを全て本人が決定できます。

また、譲渡後7年間生存すれば、その資産は相続税の対象外となります。なお、DGTを含むトラストの設定や運営はとても複雑ですので、専門家にご相談されることをお勧めします。

外国人居住者の海外資産に関する相続税が厳しくなったと聞きました。

本税年度から英国移住者への課税方法が定住者・非定住者(ドミサイル・ノンドミサイル)方式から居住地方式に移行し、何年英国に居住していたかで海外資産の所得税や相続税が決定されることになりました。従来は、過去20年間のうち15年間英国に居住すると、海外資産も相続税の対象になっていましたが、今年からこれが10年に短縮されました。今後ますます、相続税対策を検討する重要性は高まると考えられます。


当コラムは2025年11月時点の法制と税制に基づき一般的なガイダンスのために作成されており、皆様のご理解を深めるために内容を簡素化してある場合もあります。専門家の助言なしに記載情報にのみ基づき行動することはお控えください。その場合、筆者は一切責任を負いません。

※ 次回のマネー教室は2026年2月19日号に掲載致します。本コラムのバックナンバーはこちらからご覧ください

 
和枝ドゥルーリー APFS

© 和枝ドゥルーリー APFS

日本人ファイナンシャルアドバイザー(CFP)。十数年間の米英系投資銀行勤務を経て、IFAとして独立。日英両方の資格を有する。独立系FA会社に所属。

E-mail: enquiries@financialinitiatives.co.uk
Web: www.kazuedrury-ifa.co.uk
Financial Initiative Ltd is an appointed representative of Lathe & Co Wealth Advisers Ltd, which is authorised and regulated by The Financial Conduct Authority.


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