秋予算案にて発表された個人向け税制改正について
先日、新労働党政権下初めての秋予算案が発表され、さまざまな税制改正が行われることになりました。主に相続税と外国人に対する税制改正が注目されます。今回は主な個人向け税制改正について解説いたします。
所得税率や所得バンドは変更されますか。
税率や対象となる所得金額幅(Earning Bands)は2021/22年度から据え置きで、2027/28年まで変更なしと発表されました。賃金は毎年上昇していますから、高率・追加税率のかかる所得バンド入りする方々は税率が増加しますので、目に見えない増税といえます。なお、株式や投資信託などの売却益に対する譲渡所得税(Capital Gains Tax)は基礎税率は10%から18%へ、高率・追加納税者は20%から24%への増税となり、10月30日より施行されました。
最低賃金が上がると聞きましたが。
はい、特に20歳以下の方の最低賃金は25年4月より大きく上がりますので従業員にとっては吉報です。一方、飲食店など年齢の若い方を雇用されている雇用主の負担が大きく増えることになります。
年齢別の最低賃金
年齢 | 2024 | 2025 | 上昇率 |
---|---|---|---|
21歳以上 | £11.44 | £12.21 | 6.7% |
18~20歳 | £8.60 | £10.00 | 16.2% |
18歳未満 | £6.40 | £7.55 | 18% |
見習い (Apprentice) |
£6.40 | £7.55 | 18% |
相続税も上がりますか。
相続対象財産は1人32万5000ポンドまで、居住用不動産の場合は17万5000ポンド*まで非課税ですが、超過分に対し一律40%の相続税がかかります。非課税額は夫婦間で引き継げますので、2人で最高100万ポンドまで非課税額となります。改正後税率や控除額は30年4月5日まで据え置きとなりましたが、相続税対象である不動産などの資産は上昇しているにもかかわらず、控除額は2010/11年度から全く上昇していませんので、ある意味での増税といえると思います。また、従来は相続税対象外であった農場や非上場企業会社株式の継承金額が100万ポンドを超える金額については、超過額の50%が相続税の対象となります。また年金も相続税の対象と発表されました。
年金の相続税についてもう少し教えてください。
運用タイプの年金基金(確定拠出型)は、従来は加入者が死亡すると、相続税なしで本人が指定する方が基金を引き継ぐことが可能でした。27年4月より、年金も相続税の対象となってしまいます。具体的には年金管理会社が相続税を年金基金から支払った後、年金を引き継ぐ方へ分配する形になります。
外国人に対する税制について教えてください。
われわれ外国人は従来、非定住者(ノンドミサイル)と税法上定義されており、渡英後一定期間は国外所得を英国に送金しなければ非課税であるという、特別な税制(送金課税)を選択することができました。しかし25年4月より、「ドミサイル方式」の送金課税は撤廃され、一律「居住地方式」へと変更。送金してもしなくても海外所得を申告・納税する形となります。ただし、過去連続10年間英国非居住であれば、渡英後4年間は、英国国外の所得を非課税とすることができ、英国への送金も可能となります。こちらはFIGルール(4 year foreign income and gains regime)と呼ばれ、今年4月に保守党が提案し、今回の秋予算で労働党により承認されました。
海外不動産収入などがある駐在員は英国への送金に気を付けなくてもよくなるのですね。
25年4月6日から渡英後4年間は、海外所得は非課税で送金にも課税されませんのでそういえると思います。ただ、この場合は所得税基礎控除額(1万2570ポンド)が適用されなくなりますのでご留意ください。
長年「送金課税」を選択し、まとまった資金が海外にあるのですが、改正後も英国に送金すると課税されるのですよね。
はい、ただし一時的な英国送金の仕組み(Temporary Repatriation Facility = TRF)が設けられ、来年度から3年間は未送金の所得を低税率で英国に送金できるようになります。例えば来年度に送金すると12%の税金(TRF Charge)のみで持ち込めるということです。従来は税率の高い方は送金しますと40%、45%の所得税がかかっていたので低税率で送金できるチャンスともいえます。なお、FIGルールの適用を希望する場合、タックス・リターンで歳入関税庁へ請求をする必要がありますのでご留意ください。
Temporary Repatriation Facility(TRF)
税年度 | TRF税率 |
---|---|
2025/26 | 12% |
2026/27 | 12% |
2027/28 | 15% |
渡英後5年目です。来年から海外所得に丸々税金がかかってしまうのは痛いです。何か節税の方法はありませんか。
オフショア・ボンドを検討できるかもしれません。マン島やダブリンなどのタックスヘイブン地域にある大手保険会社にて管理運営されている投資プランで、日本の変額保険に類似します。複数のオフショア預金や投資信託などを組み合わせて運用しますが、「保険契約」の運用商品なのでプラン内で受け取る利子、配当、キャピタルゲインなどの利益は、運用期間中は課税所得とはみなされず、複利運用されていきます。
オフショア・ポンドの仕組み
解約した場合の課税はどうなりますか。
英国の所得税は、解約の際に非居住者であれば非課税です。一定の期間のみ英国に滞在される方に広範に利用されている理由でもありますが、居住国で課税される可能性がありますのでご留意ください。なお、投資元本の年間5%までは課税なしにて毎年引きだし、英国へ送金が可能で、この権利は留保することができます。例えば当初5年間何も引き出しがなかった場合、5年後には25%まで(5%x5年)課税なしで引き出すことができるというわけです。このスキームの税的特典は長年英国政府により公認されています。
*相続資産が200万ポンド超の場合は徐々に非課税額が減額される
当コラムは2024年11月時点の法制と税制に基づき一般的なガイダンスのために作成されており、皆様のご理解を深めるために内容を簡素化してある場合もあります。専門家の助言なしに記載情報にのみ基づき行動することはお控えください。その場合、筆者は一切責任を負いません。
※ 次回のマネー教室は2025年2月20日号に掲載致します。本コラムのバックナンバーはこちらからご覧ください