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Mon, 11 November 2019

統計だけじゃ分からない移民のキモチ

「外国人労働者が1年間で17万5000人増えた。英国人労働者の雇用が危ない」「東欧からの移民数が47%減少した。次はEU圏外の移民を減らそう」̶̶世界的不況がまだまだ続くと予想されるなか、英国では今、外国人労働者に対する風当たりが日に日に強くなっている。はたして移民とは、英国人の日々の生活を脅かす存在なのだろうか。今回は、ロンドンでコツコツ真面目に働く4人の移民労働者にインタビュー。彼らはどんなことを考えて祖国を離れ、どんなことを考えながら日々を過ごしているのか。統計を見ただけでは分からない、移民労働者たちの心の内を覗くことで、移民大国、英国のもう一つの姿を見てみよう。(執筆: 内山 久恵)

アラシッドさん 28歳 アルジェリア出身

フランスで大学卒業後、2004年に渡英。派遣会社を通じて、ホテル清掃員、BBCでの事務作業、某有名レストランのウェイターなどさまざまな職を経験。現在はホテル地下駐車場の管理業務を行っている。
アラシッドさん
schedule
アラシッドさんの1日のスケジュール
05:30 起床
06:30 車で出勤(友人と3人で相乗り)
07:00 仕事開始 ─お客さんが駐車しに来たら会計をして、鍵を預かり車を移動させる
14:30 仕事終了(終了時間は日によって異なる)
15:30 家に帰ってシャワーを浴びる
17:00 町に繰り出して、ショッピングをしたり友達と会ったり。たまにはサッカーをすることも
21:00 帰宅。またシャワーを浴びる。その後はテレビを観たり、友人と一緒にご飯をつくって食べる
23:00 就寝

「僕が英国で働いていて思うのは、英語ができない外国人労働者を冷遇する派遣会社が多いということ」と主張するアラシッドさんは、北アフリカのアルジェリア出身。フランスの大学を卒業してからは英国でさまざまな職に挑戦してきた。現在は駐車場の管理人として働いているアラシッドさんが、ホテルの清掃員時代の苦労話を聞かせてくれた。「ホテルの清掃員をやっていたころ、派遣会社が僕にくれた給料は、一部屋たったの1.8ポンド。一部屋掃除するのに30分はかかるし、塵一つ残さないようにしないとチェックが来てやり直しをさせられた。言いたい放題文句を言ってくるけど、そのころは英語もまだうまくなかったから反論できないしね。結局長くは続かなくて2カ月でやめたよ」。

英語ができない人に対する扱いの冷たさは、駐車場管理をしている今でも感じることがある。「僕の同僚は東南アジア出身で、かなりなまりが強い英語を話すんだ。そういう人に接するとき、ほとんどのお客さんは丁寧に接してくれるけど、たまに急に態度が変わって冷たくなる人がいるんだよね」。それでは、他の国ではどうなのだろう。「僕はフランス語圏で生まれ育っていてフランス語を話すから、大学はフランスの学校を選んだんだ。だけど英国よりもフランスの方がそういう傾向は強いと思ったな。言葉をちゃんと話せない外国人はかなり冷たい目で見られていたね。だからフランスに残って働こうとは思わなかった。英国でもそうだけど、やっぱり言葉が通じないと不信感を持ってしまうんだろうね」。やはり海外で暮らすうえで、言語の壁というのは大きくのしかかってくる問題のようだ。

現在の駐車場管理の仕事は、ホテルとの契約で得たもの。2年契約の固定給を受け取っており、生活は安定。労働組合もしっかりしていて、何か不満があれば相談にのってくれるから安心、と大方は満足している。将来のことはまだ決めていないが、まだ帰国はせず、もっと良い仕事に就けるようにがんばるつもりだという。

アラシッドさんの1カ月の家計簿

勤務時間: 8時間(日。基本的に週5~6日で、時には日曜日も働くが休日手当がつく)
給与: 1000ポンド(月)

家賃 300ポンド(友人とシェア)
食費 400ポンド
交通費 93ポンド(トラベルカードとトップアップ)
電話代 35ポンド
衣服代 150ポンド(月によって違う)
娯楽費 60ポンド(飲酒はしないがタバコを吸う)
貯金 100ポンド(余裕があれば)

ラジクマールさん 42歳 スリランカ出身

ロンドン東部でOFF LICENSE (酒屋)のオーナーを務める。 奥さんと2人の子供持ち。27歳 のときに英国で1年間の語学留 学を経験し、その後2005年に再び渡英、現在に至る。
ラジクマールさん
schedule
ラジクマールさんの1日のスケジュール
05:30 起床
06:30 車で出発
07:00 開店 ─レジ準備、書類整理、牛乳配達の受け取り、商品陳列など
15:00 終了 ─次のシフトの人が交代で来てくれる。従業員3人のうち2人は常時、店の中に居るようにシフト設定。そのため時には1人が朝から晩までいたりする
16:00 子供を学校に迎えに行く
17:00 家でくつろぐ ─奥さんが友人を招待して一緒に夕飯を食べたりすることも
23:00 就寝

移民が多く集うロンドン東部でOFF LICENSEのオーナーとして働くラジクマールさん。ロンドンでの日々の生活について聞いてみると、「やっぱり周りに似たようなお店がいっぱいあるからお客さんの取り合いだね。それに牛乳や卵やガソリンなど、生活必需品が高すぎて、結構苦労しているよ。家も買っちゃったけどローンだし、車のガソリン代なんか毎週40ポンド以上かかってしまって大変なんだ」。奥さんと子供に恵まれて幸せな日々……というわけにはなかなかいかないようだ。

ラジクマールさんの出身国スリランカはインドに程近い島国。30年にわたり戦争が続く同国は治安も不安定で、日に数十人が銃撃戦により亡くなるという痛ましい事件も勃発している。そんな環境で生まれ育ったラジクマールさんは、もともとガソリンスタンドで働いていたのだが、人の下で働くよりも自分のお店を持ったほうが収入が増えると考え、一国一城の主となることを決意。より良い生活を求め、奥さんと子供を連れて渡英した。英国で1年間、語学学校に通っていたために、英語でのコミュニケーションに苦労することはなかったそうだ。しかしショップのオーナーともあって、休日はほぼゼロ。収入についても「貯金するのは難しいね。すべてが高いからお金はつくって消費するだけだ」と厳しい現実を訴える。

それでも英国にいるのはなぜなのか。子供が学校に行っていることや、家を買ったことで生活基盤がこちらにあること、それにスリランカに今、戻ったら戦乱に巻き込まれてしまうかもしれないという不安、そうしたさまざまな理由でロンドンを離れないのだという。

それでも基本精神は「人生を楽しむこと」。仕事が終わったら子供を迎えに行って毎日家族と一緒にご飯を食べるのが日課というラジクマールさんは、日々の生活の苦しさを吹き飛ばしてしまうほどの明るい性格の持ち主だ。家族と一緒にいればどんなつらいことも乗り越えられる。「人生楽しまないと!」という力強い言葉に、こちらまで励まされてしまった。

ラジクマールさんの1カ月の家計簿

勤務時間: 平均8時間(日。だいたい週6日)
利益: 平均1600ポンド(月)

家賃 700ポンド(住宅ローン)
食費 600ポンド前後(かなりまちまち)
交通費 200ポンド(ガソリン代。税込み)
電話代 30ポンド
衣服代 ほとんど買わない(2カ月に1度くらい)
娯楽費 30ポンド(酒代。1日ビール1缶程度)
貯金 0(余裕なし)

シャフィールさん 29歳 バングラディシュ出身

22歳でアラブ首長国連邦(UAE)に出稼ぎに行き、2007年9月に渡英。現在はロンドンにある公立カレッジ、キングストン・カレッジで英語を学びつつ、新聞配布のスーパーバイザーとスーパーマーケットの店員の仕事を掛け持ちしている。
シャフィールさん
schedule
シャフィールさんの1日のスケジュール
07:00 起床
07:30 スーパーマーケットでの仕事開始。(月火水)
10:30 仕事終了。ご飯を買って移動、大学へ(大学がない日は11:00まで働く)。 英語の授業(水木金)
12:30 授業終了
16:00 新聞配達のバイト
19:30 帰宅。ルームメイトとともにご飯をつくって食べたり、テレビを観たりしてくつろぐ
24:00 就寝

「ロンドン・ライトです」──夕方の帰宅ラッシュに合わせ、街中に響く声。バングラデシュ出身の学生、シャフィールさんは、平日の午後4時から7時半まで路上で新聞を配るアルバイトをしている。それに加え朝7時半から10時半まではスーパーの店員のアルバイトを、10時半から12時半までは大学で英語の勉強を、それぞれ週3日ずつ、曜日をずらし行う日々を送っている。そんな多忙な毎日を過ごしているシャフィールさんだが、英国に来る前はアラブ首長国連邦(UAE)の首長国の一つ、ドバイ首長国でレストランのシェフとして働いていたのだそうだ。そのころの給料は1カ月2000ディルハム(約5万3000円)だったが、物価の安いドバイでは生活に困ることはなかったという。

ドバイでは、近所の人とはヒンドゥ語やウルドゥ語で、職場では英語で会話をしていた。そのため現在シャフィールさんが操る言語は、母国語のバングラ語と合わせ4つ。語学に堪能な彼だが、ロンドンでの生活については意外や否定的である。「ロンドンで暮らすのは大変だよ。天気は悪いし、物価は高いし、みんな冷たいし。それに比べてドバイは僕にとってすべてが完璧なんだ。経済的な面ももちろんだけど、毎週金、土曜は飲み放題のマーケットが出るし、町で酔っ払って倒れても必ず誰かが拾って家まで届けてくれるんだ」。

それでもロンドンに来たのは「学位を取るため」。「ドバイや母国でも学位は取れるけれど、ヨーロッパ、特に英国の大学の学位は、将来もっと良い仕事をもらうためにはとても有利だからね」と明瞭な理由を持っている。現在は働きながら、大学に通うための資金を溜めつつ、生活費を自分で工面し暮らしている。大学準備金以外に貯金をする余裕はないが、大学でホテル・マネジメントを学んだら再びUAEに行き、またシェフとして働くのが夢だそうだ。

シャフィールさんの1カ月の家計簿

勤務時間:
スーパーマーケット 10時間(週)、新聞配達 10.5時間(週)
給与:
スーパーマーケット 220ポンド、新聞配達 335ポンド(月)

家賃 40ポンド(シェア)
食費 150ポンド(外食が多い)
交通費 60ポンド
(Zone2~3のトラベルカード とトップアップ)
電話代 35ポンド
衣服代 10~15ポンド
娯楽費 10~15ポンド
貯金 0(余裕なし)
大学準備金 250ポンド
(来年からの大学授業料3000ポンドの準備)

カロリーナさん 34歳 ポーランド出身

ポーランドで10年間事務員として勤務した後、ベルギーのイチゴ農園で半年間働き、2006年11月に渡英。ロンドン西部ケン ジントンのホテルで清掃員として働いた後、スーパーバイザーに昇格。29歳の弟と2人、ロンドンで暮らしている。
カロリーナさん
schedule
カロリーナさんの1日のスケジュール
06:45 起床、朝の支度
07:30 出勤
08:00 仕事開始 ─1フロア全60部屋がきちんと掃除されているかチェックする
11:30 掃除されていない部屋、やり直しの部屋をレセプションに1日3回、報告を入れる
12:00 休憩 ─お昼ご飯は食堂で購入
12:30 仕事再開
16:00 仕事終了
16:30 帰宅 ─家でテレビを観たりしてくつろぐ。料理も以前よりはするように
23:00 就寝

東欧諸国の欧州連合(EU)加盟後に急増した英国へのポーランド移民。ロンドン西部ケンジントンのホテルで働くカロリーナさんもその中の一人だ。ポーランドで事務員として10年間、その後、ベルギーのイチゴ農園で半年間働いた。友人やもともと住んでいた弟の勧めを受けて渡英。現在はその弟と共に暮しているという。今の職場も弟の紹介だ。

つい最近、清掃員からスーパーバイザーに昇格したばかりのカロリーナさん。生活の変化について聞いてみた。「清掃員として働いていたころは、朝も7時からで早いし、忙しくて帰っても料理をする気が起きなかったの。それに比べたら今の仕事はずっとましね。お給料は上がったし、仕事内容も部屋をチェックして回るだけ。ポーランドと比べたらロンドンでの生活はかなり楽になったわ。ポーランドで働いていた時は、月給がたったの600ズヴォティ(約1万8000円)。賃金が安すぎて、生活費を払ったら後にはもう何も残らなかったの」。

現在、ポーランドの経済は急激な成長を見せており、一時期は100万人もいた英国への出稼ぎ労働者は、現在50万人以下にまで落ち込んでいるという。その点を問うと、首を傾げながらこう答えてくれた。「経済が回復しているって言っても、少なくともポーランド全体ではないわね。私の地元は人口8000人の小さな町なんだけど、いまだに就職難が続いていて何も変わっていないと母が言っていたわ」。統計では見えない現実が、この言葉から浮かび上がってくる。

現在は弟と2人暮しだが、弟が友人をたくさん連れてくるので、将来的には1人でフラットを探して住みたいと考えている。「ロンドンでの生活はすごく気に入っているの。可能ならばいずれは市民権も取りたいくらいね」と語るカロリーナさん。実は最近、マネージャーから更なる昇格の話を持ち掛けられたのだとか。3週間の長期休暇までは週7日、フルで働き、休暇はポーランドの実家で家族とゆっくりと過ごしたいとうれしそうに語ってくれた。

カロリーナさんの1カ月の家計簿

勤務時間: 平均7.5時間(日) 
給与: 平均1000ポンド(月。週5シフトの場合)

家賃 0(弟が全額払っている)
食費 150ポンド
交通費 126ポンド
(Zone 1~3のトラベルカードとトップアップ)
電話代 55ポンド
衣服代 100ポンド
娯楽費 20~30ポンド(タバコ、週末の飲酒など)
貯金 定期的ではないが、余ったら随時
カード支払い 160ポンド(母国ポーランドで)
母への仕送り 100ポンド

*勤務時間・給与はおおよその目安です。

 
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