BBCの長寿番組、「アンティーク・ロードショー」に代表されるように、骨董は、古き良きものを愛でる英国人のライフ・スタイルに深く根付いている。ストールが立ち並ぶストリート・マーケットや常設マーケット、また世界屈指の骨董街があちらこちらに点在するアンティークの宝庫、ロンドンにおいて、この街ならではアンティークの魅力を探る。
(フリー・ジャーナリスト: 長谷川ゆか)
世界最大のストリート・マーケット
Portobello ポートベロ
毎週土曜開催 6:00-16:00頃まで
最寄駅: Notting Hill Gate
www.portobelloroad.co.uk
1500以上のアンティーク・ディーラーたちが軒を連ねる、世界最大規模のアンティーク・マーケット。年代物の銀製品や陶器から家具、アジアやアフリカのアンティークな芸術品、レースやボタンからおもちゃまで、ありとあらゆるアイテムが揃うのが魅力だ。ポートベロー・ロードの両側にずらりと連ねられたストールのほかにも、迷路のように続くアーケードや数階建てのギャラリーも点在し、まさにアンティーク天国。早朝には、世界中から買い付けにやってきたディーラーたちの取り引きが行われ、お昼頃までには地元の人や観光客でごった返す。食べ物のストールや、ストリート・パフォーマーなどもそこここに見られ、ちょっとしたお祭り気分も味わえる。
Still Too Few
300 Westbourne Grove W11 2PS 【MAP】
8:00-16:00(土のみ)
ビクトリアンから1930年代までの、キッチン・グッスのスペシャリスト。店内には、食器類や木製の調理器具、ブリキのやかんや水差しなどがそろい、まるで誰かの家のキッチンにいるような素朴で、温かみが感じられる店。キュートなブタの頭を象ったラード用のスプーンや、パンを焼くための小麦粉を入れておくポット、パセリ入れなど、当時のキッチンの様子を物語るアイテムたちに出会えるのも楽しい。
小さな入口なので見逃さないで。ここには店が2軒入っていて、Still Too Fewは奥の店。
地下にはティー・ルームも
Lyn Munro
Units 48-53, Admiral Vernon Arcade,
141 Portobello Road W11 2DY 【MAP】
Tel: 01883 623134
7:00-14:30(土のみ)
ポートベローの老舗アーケード、「アドミラル・ヴァーノン」の入り口近くにある、レースとクラフト製品の専門店。カラー(衿)、スカーフ、ベール、ショール、テーブル・クロスなど、レースの種類が豊富。ビクトリアンものを中心に、ベルギー、アイルランド製がそろい、ハンドダン(手仕事)のレースなどは、その繊細な美しさに思わずうっとりしてしまうほど。ほかにも、ビクトリアンからアールデコにいたるまでのバッグ・コレクションも充実。「バッグを買うときは、必ず中を開けてコンディションを確かめて」とは、オーナーのリンからのアドバイス。
写真右上)青いひさしと看板が目印のアドミラル・ヴァーノン
写真左)1930~50年くらいに作られた刺繍のバッグ、30~100ポンド
写真右)所狭しと、天井からレースが掛かっている店内。手頃なもので、商品は10ポンドくらいからある
エンジェルにある隠れ家的マーケット
Camden Passage
カムデン・パッセージ
毎週水・土曜開催
7:00-14:00頃まで(水)、8:00-16:00頃まで(土)
1960年代にスタートした、比較的新しいアンティーク・マーケット。今ではすっかりトレンディーな街になったエンジェル、アッパー・ストリートから1本奥に入ったカムデン・パッセージ沿いに、アンティークの店やモール、ストールが立ち並ぶ。お店の数は約300軒とこじんまりしているので、落ち着いて掘り出し物が探せるのが魅力だ。ガラスものやアクセサリー、銀製品、陶磁器などの小物が充実していることで定評がある。また、上品な雰囲気をもつカムデン・パッセージには、最近オシャレなカフェやブティックなどもオープンし、週末のデイ・アウトにおすすめのスポット。観光客というより、地元の人々に愛されている隠れ家的マーケットだ。
Sugar Antiques
8-9 Pierrepoint Arcade,
Camden Passage, Islington N1 8EF 【MAP】
Tel: 020 7354 9896
7:00-15:00(水)、8:00-16:00(土)
www.sugarantiques.com
カムデン・パッセージから1本入った、ピアポント・アーケードの一番奥にある、コスチューム・ジェエリーの専門店。壁いっぱいにディスプレイされた、まばゆいばかりのブローチのコレクションはまさに圧巻。1920~80年代の、英国、フランスのものがメイン。ケルト文化を色濃く反映したスコティッシュ・ジュエリーもおすすめだ。また店内には、店のオーナーである、テッド・キタガワさんのアンティーク時計や万年筆のコレクションも充実している。
左)ピンクの外観と看板が店のトレードマーク。店の外にもコレクションがずらりと並ぶ
右)ジュエリーの専門家である、アディールさん。イタリア製のカメオ・コレクションも人気
Aquamarine
14 Pierrepoint Row,
Camden Passage, Islington N1 8EF 【MAP】
Tel: 07962 161106
9:00-18:00(水・土)、12:00-18:00(木・金)
小さな店内には、ガラスや食器類をはじめ、ヴィンテージ・コスチュームやジュエリーが所狭しとならび、さらには鳥の剥製コレクションなども大胆にディスプレイされたユニークな店。ベネチアン・グラス、繊細な幾何学模様が美しい重厚なカットグラス、ビクトリアンの色ガラスなど、ガラス製品の品揃えでは定評がある。ワイン・グラスなどは、セットだけではなく、バラで1客ずつ買えるので、アンティークのビギナーにもおすすめだ。
左)繊細な彫刻の施されたグラス
中)優雅なフォルムを持つビクトリアン初期の、色ガラス。70ポンド
右)ビクトリアンの家具やペインティングなど、様々なアイテムがそろう店内
インテリア関係者御用達の常設マーケット
Alfies Antique Market
アルフィーズ・
アンティーク・マーケット
13-25 Church Street Marylebone NW8 8DT 【MAP】
Tel: 020 7723 6066
10:00-18:00 休: 日・月
www.alfiesantiques.com
ロンドンでも知る人ぞ知る骨董街メリルボーンはチャーチ・ストリートに位置する、英国最大級のインドア・マーケット。一見、見過ごしてしまいそうな古びた4階建て建物ながら、一歩店内に足を踏み入れると、20世紀のデコラティブ&モダンなインテリアのディスプレイに目を奪われる。約200ディーラーを擁し、家具や絨毯などをはじめ、陶器やガラス、ビクトリアンのキャミソールやペチコートなど、個性的なアイテムがそろう。世界各国から、インテリア・デコレーターやスタイリストが足を運ぶことでも有名なマーケット。最上階にはオープン・カフェもあり、アンティーク・ハンティングの合間に、イングリッシュ・ティーで一休みできる。またインドアなので、天候に左右されないのもうれしい。
Beth
Alfies Antique Market
Stand G043-G046
10:00-18:00
骨董街チャーチ・ストリート屈指のアンティーク商、ビバリーを母にもち、この道一筋のセラミック・スペシャリスト、ベスの店。日本でも人気の、「スージー・クーパー」や、「シェリ ー」のセラミックをはじめ、チンツ(小さい花柄やフルーツ柄)、カントリー調の「カールトン・ウェア」など、見ているだけでもハッピーになれる、キュートなアイテムが満載。加えて、ベスは大の親日家。セラミックに関してわからないことがあったら、何でも聞いてみよう。興味深い話が聞けること請け合いだ。
写真)シェリーのファンならお馴染みの「ブルー・アイリス」。セットで110ポンド
Dodo
Alfies Antique Market
1st Floor, Stand F071-72
10:30-17:30
www.dodoposters.com
アルフィーズ・アンティーク・マーケットの2階の隅にひっそりとたたずむ、カルト的人気を持つ、ポスター・看板の専門店。1910~1950年代のヨーロッパのものがメイン。ギネス・ビールのポスター、ビスケットやタバコのポスターなど、小さな店内に、40年のキャリアをもつオーナー、リズさんのコレクションがぎっしりと並ぶ。ポスター、ハガキ、広告のチラシなど、年月を経たとはいえ、そのグラフィカルなデザインの素晴らしさには脱帽。熱心なコレクターが世界中から集まってくるというのも、うなずける話だ。
左)店で最も人気があるという、ギネスの大判ポスター。650ポンド
左)レトロなボックスもかわいい
その他のおすすめアンティーク・マーケット
コベント・ガーデン アップル・マーケット
Covent Garden Apple Market
10:00-18:00頃まで
最寄り駅:Covent Garden
アンティーク・マーケットは月曜のみ開催。
観光客も多く、アンティークのビギナーにおすすめのマーケット。
バーモンジー・マーケット
Bermondsey Market
金曜日開催 5:00-14:00 頃まで
最寄り駅:London Bridge / Bermondsey
テムズ川沿い。コンディションの良いアクセサリーがそろっていることで定評がある。
グレイズ Grays
10:00-18:00(土・日休)
最寄り駅:Bond Street
www.graysantiques.com
ボンド・ストリート近く。クオリティの高いアンティークがそろう、インドア・マーケット。
オールド・スピタルフィールズ・マーケット
Old Spitalfields Market
アンティーク、ヴィンテージは木曜。
最寄り駅:Liverpool Street
www.oldspitalfieldsmarket.com/antique-market.html
20世紀を代表する女性陶器デザイナー
スージー・クーパー
(1902-1995)
Susier Cooper
美しい英国の自然などをモチーフに、華やかで女性的なデザインの食器を世に送り出したスージー・クーパー。どこにでもありそうで、どこにもない、そんな素朴なデザインで、世界中の女性を虜にしてきたスージーの魅力に迫る。
素朴なカントリー調の絵柄、パステル・ピンクやベービー・ブルー、グリーンなどの微妙な色が、食器というキャンバスの中に見事に調和し、見ているだけで優しい気持ちになってしまうカップ&ソーサー、それがスージー・クーパーの陶器の魅力だろう。1920年代から80歳で一線を引退するまで、「色の魔術師」ともいわれるほどの卓越した審美眼で、数々の名作を作り上げたス ージー。現在も、英国、米国や日本など、世界各国に熱狂的なファンを抱える。
左)グレイ社時代の、アール・デコの影響を受けている「キュビスト」(1929年)
右)リーピング・デアとして知られるバック・マーク
スージーのアーティスティックな感覚もさることながら、20世紀前半から後半にかけて彼女が成し遂げた業績は、まさに当時のキャリア・ウーマンの先駆け的存在だった。英国陶器会社グレイ社のデザイナーだった時代に、スージーの才能は瞬く間に開花していく。従来陶器は、工房の名前のみで売られていたが、1927年頃からスージーのデザインした作品に「Designed by Susie Cooper」の特別なバック・スタンプを入れることに。これが当時の陶器界の大きなトレンドであった「デザイナー・レーベル」のはしりとなった。
20世紀初頭の英国では、「チンツ」とよばれる細かい花やフルーツ柄を一面に施した食器が大流行していた。そのチンツ大全盛の時代に、スージー・クーパーは大胆な色彩とデザインを用いて、陶器界に新しい息吹をふき込んでいった。幾何学模様とビビッドな色使いを特徴としたこの時期のスージーの陶器は、数々の輝かしい賞を受賞する。
独立して、オリジナル・ブランドをスタート
1929年、スージーは27歳の誕生日を境にグレイ社を退社、後に「スージー・クーパー・ポッタリー(窯)」を設立し、絵付けやデザインだけではなく、陶磁器の生地から生産を開始した。世界大恐慌や第一次大戦など、世界的に様々な大惨事が起こる中、スージーは陶器を作り続ける。特に1930~1940年代はスージーの黄金期代ともいわれ、ピンクの1輪のバラがダイナミックかつ繊細に描かれた名作「パトリシア・ローズ」や「ポルカドット」などを生み出している。特に1940年には、「ロイヤル・デザイナー・オブ・インダストリー」の称号を、初の女性デザ イナーとして授与され、陶器界におけるスージーの地位を不動のものとした。1966年からは、世界屈指の陶器界ブランド「ウェッジウッド」の傘下に入りデザインに専念。V&A美術館に展示されている「ひなげし」などを製作した。
左)言わずと知れたスージーの代表作、「パトリシア・ローズ」(1932年~)
右)洗練された美しさを持つ、ボーンチャイナ「ひなげし」(1970年頃)
ビクトリア時代の終焉とともに生をうけ、時代のうねりにも屈せず、ひたすら窯を愛したひとりの女性陶器デザイナー。食器に描かれたスージーの温かみのある花々たちは、2つの世界大戦で荒廃した人々の心をどれだけ慰めたことだろう。いくつもの新しい旋風を巻き起こして、20世紀を駆け抜けたスージーは、陶器界、さらにはデザイン界のアイコンとして、今でも英国人の心を揺さぶってやまない。
アンティークのスペシャリストに聞く - 寿子・ウイードンさん
ロンドン北部イズリントンの「カムデン・パッセージ」 に、旦那様のマイクさんとお店を構える寿子・ウイードンさん。この道30年近くのキャリアをもつ寿子さんに、ロンドンのアンティークについて話を聞いた。
一口に「アンティーク」といいますが、英国におけるその定義は?
厳密に言えば、製作後100年を経たものを「アンティーク」と定義づけています。日本人にも人気のある、スージー・クーパーやシェリーのティー・カップなどは1930年前後に製作されたものですので、これらは本来「コレクタブル」というカテゴリーに属します。でも実際には、「アンティーク」と「コレクタブル」はよく混同されて使われていますね。
アンティーク・マーケットは世界中にありますが、ロンドンならではの魅力とその特色とは?
7つの海を支配したという大英帝国のパワーは計り知れないもので、世界各国からクオリティの高いもの、またクオリティの高いクラフト技術が英国に集まってきました。それを背景に、ロンドンのアンティークは高い評価を得て、世界中からディーラーたちが集う屈指のアンティーク市場を築き上げていったのです。またロンドンのアンティークの中でも、ビクトリアンのものは比較的日本人好みとも言われています。フランスの焼き物などは、ちょっと派手で華やかすぎるものが多く、日本の家庭に馴染みにくい傾向がありますから。
ビクトリアンと言えば、上流階級の人たちの間で、アフタヌーン・ティーが始まった時代ですよね。その特徴とは?
この時期のアンティークは優雅なデザインのものが多く、明るく華やかな雰囲気。加えてビクトリアンは過去の素晴らしいデザインをコピーしている時代で、デザイン的にも優れたものを輩出しています。例えば、クィーン・アン・スタイルを取り入れたカブリオレ・レッグ(猫足)の椅子などは女性的で繊細です。食器類なども、素朴で重厚なジョージアンに比べ、ビクトリアンには手が込んだ装飾が施されています。
アンティークを楽しむためのアドバイスをお願いします。
自分でマーケットやお店に足を運んで、手にとって実際触れて選んでほしいですね。店のオーナーから、そのアイテムにまつわる歴史的な話を聞くのも、アンティーク・ハンティングの楽しみですから。そして、手に入れた物は、ただ飾っておくだけではなく実際に使って欲しいです。そうすると、多少シミがあっても、キズがあっても、それが愛おしく感じてくる……。これがアンティークの良さだと思います。
7 Camden Passage, Islington London N1
Tel: 020 7226 5319(水・土のみオープン)
www.mikeweedonantiques.com
ご主人、マイクさんの専門はアール・デコとアール・ヌーボー。寿子さんはガラス、特に照明ガラスに詳しい。豊富な品揃えもさることながら、アンティークにまつわる興味深い話が日本語で聞けるのがうれしい。
アンティークのスペシャリストに聞く - ニックさん
スージー・クーパーに魅せられて
英国にも多くのファンを持つ、スージー。アルフィーズ・アンティー ク・マーケットの真ん前に店を構えるニックも、スージーの熱狂的信仰者の1人だ。
「スージーの陶器は、知れば知るほど深みにはまっていく。ボクにとっては一種の『アディクション』」とニック。「アルフィーズ」内に店を構えていたが、6年前独立した路面店をオープン。店の名前はズバリ「Susie Cooper Ceramics」だ。
「スージーのコンセプトは『日常使いの食器』。そこに彼女の魅力があると思う。同年代の人気作家クラリス・クリフの作品は、芸術的に素晴らしいとはいえ、色使いもビビッドでインパクトが強い。一方スージーの作品は、1930年代にデザインされたとはいえ、現代のライフ・スタイルにもしっくり溶け込む、タイムレスなフォルムを持っている。またティー・ポットなどは、紅茶が注ぎこぼれないように、独特のデザインが施されているんだ」。
そんなニックのパッションを体現すべく、店内にズラリとそろうスージーの陶器たち。まさにファン必見のスポットだ。
写真)ティー・ポットの注ぎ口に注目! デザイン的にもキュートかつ機能性も重視されている
18 Church Street, Marylebone NW8 8EP
Tel: 020 7723 1555
10:00-18:00 (日、月休)
www.susiecooperceramics.com