第265回 ロンドンのエスカレーターは右立ち左歩行
シティの北にある地下鉄エンジェル駅。エスカレーターの長さが61メートルもあり、英国最長です。ロンドンの地下鉄には右立ち左歩行の慣習があるので、もし混雑時にこのエスカレーターを左側から駆け抜けようとすると、かなりの時間と苦労を強いられます。そもそもロンドンのエスカレーターの右立ち左歩行の慣習はいつから始まったのでしょう。諸説ありますが、地下鉄に初めて導入されたころのシステム仕様に基づくという説が有力です。
英国最長のエスカレーター(エンジェル駅)
エスカレーターは1911年10月4日にロンドン西部アールズ・コート駅に機械式の自動階段が導入されて以降、主要な駅に次々と取り入れられました。エスカレーターの設計者は米国人チャールズ・シーバーガー氏で、製造は米オーチス社。当時の多くのエスカレーターは折り畳み階段の先方に仕切り壁があるため、横から乗り降りする仕様でした。また、手すりのベルトが右側にしかないものも多く、そのため利用者が右側に立ちました。さらに、第二次世界大戦で地下鉄が防空壕として使われた際、緊急輸送用としてエスカレーターの片側を空けておくことが求められました。実際に右立ち左歩行を勧めるポスターが貼られ、以来この慣習が今も続いています。
導入当時は横に降りる形だった
ロンドンのマナーは右立ち左歩行
2015年と16年には、混雑するロンドン中心部ホルボーン駅で、ある実験が行われました。それはエスカレーターの効率的な利用のため、利用者が左右両側に立ち、歩行は禁止するというものでした。実験の結果、ラッシュ時の混雑が3割も削減できたとロンドン交通局が発表しました。しかし、利用者から不平不満が出て、結局この案は実験だけにとどまりました。混雑を3割削減できるとしても、利用者の4人に1人といわれるエスカレーターを足早に駆け抜ける人たちが、行動の自由が奪われたと猛反対したからです。ゆっくり立つか、急いで歩くかは各人の選択の自由であり、それを制度的に阻むべきではないと考えられたようです。
両側に立つ方が効率的かつ安全なはず
一方、世界をみればエスカレーターのどちら側に立つかはその国の道路交通法に従うケースが多いようです。右ハンドルの国は追越し車線が走行車線の右側にあるため、エスカレーターも右側歩行ですし、逆に左ハンドルの国は左側歩行です。その例外がロンドンと大阪周辺エリア。大阪では1967年に右立ち左歩行が国際標準と思われて阪急電鉄の梅田駅で、そして1970年の大阪万博で励行されてこの習慣が定着したそうです。一度定着した慣習はなかなか変えることができないようです。
赤が左ハンドル国、青が右ハンドル国。エスカレーターの習慣とほぼ一致する
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