第148回 重力とグリニッジ本初子午線
シティのジムで体重を量ったら日本で量るより重かった、と友人が言っていました。英国料理はおいしいからね、と冗談を言うと「赤道付近は遠心力がより強く働くので、高緯度になればなるほど体重が重くなるのですよ」と真顔で言われました。地球の円周は約4万キロ、24時間で一回りするから、24で割れば地球は時速約1667キロで回転していることになります。戦闘機並みの速さで回るならその遠心力で体重も軽くなるような気もします。
青が弱く、赤が強い重力分布図
いやいや、そもそも地球の重力は世界各地で偏りがあるのです。近年、重力観測用の人工衛星を使って重力の強い地域と弱い地域を色分けした分布図が、米国航空宇宙局(NASA)によって発表されました。それによると、地球の内部で対流するマントル(岩石層)による重力や磁場の歪み、地表の遠心力や標高の違い、さらに地表にある大陸プレートの移動が原因で起こる地表の動きなどさまざまな要因で、重力の偏りが起きるそうです。
ここで思い出したのがロンドン郊外のグリニッジ天文台にある本初子午線のこと。グリニッジ本初子午線上にスマホのコンパスを当ててみると、驚くことに経度はゼロを示しません。実はグリニッジ天文台が計測した鉛直方向(錘を糸で下げた重力の方向)は地球の中心点から微妙にずれており、スマホ上のGPS(人工衛星による全地球測位システム)で測定された基準子午線はグリニッジ本初子午線から緯度で約5秒、直線距離で約102.3メートル東にあります。
グリニッジ本初子午線
本初子午線より約102m東にあるGPS上の経度ゼロ地点
グリニッジ天文台の測定方法に誤りがあったわけではありません。重力の影響を受けない人工衛星の測定で判明したことは、必ずしも地表で観測される鉛直方向が示す延長線上に地球の中心点がないことです。地球は南北より東西に長い楕円体、かつ重力に偏差があるため、重力のない宇宙から測定しないと地球の中心点を正確に測れないのです。
コンパスが経度ゼロを示すとうれしくなる
もともとグリニッジ天文台は中世の古城を再利用して造られたため、建物が南北方向に面しておらず天文観測に適していませんでした。そのため歴代の天文台長は最新の観測機材を導入しては改築を繰り返し、独自の子午線を敷きました。現在のグリニッジ本初子午線は7代目天文台長のジョージ・エイリーが使った子午環(望遠鏡)の中心線です。この中心線は大陸プレートの移動により毎年2センチずつGPSが示す基準子午線に近づいているそうです。計算上では5115年後に両者が一致します。さてその頃の世界はどうなっていますやら。
グリニッジ天文台は古城の再利用