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Wed, 27 November 2024

第36回 ブラックフライアーズ修道院

ブラックフライアーズ駅北向かいにあるパブ、「The Black Friar」は19世紀に建てられた建物ですが、かつて同地にあったブラックフライアーズ修道院(1278~1538年)をモチーフに作られ、店内には中世の雰囲気が漂います。修道院の名前は托鉢僧が黒衣を着用していたことに由来しますが、正式名称はドミニコ会です。シティが保有するこの絢爛豪華な修道院では幾度も国家行事が行われ、王政を補佐する枢密院も置かれていました。

修道院, モチーフ
修道院がモチーフのパブの入口

ドミニコ会は13世紀初めに南仏で創立され、トマス・アキナスなどの優秀な神学者を輩出するだけでなく、人を「癒す」薬作りにも注力していました。現存する世界最古の薬局、イタリアはフィレンツェの「サンタ・マリア・ノヴェッラ」は、この修道会が発祥です。一方、シティの修道院でも薬草が栽培され、また、胡椒商人ギルドが香辛料を輸入して薬品として販売していました。中世の英語「Spicer」は、薬局や薬剤師を意味しています。

修道院のプラーク
修道院のプラーク

16世紀の宗教改革でこの修道院は廃院されてしまいました。土地の一部は胡椒商人ギルドから独立したアポテーカリー(薬剤師ギルド)が購入し、ホールを建設。チェルシー薬草園を造り、処方箋せん薬局を全国に広め、20世紀末まで英国の家庭医=GP(General Practitioner)資格を審査しました。ワクチン開発者エドワード・ジェンナーはアポテーカリーの会員ですし、推理小説家アガサ・クリスティはここで薬剤師資格を取っています。

薬剤師ギルド・ホール
薬剤師ギルド・ホール。アガサ・クリスティはここで資格を取った

1529年には、この修道院のパーラメント・チェンバー(大広間)にローマ法皇の特使が派遣され、ヘンリー8世とキャサリン・オブ・アラゴンの離婚調停裁判が行われるという大きな事件が発生。ここは2人が顔を合わせた最後の場所となりました。修道院解体後の16世紀後半にはブラックフライアーズ劇場として再生され、後にシェイクスピア率いる国王一座も、夏はグローブ座、冬はこの劇場で彼の作品を多々演じるようになります。

離婚調停裁判
「離婚調停裁判」 の絵(作者不詳)

彼の作品「ヘンリー8世」もここで演じられたようです。つまり、離婚調停裁判から長年のときを経て、同じ場所で調停場面が再現されたことになります。残念なことにこの劇場は17世紀後半、清教徒革命で閉鎖されてしまいました。近くの公園、チャーチ・エントリーには一本の高木がそびえ立っていますが、まさにそこは修道院の尖塔が建っていた場所です。500年近く前、キャサリンが大広間から見た尖塔とこの高木が重なって見えるのは、寅七だけでしょうか。

修道院の尖塔
修道院の尖塔と同じ場所に立つ高木は天にも届きそう

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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